The Topic of This Month Vol.24 No.3(No.277)

風疹 1999〜2002年

(Vol.24 p 53-54)

風疹は、 風疹ウイルス感染から14〜21日の潜伏期間の後、 発熱とほぼ同時に全身性の斑状丘疹(麻疹より淡く一般に融合せず、 3日程度で通常消失)が出現し、 耳介後部、 後頭下部、 頸部のリンパ節腫脹が起こる。通常は数日で治癒する予後良好な疾患であり、 不顕性感染率は15%程度と報告されている。稀な合併症として血小板減少性紫斑病、 脳炎などがある。

妊婦が妊娠初期に風疹に罹患すると、 風疹ウイルスが胎盤を介して胎児に感染し、 出生児が先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)となることがある。CRSの症状は妊娠中の感染時期により重症度、 発現部位が異なり、 感音性難聴、 白内障または緑内障、 心疾患が3徴候である。CRS予防のため、 個人防衛としては未感染の女性は妊娠前にワクチンによって風疹に対する免疫を獲得すること、 集団防衛としては小児の風疹ワクチンの接種率を上げることによって風疹の流行そのものを抑制し、 妊婦が風疹ウイルスに曝露されないようにすることが重要である。

わが国における風疹ワクチン接種の経緯(本号3ページ参照):風疹ワクチンは1976年から任意接種が開始され、 1977年8月から予防接種法に基づく女子中学生に対する定期接種が始まった。1989年4月からは生後12〜72カ月児に対して、 麻疹ワクチン定期接種時に麻しん・おたふくかぜ・風しん混合(MMR)ワクチンを選択しても良いことになった。無菌性髄膜炎の多発により1993年4月にMMRワクチンの接種は中止されたが(本月報Vol.15、 No.9参照)、 1995年4月からは生後12〜90カ月までの男女に風疹ワクチンが接種されることになった。中学生については男女とも2003年9月30日までの経過措置として定期接種対象者となった。ところが、 中学生の接種率が極めて低いため、 2001年11月に、 2003年9月30日までを期限として1979年4月2日〜1987年10月1日までに生まれた男女全員が定期接種の対象となっている(http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1h.html参照)。

風疹ワクチン接種率:厚生労働省の発表による2001年度の風疹ワクチン実施率は、 小児(生後12カ月〜90カ月まで)が97%と高いのに比して、 中学生(経過措置分)の接種率は39%と極めて低い。特に経過措置分の接種率は年々減少しており、 2001年度は予防接種法改正以降で最も低かった(本号3ページ参照)。

風疹および先天性風疹症候群患者数:感染症発生動向調査に基づく小児科定点報告による風疹患者発生数をみると、 風疹の全国的大流行は1982、 1987〜88、 1992〜93年に認められ、 ほぼ5年ごとに繰り返されてきたが(IASR Vol.21, No.1特集参照)、 1994年以降全国流行はみられなくなり、 特に1999年以降は年間2,561〜4,366人(定点あたり0.85〜1.62人)と大きく減少している(図1)。年齢別患者報告数は図2に示すとおり1歳児がやや多いが、 0歳〜9歳までほぼ均等に分布し4歳以下で約50%を占めている。

一方、 CRSは1999年4月に施行された「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」においては4類全数報告疾患であり、 診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出ることになっている。感染症法施行後のCRS届け出数は2003年2月18日現在3例で、 2000年6月(第26週)1例(大阪府)、 2001年7月(第29週)1例(宮崎県)、 2002年12月(第51週)1例(岡山県、 本号7ページ参照)である。

図3に都道府県別風疹患者発生状況を示す。全国的な流行は認められていないが、 毎年地域的な小流行が発生している。2001年にCRSが報告された宮崎県では2000年に風疹患者が比較的多く報告されており、 2002年にCRSが報告された岡山県では同年、 小学校における風疹の集団発生がみられたこと(本号6ページ参照)が注目される。

抗体保有状況:2001年7〜9月に実施された感染症流行予測調査によると(図4)、 風疹HI抗体価8以上の陽性率は、 18歳以上では女性は94%と高値であったが、 男性は79%と低かった。CRSの発症は妊娠中の初感染によるものがほとんどであるが、 低い抗体価の妊婦においては妊娠中の再感染でも発症することがある(本号7ページ参照)。再感染直前の正確な値は不明だが、 HI価64で再感染したという報告もあり(IASRVol.21、 No.1、 p.6参照)、 注意を要する。また1997年の調査で認められた11歳女性の抗体保有率の谷間(IASR Vol.21, No.1特集参照)は、 2001年の調査では15歳にあたり、 54%と他の年齢に比して著しく低かった。一方、 低年齢層では抗体保有率に男女差が認められなくなってきている(本号5ページ参照)。この調査から風疹感受性人口を推計したところ、 40歳未満の女性における風疹感受性人口は推計350万人以上であり、 このうち20代、 30代女性の感受性人口は推計70万人以上であった。20代、 30代男性の感受性人口は女性よりかなり多く、 450万人以上であった(本号3ページ参照)。

ワクチン株と現在流行している野生株の比較:現在わが国で製造、 使用されている風疹ワクチンの親株には1966〜1969年に分離された株が使用されている。中島らは、 風疹ウイルスの膜表面に存在し、 中和と赤血球凝集能にかかわる膜タンパクE1について全塩基配列を決定し、 ワクチン株と現在流行している野生株とを比較した。中和とHIにかかわる抗原エピトープ部位の遺伝子構造にはワクチン株と現在の流行株の間でほとんど変化が見られていない(本号9ページ参照)。

風疹ワクチンキャンペーン:1994年の予防接種法改正により、 1995年4月から中学生のみならず生後12〜90カ月までの小児にも風疹ワクチンが定期接種として実施されるようになった。これにより現在風疹の全国的な流行は抑制されているが、 ワクチン接種率が不十分であると、 感受性者はそのまま蓄積し、 近い将来わが国でも1999年にギリシャで認められたような全国規模の風疹流行(BMJ 319: 1462-1467, 1999)が危惧される。特に2001年の調査時点で抗体保有率が低かった15歳女性は、 2003年には17歳となる。1979年4月2日〜1987年10月1日生まれの男女全員に対する風疹ワクチンが予防接種法に基づいて行われていることはよく知られておらず、 接種率は低い。小規模な地域流行でもCRS患児が出生していることを考えると、 本年9月30日までの6カ月間で、 より多くの対象者が風疹ワクチンを接種できるような関係者の積極的な取り組み(本号10ページ参照)が必要である。また、 定期接種対象者以外でも風疹未罹患かつ風疹ワクチン未接種の女性は、 妊娠の2カ月以上前に任意接種としてワクチンを受けておくことが望まれる。

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