|
日本の1992/93シーズンのインフルエンザの流行はA香港(H3N2)型とB型の混合流行で,患者数,ウイルス検出数ともに大きく増加し,1991/92シーズンに主流を占めたAソ連(H1N1)型が全く姿を消したことが特徴である。
感染症サーベイランスによる1992/93シーズンのインフルエンザ様疾患患者報告数は一定点当たり276人(1992年第35週〜1993年第34週までの累計)で,1991/92シーズンの125人の2倍以上に増加し,1989/90シーズンの256人を上回って,過去6シーズンでは最高であった。患者報告は1992年第50週から増加し始め,1993年第4週をピークとして3月末まで引き続いた(図1)。
インフルエンザ様疾患発生報告(厚生省エイズ結核感染症課)は学校等において集団発生による休校,学年閉鎖,学級閉鎖の措置がとられた際の患者数を集計している。この集計によると,1992/93シーズンの約3倍,過去6シーズンでは1989/90シーズンに次いで多かった。
病原微生物検出情報に報告された1992/93シーズンのインフルエンザウイルス検出数は情報収集開始以来の最高数となった。1980/81シーズン以後最も早い場合9月から検出報告が始まっているので,9月1日〜翌年8月31日をウイルス検出シーズンとして集計すると,本シーズンはA香港型が2,293株,B型が2,251株でそれぞれの報告数も過去最高であった(表1)。A香港型は4シーズン連続,B型は2シーズンぶりの流行である。
月別にみると,1992年1月以降7月までごくわずかに検出されていたB型がまず10月に検出され,以後2月をピークとして5月まで報告された。一方,A香港型は1992年5月を最後に6月〜10月は検出されなかったが,11月から検出され始め,1月に急増してピークとなり4月まで検出された。Aソ連型は1992年4月以降検出されていない(表2)。
報告機関別にみると,B型は10月に大分で7株,11月に7機関で34株が検出された後全国に広がったが,各機関の検出のピークは異なる(表3)。これに対し,A香港型は11月に4機関で各1株が検出された後,12〜1月に関東,東北から全国に広がった。ほとんどの地域は1月が検出のピークであった(表4)。
インフルエンザウイルス分離例の年齢をみると,B型では5〜9歳が43%と最も多く,0〜4歳25%,10〜14歳21%,15歳以上12%であった。A香港型では前3シーズンは10〜14歳が33〜52%を占め最も多かったが,1992/93シーズンは5〜9歳が39%と最も多く,0〜4歳25%,10〜14歳25%,15歳以上12%であった(図2)。
インフルエンザウイルス分離例の臨床症状は例年同様,主に発熱(A香港型分離例の92%,B型分離例の90%),上気道炎(70%,62%),胃腸炎(12%,8.9%),下気道炎・肺炎(9.2%,6.0%),関節・筋肉痛(9.6%,8.1%)が報告された。なお,本シーズンはこの他に少数であるが髄膜炎(A香港型3例,B型4例),脳炎/脳・脊髄炎(1,1),脳症(1,1),小脳失調症(0,1),麻痺(1,0)といった中枢神経系疾患の診断名または症状が記載された例,および肝炎(2,2),腎炎(2,0)の報告があった
(本月報Vol.14,No.7,1992および
本号参照)。
予研ウイルス第1部で実施した1992/93シーズン分離株の抗原分析および分子進化学的解析の結果に基づいて,1993/94シーズンのワクチン株には1992/93シーズン中盤から出現したA香港型の変異株のA/北九州/159/93(H3N2)が新たに加えられ,A/山形/32/89(H1N1)が1990/91シーズン以降4シーズン,B/バンコク/163/90が1991/92シーズン以降3シーズン続けて使用されている<(本月報Vol.14,No.7,1992および
本号参照)。
1993/94シーズンについては,まだウイルス検出報告はない(1993年12月8日現在)。
図1.インフルエンザ様疾患患者報告数の推移,1987〜1993年(感染症サーベイランス情報)
表1.検出シーズン別インフルエンザウイルス検出報告数(1980年9月〜1993年8月)
表2.月別インフルエンザウイルス検出報告数(1991年11月〜1993年5月)
表3.月別報告機関別インフルエンザウイルスB型検出報告数(1992年10月〜1993年5月)
表4.月別報告機関別インフルエンザウイルスA香港型検出報告数(1992年10月〜1993年5月)
図2.インフルエンザウイルス検出例の年齢分布
|