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ライム病は,川端らが我が国における初発症例(1986年)を報告して以来,種々材料から本症の病原体であるボレリア(Borrelia burgdorferi)の検索が試みられている。これまでに,これらからの検出報告は,マダニおよび野生動物についてのみであった。しかし最近,宮本ら
(本月報Vol. 13,bU,1992)
は,北海道における患者からのボレリアの検出例(5事例,1990および1991年)を報告した。現在までに,北海道以外での患者からの検出報告例は見当たらない。
私たちは1989年から患者(疑いも含む)血液からのボレリア検出を試みたが,いずれも検出されなかった。そこで,1992年から遊走性紅斑(以下EMと略す)の皮膚組織の培養も加えて検出を試みた結果,2名の患者からボレリアを検出したので,その概要を紹介する。
1992年は10名の被験者があり,検体は血液が3例,EM辺縁部組織6例およびマダニ刺傷部と血液1例であった。検体の採取は,あらかじめ医療機関へ送付しておいたBSKU培地(RFP30μg/ml含有)にそれぞれの検体を無菌的に採取し,当所へ送付願った。培養は30℃で行い,ほぼ1週間ごとに暗視野顕微鏡によりボレリアの確認を行った。B. burgdorferiの確認は,モノクローナル抗体H5332により行った。なお,血清抗体価の測定もB31株を抗原としたIF法により併せて行った。
EMからB. burgdorferiが検出されたライム病患者2名の経過を表に示す。患者2名はいずれも山地(標高それぞれ約1,600m,1,800m)を散策した際にマダニ刺傷があったと思われ,典型的なEMは出現したが,他のライム病を疑う臨床症状は少なかった。症例1の患者はマダニ刺傷のあった部位以外にもEMを認めたが,二次的EMなのか,この部位にもマダニ刺傷があったのかは不明であった。両者共にミノマイシン投与により約1週間後にEMは消退した。
EM辺縁部の生検からのボレリア検出は,それぞれ培養16日目,22日目に確認され,マダニからの検出例とほぼ同様な傾向であった。2例共に雑菌汚染があり,動物接種による純培養化を試みている。また,分離菌株を抗原として,患者血清抗体価の測定も準備している。B31を抗原として血清抗体価を測定したが,症例1では最高40倍,症例2では10倍以下といずれも有意の抗体上昇は認められなかった。分離菌株は,いずれもH5332に反応し,B. burgdorferiと確認されたことから,両患者はライム病と診断された。
以上,EMからのボレリアの検出例を紹介したが,ライム病の診断には,この様にボレリアの検出が最も有効な方法と思われる。しかし,培養に長期間を要することから,PCR法などの迅速診断の開発が望まれる。今後,該菌およびマダニ分離菌株などを用いて,長野県における流行菌株の検討を試みたい。
長野県衛生公害研究所 村松 紘一,山岸 智子
マダニ刺傷患者からのボレリアの検出症例
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