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Vol.13 (1992/1[143])

<特集>
サルモネラ


 近年,先進諸国においては伝染病の減少と対照的に,食中毒の発生とくにサルモネラ食中毒の増加傾向が指摘されるようになった。とりわけ1980年後半から世界的な流行となったサルモネラ−エンテリティディスは,わが国でも1989年に急増し (本月報Vol. 11,10,1990参照), 今なお流行が続いている。平成2年食中毒統計によると,サルモネラ食中毒は事件数,患者数とも前年に引き続き腸炎ビブリオに次いで2位であった(表1)。

 病原微生物検出情報で取り扱う病原菌のうち,地研・保健所において最も多く検出されるのはサルモネラで,1990年には全報告数(13,794)の34.4%を占めた。地研・保健所報告によるサルモネラのヒトからの検出総数は1982年(4,933)から1986年(3,384)まで減少を続けていたが,1987年4,023,88年4,497,89年5,600,90年4,762と再び増加傾向に転じた。

 1985年から1990年の地研・保健所集計による月別検出状況は,7〜9月にピークをもつ夏季多発のパターンを繰り返す(図1)。サルモネラの分離が夏に増加するのは本菌による食中毒の発生が夏に集中するためである。

 表2にわが国におけるサルモネラの集団発生件数を規模別,月別に示した。1989年から1991年1月〜10月までの,わが国における月別発生件数は,7月21件(12%),8月36件(21%),9月56件(33%)で,この3ヵ月間の発生は総件数170の66%を占めた。サルモネラ食中毒の発生規模は,1982年〜1987年に比べて1989年〜1991年は大型化の傾向がみられた。原因菌型は,1982〜87年はS. Typhimurium,次いでS. Litchfieldが主流であったが, 1989〜91年はS. Enteritidisが最も多く検出され,S. Typhimuriumの検出数を大幅に上回った (本月報Vol. 9,bV,1988参照)

 図2に上位に検出されるサルモネラ血清型の年次推移を示した。S. Enteritidisの検出数は1989年に急増し,引き続き1990年も検出サルモネラの1位を占めている。1990年にわが国でヒトから分離され,血清型別されたサルモネラ4,762のうち,上位15血清型が3,350(70.3%)を占めた(図3)。群別では,特にO9群およびO7群の高率が注目される。血清型別ではS. Enteritidis(21.1%),S. Thompson(8.2%),S. Typhimurium(6.8%),S. Hadar(6.5%)等が上位を占めた。

 O9群サルモネラの月別検出数を図4に示した。O9群すなわちS. Enteritidisの流行は1989年,1990年に引き続き1991年も治まっていないことが明白である。

 ヒトおよび食品,動物,環境等から分離されたS. Enteritidisのファージ型分布を表3に示した。わが国では1988年以前は8型が主流であった。しかし,1989年に34型の流行が突発し,1990年,91年と引き続いている。また,ヒトでは1990年には4型(51.3%)が34型を上回る規模で発生し,91年(47.4%)に引き継がれている。34型,4型ともに鶏卵との関連が示唆されており,引き続き警戒が必要である。



表1.1990年の食中毒発生状況
図1.サルモネラの年別月別検出数 1985年〜1990年(地研・保健所集計)
表2.サルモネラの集団発生(患者数10名以上)
図2.サルモネラ上位血清型検出数の推移(1982〜1990年)
図4.O9群サルモネラの月別検出数
図3.1990年サルモネラ上位15血清型
表3.国内におけるS. Enteritidisファージ型分布(1991年10月15日受理分までの結果・予研ファージ型別室)





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