The Topic of This Month Vol.21No.9(No.247)


レジオネラ症 1999.4〜2000.7
(Vol.21 p 186-187)

レジオネラ症はレジオネラ属菌による感染症で、その病型には肺炎型と感冒様のポンティアック熱型とがある。レジオネラ肺炎に特有な症状はないため、症状のみでは他の肺炎との鑑別は困難である。四肢の脱力や、意識障害などの神経・筋症状を伴う例や、急速に全身症状が悪化する例がある点に注意が必要である。レジオネラ属菌は一般的には水中や湿った土壌中など環境中に存在する細菌で、20〜50℃で繁殖し、36℃前後で最もよく繁殖する。空調施設の冷却塔の水、循環式浴槽水、給湯器の水などの人工温水中に生息する原虫類(アメーバ)の細胞内で大量に増殖する。人がこれらの水から発生したエアロゾルを吸入することによってレジオネラ属菌の経気道感染が起こり、人体内では貪食細胞内で増殖することが知られている。高齢者や新生児、および免疫力の低下をきたす基礎疾患を有する者が本症のリスクグループを形成する。

レジオネラ症は1999年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」において全臨床医に届け出義務のある4類感染症となった。その結果、感染症法施行から2000年7月31日までに 145例のレジオネラ症患者が報告された。届け出の時点で死亡が報告されたのは10例(6.9%)であった。ちなみに厚生省レジオネラ症研究班(研究代表者:上田 泰)による1979〜1992年の患者集計では、患者数は14年間でわずか86例にとどまり、稀な疾患との感があったが、致死率は32%であった。

感染症法施行後の患者発生状況(初診年月日を月別に集計)は、図1のように季節性がない。2000年の3月と6月に患者数が突出しているが、それぞれ後述の入浴施設での集団感染事例を反映したものである。従来、レジオネラ症は冷房機の稼動に伴い8月に患者発生が増加するとみられていたが、それとは明らかに異なった傾向であった。表1からもわかるように、推定感染源が記載されていた患者報告は69例と少ないが、入浴施設等が59例(86%)を占めている。

2000年3月に静岡県内の温泉の循環浴槽水を感染源として発生した集団感染では、患者23名、死者2名が報告された(国内情報参照)。6月に茨城県内の総合福祉センターの入浴施設で発生した集団感染は、患者43名、死者3名という大規模な事例となった(国内情報参照)。この他、山形県では4〜8月に7名の患者が発生しているが、感染源の解明には至っていない(国内情報参照)。また、2000年1月に広島県の病院で加湿器が感染源と考えられる2名の新生児のレジオネラ肺炎が起きている。

報告された患者の年齢は0〜1歳および21〜91歳に広く分布し、平均年齢は60.1歳で、50代〜70代にかけてピークが見られた(図2)。性別は男性患者が全体の78%を占めており、レジオネラ肺炎は女性に比して3倍程度男性に多いという従来の知見と同様であった。報告に記載された患者の症状は表2に示すとおり、発熱と呼吸器症状が主であった。

確定診断に用いた検査法が記載されていた135例中、血清抗体価の測定と尿中抗原検出がそれぞれ57例(42%)で、培養は28例(21%)であった。血清抗体価測定のみの場合は抗原検出、培養に比べ診断までに日数を要する(表3)。PCRは検出率の高い方法だが6例(4.4%)と少なく、レジオネラ症の診断法としてはまだ一般的ではない。

起因菌が記載されていたものの内訳は、Legionella pneumophilaが17症例(うち、血清群が判明しているものは血清群1が7症例、血清群6が3症例)、L. micdadeiL. gormanii各1症例と、L. pneumophilaを起因菌とした症例がほとんどであった。上述した集団感染事例はすべてL. pneumophila血清群1によるものであった。ちなみに、民間検査機関における血清抗体価の測定はL. pneumophila血清群1に対してであり、また尿中抗原測定キットもL. pneumophila血清群1以外の検出感度が低いことが知られている。したがって、現在のところ報告症例の起因菌がL. pneumophila血清群1に偏る傾向がある。

一方、全国各地の12地研から国立感染症研究所感染症情報センターに報告された環境からのレジオネラ属菌の検出情報によると、冷却塔水からはL. pneumophila血清群1が優勢であるものの、温泉、循環風呂などからは、1以外の血清群も多数検出されている(表4)。レジオネラ属菌の培養が広く行われ、L. pneumophilaの他の血清群や本種以外のレジオネラ属菌の検出が実用化されれば、他の起因菌による報告症例も増加するものと考えられる。

レジオネラ属菌は細胞内寄生細菌であるので、臨床的には治療薬の選択が重要である。一般に肺炎の第一 選択薬として使用頻度の高いβ-ラクタム剤の有効性は認められておらず、宿主細胞に浸透性を有するエリスロマイシン、リファンピシン、フルオロキノロン剤などが第一選択薬となる。

レジオネラ属菌が土埃などとともに冷却塔水、循環式浴槽、給湯設備、加湿器などの人工環境水系へ混入することは避けられない。適当な水温が保たれた水環境ではレジオネラ属菌は宿主となる原虫との共存により急速に増殖する。したがって、本症の予防には、人工環境水設備の管理マニュアルに沿った適切な換水や清掃、消毒が必須で、営業を目的とした施設では運転・管理記録の作成と保存が重要である。7割前後の循環式浴槽水からレジオネラ属菌およびその宿主のアメーバが検出されており(黒木ら、感染症誌 Vol.72 、1050-1063, 1998)、入浴設備等の衛生管理を周知徹底しなければ今後も大規模な集団感染が起こる可能性がある。特に本症のリスクグループである高齢者・新生児を対象とした各種施設や病院の空調設備、給湯・入浴設備、加湿器などの衛生管理には注意が必要である(「レジオネラ症防止指針」参照)。

新法施行後の16カ月間に、上記厚生省研究班で調査を行った14年間の患者数をはるかに上回る報告があった。これは感染症法の施行を契機として本症に対する認識が深まり、また検査法の発達に伴い確定診断にまで至る例が増えたことによると考えられる。レジオネラ症の最も迅速簡便な診断方法である尿中抗原検査法が普及すれば、今後患者は迅速で適切な治療を施され、さらなる致死率の低下につながることが期待される。

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