HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.8 (1987/1[083])

<国内情報>
今夏のエコー7型ウイルス分離状況−愛知県


 昭和61年夏期の愛知県におけるエコー7型ウイルス分離状況を 本情報7巻9号に報告したが,今回その続報としてほぼ発生が終息した時点で臨床的特徴を中心にまとめてみた。

 1) 月別分離状況が短期集中的であった:本年4月ごろから分離陽性例がみられるようになり,5月から激増したが,小中学校の夏休み入りとともに(?)激減,8月以降はほとんど陽性例はみられなくなった(表1)。

2) 臨床症状が多彩だった:表2にエコー7型ウイルス分離例の臨床診断名をまとめた。無菌性髄膜炎以外に発熱性発疹症(乳児の突発疹様のもの,幼児学童の風疹麻疹様のもの,幼児で数日間の発熱の後解熱し,その後再度発熱と同時に麻疹様の発疹をみたものなど様々であったが,水疱形成例はなかった),ヘルパンギーナ,咽頭結膜熱,上気道炎(強い咽頭発赤と39℃以上の発熱が数日持続し,一部のものにヘルパンギーナ様粘膜疹や結膜充血あり,いずれもエコー7型ウイルス陽性)などであった。ウイルス分離状況からは無菌性髄膜炎が最多となっているが,臨床医家からの情報では咽頭発赤の強い発熱疾患が多発し,その中に無菌性髄膜炎や発疹性の症状を呈して検査定点病院へ来院するものが多い印象とのことであった。

 3) 他のウイルスによる髄膜炎の混在はなく,単一の流行であった:表3にみられるように他のウイルスが分離された無菌性髄膜炎はほとんどみられなかった。

 4) エコー7型分離例は多かったが,無菌性髄膜炎の総数は増えていない:昨年同期の愛知県における無菌性髄膜炎の報告数と本年のそれを比較すると(表4),年長児にやや多い印象があるが,特に大発生がおこったとは思われない結果であった。

 5) エコー7型ウイルスばかりがめだち,その他のエンテロウイルスによる無菌性髄膜炎以外の疾患も少ない夏であった:表5に無菌性髄膜炎以外の疾患がエコー7型以外のウイルスで多発していたか否かを分離状況でまとめた。6月〜7月にCA2型ウイルスが一部地区のヘルパンギーナ例から散発的に分離されていることと,1月の施設内発生を含む発疹症(6月にも同一地区で少数散発例あり)からCA9型が分離されていることはあっても,その他にはエコー7型ウイルス以外のエンテロウイルス分離例はほとんどみられていない。

 6) 年齢的にみると非常に幅の広い流行であった:エコー7型ウイルスの分離された例の年齢分布を表6に示した。印象的であったのは新生時期の無菌性髄膜炎が多発したことと,発熱性発疹症,上気道炎,不明熱性疾患でエコー7型ウイルス分離陽性者が11歳以上成人にいたる層にまで分布していたことであった。

7) 実験室診断上,分離同定が容易なウイルスであった:分離に際しCPEの観察が容易で,増殖の良好なこと,中和による同定も容易であり,この数年間に経験した各エンテロウイルスの分離同定検査の中ではこの点からも印象的な事例であった。



愛知県衛生研究所ウイルス部


表1 月別エコー7型ウイルス分離状況
表2 疾患別エコー7型ウイルス分離数
表3 昭和61年1月−9月 愛知県定点無菌性髄膜炎ウイルス分離状況
表4 愛知県感染症サーベイランス事業 第14週(3月末)−40週(9月末)無菌性髄膜炎報告数
表5 昭和61年1月−9月における無菌性髄膜炎以外の主要疾患からのエンテロウイルス分離状況
表6 エコー7型分離陽性例年齢分布



前へ 次へ
copyright
IASR