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Vol.15 (1994/9[175])

<特集>
ムンプス 1982〜1994


 ムンプスウイルス感染は耳下腺炎を主症状とするが,髄膜炎,睾丸炎,膵臓炎など各種臓器に多彩な病変を起こす。その反面,不顕性感染が多いことも特徴である。流行性耳下腺炎は臨床診断が容易なため,患者発生数の割にはウイルス分離検査が行われることが少ない。ムンプス髄膜炎も耳下腺腫脹を伴う場合は臨床診断が容易であるが,髄膜炎の症状のみの場合はエンテロウイルス等,他の病原ウイルスとの鑑別のため,ウイルス分離が必要とされる。

 感染症サーベイランス情報による一定点当たり流行性耳下腺炎患者報告数は,1989年の流行までは3〜4年周期で増減していたが,1991年に最も減少した後はゆるやかな増加傾向が続いており,1994年第7週以後,第29週現在まで1.0以上のレベルを保っている(図1)。

 患者の年齢構成は,1989年まではほとんど変わらず1〜4歳が48〜50%であったが,その後,2,3,4歳の各年齢が減少して1〜4歳は40%となり,5〜9歳と10〜14歳が増加している(図2)。

 地域別の患者報告数は,1985〜86年の流行では東北から近畿で1985年に増加し,北海道,中国・四国ブロック以西では遅れて1986年にピークとなった。1989年の流行ではほぼ全国的に一斉に増加した。1994年は第26週の時点で青森,新潟,山梨,徳島,宮崎,沖縄などで増加している(図3)。図3では地域ごとの患者把握率の差による偏りを除いて地域間の比較をするため,各地域の毎年の患者報告数の変動が少ない突発性発疹患者報告数で流行性耳下腺炎患者報告数を割った比を用いている。

 わが国では,1981年2月からおたふくかぜ単味生ワクチンの任意接種が行われていたが,1989年4月から麻疹ワクチンの定期接種の際に,代わりに麻疹・おたふくかぜ・風疹混合(MMR)生ワクチンを使用することが可能となった。

 厚生省伝染病流行予測調査では1990,91,92年の3回,麻疹感受性調査対象者のMMRワクチン接種歴を集計している(表1)。1992年には2〜6歳の約16%がMMRワクチンを接種していた。1990年以後の流行性耳下腺炎患者報告数増加の鈍化(図1)および患者年齢構成の変化(図2)はMMRワクチン接種の効果を反映していると考えられる。

 しかし,ワクチン接種後の無菌性髄膜炎の発生が問題となり,1989年から,ワクチン接種後2ヵ月以内に無菌性髄膜炎を起こした患者の髄液から分離されたムンプスウイルスについて,ワクチン由来株であるかどうかの株鑑別が,予研で行政検査として行われている (本月報Vol. 10,12)。 1993年4月以降,MMRワクチン接種は一時見合わせとなっている (本月報Vol. 14,bU参照)。 中止までの4年間のMMRワクチン被接種者数は約180万人,また,同期間に出荷されたおたふくかぜ単味ワクチンは約150万人分であった(丸山ら,臨床とウイルス,Vol. 22,bP,77-82,1994)。

 病原微生物検出情報への報告では,1982年1月〜1994年6月に1,859株のムンプスウイルスが分離された(1994年8月24日現在報告数)。分離材料は髄液947,鼻咽喉材料941,尿10,便2で,髄液からの分離が多いことが特徴である(異なる検体から重複して分離された例を含む)。月別報告数を図1に示した。

 分離報告個票に,MMRまたはおたふくかぜ単味ワクチン接種後にウイルスが分離されたことが付記されていた例(以下ワクチン関連例という)が1985年1,1989年51,1990年116,1991年142,1992年37,1993年13,1994年3,合計363含まれていた(図1)。分離材料は髄液352,鼻咽喉材料18,尿2であった。このうち髄膜炎が報告された患者は346例で,ワクチン被接種者の年齢を反映して1歳が最も多く56%を占め,5歳以上は少なかった(図4)。

 上記ワクチン関連例を除く1,496の報告中1,061に臨床診断名の記載があり,流行性耳下腺炎540,髄膜炎449,脳・脊髄炎10,その他62であった。ウイルス分離例の年齢は流行性耳下腺炎患者は3〜6歳が65%を占めるのに対し,髄膜炎患者は1歳と5歳をピークとする2峰性に分布していた(図4)。髄膜炎患者で唾液腺腫脹(耳下腺腫脹を含む)を伴っていたのは11%であった。



図1.流行性耳下腺炎患者報告数(感染症サーベイランス情報)とムンプスウイルス月別検出数の推移
図2.流行性耳下腺炎患者の年齢分布,1982〜1994年(感染症サーベイランス情報)
図3.都道府県別流行性耳下腺炎患者発生状況−流行性耳下腺炎対突発性発疹患者報告数の比−(感染症サーベイランス情報)
表1.麻疹感受性調査における年齢群別ワクチン接種歴
図4.ムンプスウイルス分離例の年齢(1982年1月〜1994年6月)





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