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Vol.14 (1993/10[164])

<特集>
Vero毒素産生性大腸菌,1992.1〜1993.7


 Vero毒素産生性大腸菌(VTEC)は,激しい腹痛と血性下痢を主徴とする出血性大腸炎の起因菌で,溶血性尿毒症症候群(HUS)を併発する。わが国では1990年に,本菌による集団下痢症で,患者319名のうち2名の幼稚園児がHUSで死亡し,多数の重症患者が発生したため注目されるようになった (本月報Vol.13,No.10,1992)。 この事件を契機に病原微生物検出情報では,病原大腸菌のVero毒素(VT)産生性を指標としたVTECの検出情報収集を開始した。本報告は1992年1月から1993年8月30日までに病原微生物検出情報事務局に報告されたVTECのまとめである。

 1992年1月〜1993年7月に,30の地方衛生研究所で147のVTECが検出された。散発事例から検出された68例を表1に,集団発生事例から検出された79例を表2に示した。集団発生7件のうち4件は家族内発生,3件が施設での発生で,7件の原因菌はすべてVT1およびVT2を産生するO157:H7であった。事例1の保育園の集団発生では,保菌者を含む16名から菌が検出され,2名がHUSを併発した (本月報Vol.14,No.3,1993)。 事例7は1993年6月末から7月半ばにかけて東京都の小学校で発生した事例で,学童および患者家族等52名から同一菌が検出された。本事例では患者の症状は比較的軽く,HUS併発の報告はなかった。

 VTECの月別報告状況から,本菌による下痢症は夏季多発のパターンを示すことが明らかになった。また,1991年4月のO111:H−による集団事例 (本月報Vol.12,No.7,1991), 同年6月のOUT:H19による集団事例 (本月報Vol.13,No.7,1992) を除くと,ほとんどがO157の発生で占められた(図1)。

 VTECが検出された症例の年齢分布は8カ月〜78歳にわたった。特に若年層で多発傾向がみられ,1歳以下11%,2〜5歳19%,6〜15歳49%であった(図2)。HUSの発生も低年齢層に多く,12名中8名(67%)が3歳以下であった。他に7歳,12歳,25歳の各1名が報告された。VTEC検出症例の性比は1:1.6で,散発例(22:46),集団発生例(35:44)ともに女性の検出例数が男性の検出例数を上まわった。

 VTECの血清型,毒素型および検出例の主な臨床症状を表3に示した。147株のうち143株(97%)が血清型O157で,特にVT1およびVT2を同時に産生するO157:H7が85%を占めた。その他の血清型は4株(3%)のみで,O18,O26,O128およびOUTの各1株が報告された。VTEC検出症例のうち血便は48例(33%)に,HUSは12例(8%)にみられた。

 Vero毒素の検出および型別には,Vero細胞のCPE,PCR法,ラテックス凝集反応(RPLA),ELISA法等の単独あるいは組合せが用いられた(表4)。わが国ではPCR法およびVero細胞のCPEが多く用いられており,それぞれ報告数の92%および84%を占めた。最近開発されたRPLA法による報告も45%に達しており,検出株の97%(142株)で毒素型が判明した。

 一方,わが国では散発,集発を問わずほとんどの事例で感染経路の特定がなされていない。今後は原因究明を踏まえた対策の強化が望まれる。



表1.VTEC散発情報 1992年1月〜1993年7月
表2.VTECによる集団発生情報 1992年1月〜1993年7月
図1.Vero毒素産生性大腸菌月別報告状況(1991年1月−1993年7月)
図2.Vero毒素産生性大腸菌O157が検出された症例の年齢分布(1992年1月−1993年7月)
表3.Vero毒素産生性大腸菌の血清型,VT型,主な臨床症状(1992年1月〜1993年7月)
表4.Vero毒素の検出方法と検出された毒素型







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