The Topic of This Month Vol.27 No.9(No.319)

B型肝炎 2006年7月現在

(Vol.27 p 217-218:2006年9月号)

B型肝炎は、ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae )に属するB型肝炎ウイルス(HBV)の感染に起因する。B型肝炎には、初感染によって発症した急性肝炎、HBV持続感染者から発症した急性増悪、また慢性肝炎などがある。持続感染者のうち10〜15%が慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝癌)を発症する。成人での初感染の場合、多くは一過性の感染で自覚症状がないまま治癒し、20〜30%の感染者が急性肝炎を発症する。この場合、稀に劇症化する場合がある。HBVは、主としてHBV感染者の血液を介して感染する。また精液などの体液を介して感染することもある。

現在、HBVは8種類の遺伝子型(A〜H型)に分類されているが、この遺伝子型には地域特異性があること、また慢性化率など臨床経過に違いがあることが知られている。欧米型であり、他に比べ慢性化しやすい遺伝子型Aの感染者が近年わが国でも増加していることは注視すべき傾向である(本号3ページ7ページ参照)。

2003年11月の感染症法の改正に伴い、急性B型肝炎は、感染症発生動向調査における全数把握の5類感染症である「ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)」に分類された。診断した医師は、7日以内の届出が義務付けられている。2006年4月に、届出基準と届出票が改正されている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-02.html参照)。HBV感染の一次スクリーニング法としてはHBs抗原の検出が広く用いられている。HBs抗原測定法には、凝集法、イムノクロマト法、EIA(Enzyme Immuno Assay)/CLIA(Chemiluminescent Immuno Assay)/CLEIA(Chemiluminescent Enzyme Immuno Assay)法があるが、測定原理の違いにより検出感度が異なることから、検査目的に応じた検査方法および試薬を選択することが必要である(本号5ページ参照)。

年別および月別発生状況:2002年以降、急性B型肝炎と診断され報告された患者数は、2002年333例、2003年244例、2004年243例、2005年208例、2006年1〜7月107例である。1999年は約500例、2000年は約400例、2001年は約300例であり(IASR 23: 163-164, 2002参照)、2003年まで減少傾向が認められたが、それ以降はほぼ横ばいに転じている。月別の報告数に一定の傾向は認められず、季節変動は大きくない(図1)。

推定感染地:2002年〜2006年7月に診断された1,135例のうち国内感染例が983例(87%)であり、各年とも大多数は国内感染例である。国外感染例も85例(7%)報告されている(図1)。

2006年4月改正前の患者届出票では国内の感染地域は報告されていないため、国内例の都道府県別報告状況を図2に示す。東京、大阪など大都市圏で患者報告が多い傾向にあるが、47全都道府県から報告されている。

性別および年齢別分布:男女別および年齢別の報告数の分布を図3に示す。10代では男女ほぼ同数(男31例、女29例)だが、それ以外は各年代とも男性の方が多い。全報告例では男性が72%(820例)である。男性は20代(246例)、30代(230例)がピークであり、女性では20代(137例)にピークがある。14歳以下の小児または70歳以上の高年齢層の報告数は少ない。

推定感染経路:感染経路が不明の者が40%を占めるが、他のほとんど(55%)は性的接触による感染が推定されている(男性56%、女性50%)。男性では20〜60歳、女性では15〜45歳の各年齢層で、感染経路として性的接触がそれ以外の原因を上回っている。わが国においても、エイズとともにB型肝炎が性感染症として重要になってきたことを示している。その他(6%)の感染経路としては、ごく少数であるが、「輸血」、「歯科治療」、「入れ墨」、「ピアス」、「針刺し事故」などの記載があった。

対策:1985年より「B型肝炎母子感染防止事業」が開始され、これにより母子間のHBV感染によるキャリアの発生は劇的に減少した。献血におけるHBVスクリーニングでの陽性率は年々減少しているが(図4)、さらなる輸血後肝炎対策として、1999年よりHBV、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対する核酸増幅検査(NAT)が実施され、輸血によるこれらのウイルス感染の報告は大きく減少した(本号7ページ参照)。

慢性肝炎も含む総合的な肝炎対策としては、厚生労働省が2005年3月に設置した「C型肝炎対策等に関する専門家会議」の報告書(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/08/dl/h0802-2b.pdf参照)を踏まえ、C型肝炎とともにB型肝炎についても、1)肝炎ウイルス検査等の実施、検査体制の強化、2)治療水準の向上(診断体制の整備、治療の方法等の研究開発)、3)感染防止の徹底、4)普及啓発、相談事業、等の施策が講じられている。HBV検査としては、1)老人保健法による肝炎ウイルス検診(40歳以上の節目検診)、2)政府管掌健康保険等による肝炎ウイルス検査、3)保健所等における肝炎ウイルス検査、等が実施されている。厚生労働省が作成した「B型肝炎についての一般的なQ&A」は2006年3月に改訂され、ホームページに掲載されている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou09/01.html)。

まとめ:性的接触による感染が大部分を占めると考えられる急性B型肝炎の予防には、性感染症としてコンドームの使用などの予防教育が重要になっている。また、感染者の性的パートナー、腎透析患者、医療従事者、救急隊員など、ハイリスク者はB型肝炎ワクチン任意接種による予防が可能である。

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