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Vol.15 (1994/4[170])

<特集>
腸チフス・パラチフス 1992〜1993


 腸チフスおよびバラチフス患者発生の際,都道府県の衛生部は厚生省に発生を報告し,患者および保菌者から分離されたチフス菌あるいはパラチフスA菌を国立予防衛生研究所(予研)に送付することが義務づけられている。予研細菌部外来性細菌室では送付菌株のファージ型,薬剤感受性等を検査し,結果を都道府県へ還元する。本報告は厚生省への発生報告,送付菌株から得られた実験室由来情報等をもとに,1992年および93年の発生状況を解析したものである。

 1992年の腸チフス発生数は76(輸入例28)で,わが国では初めて100以下の発生を記録したが,パラチフス発生数は29(輸入例8)で例年並みであった。1993年は腸チフス126(輸入例42),パラチフス44(輸入例19)が報告され,前年を大幅に上回った(表1)。

 近年,腸チフス・パラチフス発生数の減少に伴って輸入例の割合が高くなり,わが国の腸チフス発生の特徴であった冬期多発傾向が失われていた。しかし,チフス菌,パラチフスA菌の月別検出状況から明らかなように,1992年12月〜93年4月には腸チフスの,1993年12月〜94年1月にはパラチフスの国内例による冬期流行が確認された(図1)。

 1992/93年冬期に多発した腸チフスは,東京都,千葉県,神奈川県など関東8都県で患者数は49に達した。分離されたチフス菌49株のファージ型はすべてM1であった (本月報Vol. 14,bR参照)。 本流行では患者の発病から診定までに平均18日を要しており,過去の平均診定期間14日 (Vol. 13,10特集参照) を4日上回った。診定までに30日以上を要した患者は25%を占め,うち1名は発病から65日目に腸チフスと診定された。インフルエンザの流行期と重なったため,高熱を主徴とする腸チフスの診断が遅れたものと思われる。本流行は患者に渡航歴がない,比較的若年齢層である(19歳以下が44%),家族内発生がない,患者間に接点がみられない等,従来の国内流行と様相を異にし,感染源の究明はできなかった。

 1993/94年冬期にはパラチフスが多発し,12〜1月の患者数は34に達した。本流行はパラチフスA菌ファージ型1型(12例)および2型(22例)の混合であることが判明した。わが国では従来1型の検出が優位であり2型は輸入例からの検出が多く,1985〜1991年には2型の検出数36中30(83%)が輸入例であった。しかし,本流行では2型および1型が検出された全例に海外渡航歴がなく,国内で罹患したことが判明した。現在,発生地の衛生部局により感染源の追究が続けられている。

 わが国では腸チフス・パラチフス患者のほとんどが細菌学的に診断され,分離菌が予研に送付される。1992〜93年には腸チフス患者・保菌者202例中196例(97%),およびパラチフス患者・保菌者73例中70(96%)からの分離菌が送付された。表2はチフス菌の,表3はパラチフスA菌のファージ型分布である。この期間に検出されたファージ型は,チフス菌で19種,パラチフスA菌で5種であった。

 1992〜93年の腸チフスおよびパラチフスの年齢別発生数を図2に示した。両疾患とも20〜29歳の年齢群の発生が多かった。その他腸チフスでは10〜19歳,パラチフスでは30〜39歳および40〜49歳に患者の発生が多くみられた。冬期流行の患者の多くがこの年齢群に含まれたための影響であろう。

 わが国における多剤耐性チフス菌の検出状況を表4に示した。1967〜1981年の6株は,いずれも国内で罹患した回復期患者から分離された。一方,1983〜1993年の多剤耐性チフス菌32株中28株(88%)は海外で罹患した急性期患者から分離された。1992〜1993年に検出された10株中9株は輸入例からで,6株がファージ型E1, クロラムフェニコール,テトラサイクリン,ストレプトマイシン,アンピシリン,スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤の5薬剤耐性チフス菌であった。いずれもインド亜大陸からの帰国者から検出されており,この地域における本菌の流行が推察された。これら患者はいずれもピリドンカルボン酸系薬剤の投与で治癒した。



図1.月別チフス菌・パラチフスA菌検出状況 1985年1月〜1994年1月
表1.わが国の腸チフス・パラチフス発生状況(1974−1993年)
表2.チフス菌のファージ型分布(1992年,1993年)
表3.パラチフスA菌のファージ型分布(1992年,1993年)
図2.腸チフス・パラチフス患者の年齢分布(1992〜1993年)
表4.多剤耐性チフス菌の出現状況





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