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伝染病統計による赤痢患者の発生は,近年減少を続けているが,内容的には細菌性赤痢の減少傾向と,アメーバ性赤痢の増加傾向がうかがえる(表1)。1989年の赤痢患者を感染地域別にみると,細菌性赤痢の66%,アメーバ性赤痢の20%が国外の感染であり,前者の90%,後者の80%がアジア地域での感染であった(表2)。地研・保健所集計による赤痢菌の月別検出状況によると,検出のピークは12〜3月にみられることが多く,ソンネ赤痢菌検出のピークと一致していた。これはソンネ赤痢菌による国内の集団発生を反映しているものと思われる(図1)。1989〜1991年5月の「流行・集団発生に関する情報・速報」によると,この期間の赤痢集団発生はソンネ赤痢菌によるものが主流で,12〜3月に多発している。また,社会福祉施設,精薄施設などでの発生がめだった(表3)。ソンネ赤痢菌による赤痢は比較的症状が軽いため,風邪や感染性胃腸炎の多発時期と重なった場合は,初発患者の発見が遅れ,発生が拡大する傾向にある
(本月報Vol.10,No.8 &
Vol.12,No.6参照)。
表4に1989年および1990年に地研・保健所と13都市立伝染病院で検出された赤痢菌の群別検出数を示した。1989年に地研・保健所で検出されたボイド赤痢菌26のうち16(うち輸入例2)は愛媛県の集団事例
(本月報Vol.10,No.7)が占めたため,輸入例の割合が低かったものの,地研・保健所集計では志賀赤痢菌およびボイド赤痢菌は輸入例から主に検出され,ソンネ赤痢菌は国内例からの検出が多かった。一方,都市立伝染病院集計ではすべての群で輸入例の割合が高かった。
1990年に都市立伝染病院に入院した細菌性赤痢患者の年齢分布と臨床症状を表5および6に示した。国内例では14歳以下が40.4%で,20〜39歳の29.8%を上回ったが,外国由来株では20〜39歳が79.2%を占めた。混合感染事例を除いた細菌性赤痢患者の主な臨床症状を国内例と外国由来例について比較したところ,外国由来例は国内例にくらべて軽症の傾向がうかがわれた。外国由来例は国内例にくらべてわずかではあるがソンネ赤痢菌の検出率が高く(72%:66%),フレクスナー赤痢菌の検出率が低い(22%:32%)ことによるのか,あるいは患者の年齢構成の差によるのか今後の検討が必要である。
1989年および1990年に都市立伝染病院で分離された赤痢菌の薬剤感受性試験成績を表7に示した。輸入例から,ピリドンカルボン酸系の薬剤であるノルフロキサシン耐性株が検出されていることが注目される。
表1.赤痢患者数の年次別推移
表2.感染地別赤痢患者数,1989年
図1.月別赤痢菌検出状況(地研・保健所集計)
表3.赤痢発生事例 1989年1月〜1991年5月(速報)
表4.群別赤痢菌検出状況
表5.細菌性赤痢患者の年齢分布(都市立伝染病院,1990)
表6.細菌性赤痢の臨床症状(都市立伝染病院,1990年)
表7.伝染病院において分離された赤痢菌の薬剤感受性試験成績(1989−1990年)
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