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集計開始以来,厚生省感染症サーベイランス情報による感染性胃腸炎の週別発生状況は,乳児嘔吐下痢症と非常によく平行した動きを示し,毎冬期に流行を繰り返していたので,両者は共通の病原体すなわちロタウイルスによる感染が大きいウエイトを占めているとみられていた
(第9巻第5号参照)。
ところが,1988年春以降,この2疾病の発生パターンに差異がみられている。まず1988年春から夏にかけて感染性胃腸炎だけに一時的増加がみられた。その後秋は例年同様低レベルであったが,11〜12月に感染性胃腸炎の患者報告数が増加し,第50週は一定点当たり9.09とサーベイランス事業開始以来最高となった。これと対照的に乳児嘔吐下痢症のピークは過去最低で51週は一定点当たり2.16であった(図1)。
ブロック別比較のために1988年の感染性胃腸炎の患者報告数を四半期ごとに分け,第3四半期(ウイルス下痢症の流行閑期)の報告数に対する他の四半期の報告数の比を求め図2に示した。季節はずれに流行があった第2四半期は近畿,中・四国で増加がみられ,また,今季流行の第4四半期に特に増加がめだったのは関東甲信越,中・四国であった。さらに,第4四半期についてブロック別に乳児嘔吐下痢症に対する感染性胃腸炎の比をみると,1987,88年ともに関東甲信越が最も高く,また,1987年とくらべて1988年には北海道および九州・沖縄を除く各地でこの比がめだって上昇した(図3)。
1988年の感染性胃腸炎患者の年齢分布は5〜9歳が29.9%(1987年26.3%)を占めている。これを四半期ごとにみると,第3四半期までは前年と同程度だったが,第4四半期が特に増加し33.8%となった(図4)。
冬期に胃腸炎患者の便から検出される主なウイルスはロタと小型下痢ウイルスである。A群ロタウイルスは各種免疫学的検出キットによる検出が多数報告されるが,小型下痢ウイルスはすべて電子顕微鏡による検出報告である。さらに,電顕によればC群ロタウイルスやアデノウイルスも検出可能である。ここでは各ウイルスの検出状況を比較するために各流行時期別に便からのウイルス報告のうち,電顕による検出成績に限って表1に集計した。過去4シーズンの検出報告では,ロタが60〜65%,小型下痢ウイルスが23〜29%とほぼ一定していたのに対し,今季はロタの検出が少なく,小型下痢ウイルスの割合が72%にまで増大した(ただし,小型下痢ウイルスの検出報告の80%は東京都の報告である)(表2)。また,前季(88年4月)にはC群ロタの検出が増加した
(第9巻第8号参照)。
小型下痢ウイルス検出例の年齢は0〜4歳11.9%,5〜9歳24.8%,10歳以上15.6%,不明47.7%で(表3),年齢不明の多くは食中毒関連の成人例である(第10巻第3号参照)。今季の感染性胃腸炎の流行ピークにあたる11〜12月には前述した患者の年齢ピークに相当する4〜9歳からの検出が多い。過去のシーズンとの相違からみて,今季の感染性胃腸炎の流行は年長児を中心とした小型下痢ウイルスの流行が主と考えられる(図5)。
小型下痢ウイルス検出例の臨床症状は胃腸炎のみのものがほとんどで,ロタに比べて発熱を伴うものは少ない(表4)。
図1.感染性胃腸炎と乳児嘔吐下痢症患者発生状況(厚生省感染症サーベイランス情報)
図2.感染性胃腸炎患者発生状況,1988年(厚生省感染症サーベイランス情報)
図3.ブロック別患者発生状況(厚生省感染症サーベイランス情報)
図4.感染性胃腸炎患者の年齢分布,1988年
図5.電顕による便からの月別ウイルス検出状況 1987年8月〜1989年3月
表1.電子顕微鏡による便からのウイルス検出状況
表2.住所地別ウイルス検出状況 1988年8月〜1989年3月(電顕による便からの検出例)
表3.電顕で便からウイルスが検出された例の年齢分布 1988年8月〜1989年3月
表4.電顕により便からウイルスが検出された例の臨床症状 1988年8月〜1989年3月
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