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わが国におけるVibrio cholerae O139によるコレラ様患者の発生事例は埼玉県において報告
(本月報Vol.14,No.6,1993)
されているが,長野県でも該菌による同様の事例が確認されたので,その概要を紹介する。
患者はネパール人(男性,28歳)であり,旅館業の研修のため,同僚4名と共に7月10日にネパールを出国し,7月11日に訪日した。7月10日から下痢などの症状があり,7月12日になり症状が激しくなったので,松本市内の医療機関を受診し,疑似コレラと診断された。受診時の臨床症状は,水様性下痢(いわゆる米のとぎ汁様),嘔吐,脱水症状およびショック状態であり,典型的なコレラの症状であった。細菌検査の結果Vibrio choleraeおよびPlesiomonas shigelloidesが検出された。検出されたVibrio choleraeは,コレラ菌免疫血清およびコレラ菌モノクローナル抗体には凝集しなかったため,Vibrio cholerae non-O1と同定した。その後,O抗原の型別を行い,O139であることが判明した。更に,該菌はCT geneを保有し,コレラ毒素を産生し,インドおよびバングラデシュ流行菌株と同一と思われた。しかし,長野県分離菌株はO/129およびST合剤に感受性であり,インド等の分離菌株とはやや性状が相違していた。その他の生化学的性状はVibrio choleraeと同一(マンノースは陽性)であり,薬剤(ABPC,SBPC,CER,CEZ,CPZ,SM,KM,GM,CP,TCおよびNA)にはすべて感受性であった。患者はその後,軽快し退院した。なお,同僚4名は症状もなく,該菌も検出されなかった。
海外旅行者が増加している現状から,本事例のごとく該菌のわが国への侵入が予測されるため,さらに監視の強化に努める必要がある。
長野県衛生公害研究所
村松 紘一,山岸 智子
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