The Topic of This Month Vol.19 No.6(No.220)


腸管出血性大腸菌(Vero毒素産生性大腸菌)感染症 1996〜1998.4

腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC、あるいはVero毒素産生性大腸菌:VTEC、志賀毒素産生性大腸菌Shiga toxin-producing E.coli:STECとも呼ばれている)による感染症は、1990年の本菌による集団下痢症により患者 319名のうち2名の幼稚園児が溶血性尿毒症症候群(HUS)で死亡する事件(本月報Vol.13、 No.10参照)を契機に注目され、EHECの検出情報の収集が開始された。1991〜1995年までは、年間の検出数が100前後であったものが1996年5月以降、血清型O157を中心に爆発的に増加した。

厚生省食品保健課によると、O157に感染したと推定される患者数は、1996年は17,877名、1997年1,576名、1998年は5月8日現在100名となっている。1996年以降のO157:H7による食中毒事例で有症者数10名以上のものを表1に示す(本月報Vol.18、No.7も参照)。1996年に小学校、保育園、老人ホーム等で多発した集団事例は、給食が汚染原因と推定されるが、その中で岐阜市のサラダ、盛岡市のサラダおよびシーフードソース、帯広市のサラダから菌が分離され、汚染原因食品が特定された。また、堺市の事例では疫学調査からカイワレ大根が汚染原因食品として推定された。1997年の事例では、柏市でメロン(本月報Vol.18、No.12)、伊勢崎市ではマグロの血合(本月報Vol.19、No.3)、岡山市では日本そばから菌が分離された。これらの食中毒事例から分離された菌は、すべて血清型O157:H7で2事例を除いて17事例すべてVT1&VT2 であった。

また、XbaI制限酵素切断後のパルスフィールド電気泳動(PFGE)による遺伝子型別から、1996年の事例から分離された菌と同一パターンを示す菌による食中毒事例が1997年にも発生していることが明らかになった(表1)。6月下旬の岡山市の病院で発生した事例では、患者と給食の日本そばから分離された菌が、1996年の広島県東城町の事例で分離された菌と同じPFGE Ia型を示した。さらに、散発事例においても、1997年3月に関東南部および東海地域において発生した、時間的・地理的集積性が認められた事例では、1996年の堺市等で発生した集団事例由来株と同じPFGE IIa型を示し、ファージ型も同じ32(本号3ページ参照)であった。

病原微生物検出情報に報告されたEHEC検出状況を図1に示す。1991〜1995年までは毎年100前後の検出報告数であったが(本月報Vol.17、No.1)、1996年には3,022、1997年には1,959と増加した。1996年の爆発的な増加は小学校において多発した集団事例を反映するものであるが、1997年では小学校での集団事例は発生せず、集団事例そのものの数も減少した(表1)にもかかわらず、依然として検出報告数が多かった。これは、家族内感染事例を主とした散発事例の増加によるものであり、病原微生物検出情報に報告された家族内感染事例数は、1991〜1995年まで毎年数事例であったものが1996年には106事例、1997年には199事例に増加している。

検出されたEHECの血清型および毒素型を表2に示した。最も多く検出される血清型はO157:H7であり、1996年は76%(2,309/3,022),1997年は67%(1,319/1,959)で、1998年(4月末現在)は79%(67/85)となっている。次いで、O26:H11は1991〜1995年まで1.5%、1996年が3.4%、1997年は13%にまで増加したが、1998年は4月末現在まだ報告されていない。non-O157で、その他に分離頻度の高い血清型は、O26:H-、O26:HNT、O111:H-、O111:HNTなどがあり、1996年にはO118:H2が増加したが(本月報Vol.17、No.10)、1997年には分離されなかった。O157:H7の毒素型をみると、1996年には87%がVT1&VT2の両毒素を保持していたが、1997年は67%に減少し、1998年は61%に留まっている。一方、VT2のみを保持する分離菌は、1996年13%、1997年31%、1998年39%と増加している。その他の血清型では、VT1単独の傾向を示す。

EHEC検出症例の年齢分布を見てみると、15歳以下が1995年以前では86%であったものが(本月報Vol.17、No.1)、1996年には76%(本月報Vol.18、No.7)、1997年には54%にまで減少した(表3)。一方、無症状者の比率は、1996年に15歳以下では 23%、16歳以上で33%であったものが(本月報Vol.18、No.7)、1997年にはそれぞれ、 23%、53%となった(表3)。したがって、EHEC感染が必ずしも若年層に限られない傾向が続いているものの、有症率は若年層が高い傾向にある。

1996年10月、佐賀県において、患者発生施設の内外で採集されたイエバエから、患者と同じ血清型・毒素型のO157が分離された。これをうけて、1997年には感染研を中核として、O157保有バエの全国調査が実施された。調査された15道府県のうち8道府県(北海道、東北、関東、中部、九州・沖縄の各地区)でO157保有バエが広く確認された。15地区での調査地点総数はのべ217地点に及び、そのうちの15地点(牛舎、屠畜場)でO157等保有バエが確認された。この15地点における採集バエ数に対するO157等保有バエ数の割合(O157等保有率)は7.2%であった(本号4ページ参照)。

本年に入ってからのEHEC検出例数は、4月まで比較的少なく推移しているが、5月に入ってからやや報告例が増えている。O157に関しては上記のごとくハエ類による伝搬が指摘されており、これから夏場にかけてさらなる警戒が必要である。

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