The Topic of This Month Vol.25 No.6(No.292)

腸管出血性大腸菌感染症 2004年5月現在

(Vol.25 p138-139)

腸管出血性大腸菌(EHEC)による感染症は、「感染症法」において全数把握の3類感染症として感染症発生動向調査が行われている。

また、食品が原因と疑われ、医師から食中毒の届出があった場合や保健所長が食中毒と認めた場合には、「食品衛生法」に基づき、各都道府県等において調査および国への報告が行われる。

感染症発生動向調査:感染症法に基づいて、2003年には患者1,616例および無症状病原体保有者1,370例、計 2,986例のEHEC感染者が報告された(表1)。無症状病原体保有者は業態者検便などで偶然発見される者もいるが、初発患者が探知された後に家族やその他の接触者調査、および食品媒介が考えられる事例における共通食品の喫食者や調理従事者の調査によって発見される場合が多い。

2003年の週別報告数は第23週(6/8-14)、第29週(7/20-26)、第35週(8/31-9/6)に小さなピークが認められた。例年は、最大ピークが夏季に見られるが、2003年は第39週(9/29-10/4)に増加した(図1)。これらのピークは後述の集団発生等(表3参照)による。2003年の都道府県別発生状況は人口10万人当たり0.25〜8.98となり、かなりの地域差がみられた(図2)。複数の集団発生があった石川県(8.98)が最も多く、熊本県(7.70)および宮崎県(6.17)がそれに次いでいた。

2003年のEHEC感染者は0〜4歳が最も多く、5〜9歳がこれに次いだ。0〜19歳では男性が多く、20歳以上では女性が多かった。一方、有症者の割合は男女とも若年層と高齢者で高く(19歳以下58%、65歳以上68%)、30代、40代、50代では50%以下であった(図3)。有症者のうち、6歳と5歳の姉弟2例は届出時に患者の死亡が報告された(本号6ページ参照)。

EHEC検出報告:地方衛生研究所(地研)から国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)に報告されたEHEC検出数は、2002年の約1,800から2003年は約1,300に減少した(本号3ページ参照)。EHEC感染者報告数(表1)と開きがあるのは、現行のシステムでは地研以外で検出された菌株情報の一部が地研に届いていないことによる。

血清型別をみると、最近はO157が約70%、O26が約20%、O111が数%を占める傾向が続いている(本月報Vol.17, No.1Vol.21, No.5Vol.23, No.6参照)。少数ではあるが、その他の多様な血清型も検出されている(本号3ページ参照)。市販の抗血清で同定できない血清型でVero毒素(VT)が検出される株もあることから、EHECの同定にはVTの確認が重要である(本号4ページ参照)。分離菌株が産生しているVT(または保有している毒素遺伝子)の型をみると、O157では2001年以降VT1&VT2が6〜7割を占めている(2003年は68%)。一方、O26 とO111ではVT1 単独が8割以上を占めた。

2003年はEHECが検出された1,293例中17例に溶血性尿毒症症候群(HUS)が報告された(表2)。このうち、O157が11例(VT1&2が4例、VT2が7例)で、O165(VT2)、O169(VT2)、O177(VT1)、O 型別不能(UT)(VT1&2)が各1例、OUT(VT2)が2例であった。O157が検出された905例の症状は血便が31%、下痢47%、腹痛41%、発熱17%で、無症状は38%であった。

集団発生:2003年にIDSCに報告された事例中、伝播経路が食品媒介と推定され、菌陽性者が10人以上の事例は3件であった(表3)。複数の幼稚園で発生した事例(No.10)では、患者から分離されたO26のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)型が一致し、共通の給食が原因食と推定された(本号12ページ参照)。老人への配食が原因と推定された事例(No.2)では、1例の死亡が報告されている。人→人感染か食品媒介かが判明せず伝播経路が不明の事例も多い。

2003年も依然として保育所・幼稚園での集団発生が6件と多かった。保育所等での人→人感染による集団感染予防には、普段からの職員の手洗い(特にオムツ交換後)、園児への排便後・食事前の手洗いの指導を徹底することが重要である(本号11ページ参照)。また、夏季には簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある(本月報Vol.24、No.6参照)。

さらに、EHEC感染症では家族への二次感染が報告される事例が多いのが特徴である(表3)。家族内感染による発生の拡大・長期化を防ぐためには、保護者に対して二次感染予防の指導を徹底する必要がある。

なお、2003年に「食品衛生法」に基づいて都道府県等から報告されたEHEC食中毒は12事例、患者数184人であった。

パルスネットの構築:現在、PFGEに基づいた菌株解析情報と疫学情報を組み合わせたサーベイランスシステム(パルスネット・ジャパン)により、広域集団発生(diffuse outbreak)等を迅速に探知する努力がなされている。2003年には、疫学的な関連は不明であるものの、同じPFGEパターンを示すO157が広域で分離され、diffuse outbreakと推定されるクラスターが少なくとも7つ見出された(本号4ページ参照)。

2004年速報:本年第1週〜第21週までのEHEC感染者届出数は 377人である。4月初旬〜中旬にかけて岡山県、石川県、福井県および香川県と、複数自治体で同一PFGE型を示すO157感染がみられ、diffuse outbreakの様相を呈している(本号4ページ参照)。今後、夏場にかけてEHEC感染症がさらに増加することが予想されるので、一層の注意喚起が必要である。

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