The Topic of This Month Vol.22 No.11(No.261)

麻疹 1999〜2001年

(Vol.22 p 273-274)

日本では麻疹ワクチンが1978年10月から定期接種となり、 患者数・死亡数は著しく減少したが(図1)、 厚生労働省予防接種副反応研究班磯村らの調査によれば、 2000年度の全国のワクチン接種率は81%であり、 初めて80%を超えた(1996年は75%、 本月報Vol.20、 No.2、 1999参照)。予防接種法に基づく定期接種の対象年齢は生後12カ月〜90カ月未満であり、 標準として生後12カ月〜24カ月のできるだけ早期に行うこととされている(対象年齢を超えた者は任意接種として可能)。前回の麻疹特集(本月報Vol.20、 No.2、 1999参照)以降、 2000〜2001年に再び患者数が増加しているため、 本特集ではさらなる麻疹対策の推進に資することを目的として、 1999〜2001年に得られた疫学データを解析した。

感染症発生動向調査:1999年4月1日、 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)施行に伴い、 麻疹は定点把握の4類感染症として、 従来の小児科定点からの麻疹患者数の報告(定点数は約2,000から約3,000に増加)に加えて、 約500の基幹病院定点からの成人麻疹(18歳以上、 多くは入院例)患者数の報告が開始された。

1999年4月感染症法施行後の小児科定点からの麻疹患者報告数を図2に示す。1999年(14〜52週累積)の患者報告数は、 定点あたり2.04人と過去最低であったが、 2000年から再び増加し、 2001年は第41週現在、 定点あたり10.95人(累積患者数は32,890)と、 既に2000年1年間(7.57人)の約1.4倍となり、 過去7年間で最も多い。都道府県別患者数をみると(図3)、 2001年は9道県で小児科定点当たり20.0人を、 6都県で基幹定点あたり4.0人を既に超えており、 1999年、 2000年に比して、 患者数が著増していることが明らかである[本月報Vol.22、 No.5(高知)No.7(石川)参照]。一方、 小児科定点当たり 2.5未満の県も4県あり、 患者の多い県と少ない県が隣り合って混在しているのが最近の特徴である(本月報Vol.20、 No.2、 1999参照)。患者の年齢は(図4)、 小児科定点からの報告では1歳が最も多く、 次いで6〜11カ月、 2歳の順で、 2歳以下が半数を占めている。成人麻疹を対象とする基幹定点からの報告では、 20〜24歳が最も多く、 次いで15〜19歳、 25〜29歳の順である。2000年に比べ2001年に入って患者数増加が目立つ年齢群は、 小児科定点の10歳以上(1.7倍)、 基幹定点の20〜39歳(2.3倍)である。

麻疹ウイルスの分離:麻疹ウイルス高感受性のB95a細胞の普及により麻疹ウイルスの分離が容易となり、 世界的な流行株の監視が行われている(本月報Vol.20、 No.2、 1999参照)。地方衛生研究所から感染症情報センターへの麻疹ウイルス分離報告は(2001年10月25日現在報告数)、 1999年16、 2000年88、 2001年86、 計190で、 分離材料は血液54、 鼻咽喉材料145であった(血液、 鼻咽喉材料両方から分離された例を含む)。国立感染症研究所ウイルス製剤部で実施した遺伝子解析の結果、 2001年に分離された麻疹ウイルスの遺伝子型は日本全国ほとんどの地域でD5型であったが、 沖縄で分離されたウイルスはすべてD3型であった。また、 中国や韓国で流行しているH1型が川崎と東京で分離されている(本号6ページ参照)。

感染症流行予測調査(本号3ページ参照):2000年の調査では、 1歳児のワクチン接種率が低く、 ゼラチン粒子凝集反応法(PA法、 1:16以上が陽性)による抗体陰性者(図5の白抜きの部分:感受性者)は1歳で48%、 2歳で21%であった。麻しんおたふくかぜ風疹混合(MMR)ワクチン接種中止後に生まれた5〜6歳(8.8%)では3〜4歳(6.7%)を上回る感受性者が残されていた。ワクチン接種群では、 抗体保有率は99%と極めて高い。幾何平均抗体価も、 低年齢から高年齢群まで高く維持されている。この調査と2000年の国勢調査で得られた年齢別人口から、 2歳未満児のうちの約100万人が麻疹感受性者であることが推計された。

麻疹制圧計画と今後の課題:WHOはポリオ根絶に続く予防接種拡大計画(EPI)として麻疹罹患率・死亡率の大幅な減少を目標に挙げている(本号14ページ参照)。日本では人口動態統計により公式に把握されている死亡数だけでも依然として2桁が記録されている(図1および本号16ページ資料参照)。現在の日本における麻疹の流行の特徴は、 ワクチン接種率が低迷しているために、 麻疹の流行が中途半端に抑えられており、 従来みられなかった動向を示していることで、 1)小〜中規模の流行が常にどこかの地域で起こっており、 流行に地域差が認められる、 2)1歳児を中心としたワクチン未接種者の感染が主であるが、 成人麻疹も増加している、 の2点である。現状ではワクチン接種率の向上が当面の課題であり、 現行の予防接種制度を活用し、 1歳の誕生日を過ぎた子供達にできるだけ早期にワクチンを接種する必要がある。さらに、 小児のワクチン接種率が向上し、 麻疹流行が制圧されている地域では、 野外ウイルスに暴露する機会が減ったために、 1)未接種者およびワクチンを接種したが免疫を獲得できなかった者が感受性者のまま成長する、 2)ワクチン接種によって一旦免疫を獲得した者も野外ウイルスの不顕性感染による追加免疫がかからないので、 免疫レベルが減弱する。その結果、 成人麻疹、 特に妊婦麻疹と新生児麻疹の発生が問題となるので、 国外のみならず、 国内の流行地域からの輸入例による感染、 および流行地域への旅行時の感染に注意が必要となる。今後は1)麻疹患者のワクチン接種歴の調査、 2)各地域単位での住民の免疫状況を監視する血清疫学調査(本号7ページ参照)、 3)流行ウイルス株の抗原・遺伝子解析、 を行うサーベイランスの強化が必要である。

北海道、 大阪府、 高知県、 沖縄県のように自治体をあげて麻疹対策に乗り出している地域もあり(本号7ページ8ページ10ページ12ページ参照)、 日本小児科学会、 日本小児保健協会、 日本小児科医会も麻疹の予防接種向上と麻疹排除に関する要望書を厚生労働省、 文部科学省に提出した(本号13ページ参照)。2001年8月フィリピン・マニラでWHO西太平洋事務局により開催されたTechnical Advisory Groupミーティングでも麻疹対策が議題に取り上げられ、 今後はアジア地域全体での麻疹対策への取り組みが行われようとしている。

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