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わが国のポリオは1960年の大流行を契機に1961年から導入された生ワクチン投与が効を奏し,1962年以後患者数が激減した。ポリオサーベイランス委員会で確認した定型ポリオ患者は表1のとおりである。
1970年以降に認定された定型ポリオ患者は合計36名で,これらすべてについてウイルス分離が実施され,28例から合計37株のポリオウイルスが分離された。このうち,予研における型内株鑑別試験で血清学的に非ワクチン様とされた株は,3型(1971年),2型(1977年),1型(1980年)の3株である。そのうち1977年に血清学的に非ワクチン様とされた2型株は,その後,フィンガープリント法による遺伝子分析でワクチン株と判定された例で,無ガンマグロブリン血症の幼児の腸管内でワクチン投与後長期にわたって増殖を繰り返す間に抗原変異をきたした例と考えられた。
非ワクチン株として,上記例とは別に,1984年に脳脊髄炎と診断された7歳の女児の咽頭ぬぐい液から1型株が分離され,血清学的に非ワクチン様,フィンガープリント法で野生株と判定された。これら非ワクチン株の感染ルートはつきとめられていない。
病原体検出情報システムによって報告された1980〜1989年8月のポリオウイルス検出数はヒトから926,ヒト以外の環境(河川水,下水)からは252である(表2)。月別にみると毎年春と秋のワクチン投与期に一致して分離されている(表3)ので,これらは生ワクチン由来株と考えられる。ヒト由来分離例の検体の種類をみると(表4),1型は鼻咽喉材料が便より多いのに対し,2型では便が鼻咽喉材料よりも多く,また,3型は鼻咽喉材料からの分離が他の型よりもめだって少ない。髄液からのポリオウイルスの分離は2型3例,3型2例に報告された。さらに,結膜充血のみられた急性上気道炎の女子(9ヵ月歳)の眼ぬぐい液から1型ウイルスが分離された(本月報10巻4号参照)。
ポリオウイルスを検出したヒトの年齢はワクチン接種年齢にあたる0〜1歳が大部分で,1,2型は0歳が1歳の2倍以上に対し,3型は1歳が0歳をわずかに上回っている。4歳以上は少なく,17歳以上からは検出されていない。0歳児の月齢別では集団接種の対象となる4ヵ月以上が多い(表5)。ポリオワクチン接種歴をみると(表6),1,2型の分離は1回接種者,3型はむしろ2回接種者に多く,これらの成績は1,2型ウイルスに対しては大部分初回投与で免疫を獲得するのに対し,3型は2回目の投与時に免疫を獲得する例が多いことを示唆している。
図1は1987年秋に流行予測事業で実施されたポリオ感受性調査の結果である。1型では10〜11歳,3型では8歳以上18歳以下で抗体陰性率がめだって高い。これは大部分ワクチン投与時免疫獲得率または獲得抗体価が低かった集団がそのまま年齢の高い方へシフトしているもので,わが国のポリオに対する免疫が全くワクチン接種に依存していることを意味する。
図2にWHOに報告されたポリオ患者発生状況を示した。隣接地域を含め海外における流行は依然として続いている。これらの状況をふまえ,公衆衛生審議会伝染病予防部会は,海外渡航者等がポリオワクチンの任意接種を受けられるようにすることが望ましいと答申している
(本月報9巻10号参照)。
表1.年次別定型ポリオ患者数 1962年〜1988年
表2.年別ポリオウイルス検出状況 1980年〜1989年
表3.月別ポリオウイルス検出状況 1980年〜1989年
表4.検体の種類別ポリオウイルス検出状況(由来ヒト)1980年〜1989年
表5.年齢別ポリオウイルス検出状況 1980年〜1989年
表6.ポリオワクチン接種歴
図1.年齢別ポリオ中和抗体陰性率(昭和62年度流行予測感受性調査成績)
図2.地域別ポリオ患者発生率報告数(WHO)1974〜1988年
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