The Topic of This Month Vol.27 No.10(No.320)

結核 2005年現在

(Vol.27 p 255-256:2006年10月号)

本特集は、全国の都道府県・政令指定都市・特別区から保健所を通じて報告される結核患者等の状況(2005年1月1日〜12月31日)を取りまとめた2005年結核発生動向調査* 年報の成績を中心に、最近の日本の結核患者の発生状況等について述べる。

患者発生動向の概況:2005年の1年間に新たに結核として治療を開始し、保健所に登録された新登録患者* は28,319人(外国人を含む)で、2004年よりも1,417人減少した。2005年の罹患率* は人口10万対22.2で、2004年(同23.3)に比して5%低下した(図1)。1999年に国が「結核緊急事態宣言」を出したが、罹患率は翌2000年以降、6年連続で低下している。ただし、低下傾向は緩やかで、逆転上昇した1997〜1999年をはさんで、結局1980年代以降の緩やかな低下傾向の延長上に戻ったようにみえる。

患者の病状:新登録患者の大半(80%)が肺結核* で、残りは肺外結核* である。肺結核患者の72%は排菌しており、とくに50%は喀痰塗抹陽性* 、つまり感染源として特に重要な患者である。肺結核患者の菌陽性*の割合はこの30年間ほぼ連続的に上昇しており、結核菌検査が普及したことと並んで、結核の診断においてX線所見よりも菌所見がますます重視されるようになったことを反映していると思われる。同時に、重症で発病する、重症になるまで診断がつかなかった症例が増えているということも考えられる。このような状況から、喀痰塗抹陽性肺結核罹患率は全結核*罹患率ほどの低下を示していない(図1)。

塗抹陽性肺結核のうち再発(再治療*)例は全年齢では7.6%に見られた。この割合は60歳以上では9.3%と、50代以下(4.7%)よりも大きい。

肺外結核の罹患臓器の大半(77%)は胸膜であり、次いでリンパ節(末梢、肺門)、脊椎・骨・関節、腸、尿路などが多い。肺外結核に分類される全身結核としての粟粒結核は、肺外結核の10%を占めた。

患者の年齢:罹患率は、5歳以降ほぼ一様に年齢とともに上昇し、80歳以上で96.0と最高に達する。ただし、20代(15.4)>30代(14.9)>40代(14.0)と、若年成人では感染後の結核発病リスクが高くなることを示唆している。また20代の2005年の罹患率は2004年(15.3)よりもわずかながら上昇した。

年齢構成では、新登録患者中60歳以上の割合が年々上昇しており、2005年に初めて60%を超えた。罹患率の年齢階級別パターンを1975年と2005年で比較すると(図2:両年で軸目盛が異なることに注意)、2005年では、70歳以上の高齢者と60代以下の年齢での格差が著しいこと、また20代と30代に小さいピークがみられ、30年前に比べて欧米型のパターンに近づいている。

地域別罹患率:都道府県別でみると、大阪府(38.4)の罹患率が最も高く、東京都(29.9)、兵庫県(27.4)が続く。逆に低いのは長野県(10.7)、宮城県(12.0)、山形県(13.4)などであり、地域格差は依然として大きい(図3)。特に、大阪市(58.8)、神戸市(34.5)、名古屋市(34.3)、東京都区部(33.9)など大都市で高いのがめだつ。ただし、その中で大阪市は近年改善が著しく、2001年からの4年間で罹患率は29%も低下した(他は概ね20%以下の低下率)。

患者発見方法:全体の80%が症状を訴え医療機関を受診して発見されていた。他は健康診断13%、定期外健康診断* (主として接触者健診)3%などであった。これらは2004年とほぼ同様である。特に健康診断の大半を占める集団健診(事業所健診や住民健診)で発見された者の割合が、結核予防法改正* で制度が大きく変わる前の2004年とあまり変わらない。

肺結核患者では、呼吸器症状出現から医療機関受診までの期間が2カ月を超えた者は18%、また初診から診断確定・結核登録までの期間が1カ月を超えた者は26%であった。これらの割合は最近5年間でわずかに減少し(2001年にはそれぞれ19%、27%)、受診や診断の遅れが改善傾向にあることを示唆している。

診断根拠となる菌検査の種類についてみると、肺結核患者22,655例中塗抹検査は54%で陽性であり、その検体は93%が喀痰、残りが気管支洗浄液4%、胃液2%などであった。培養陽性は43%で、その検体は喀痰87%、気管支洗浄液7%、胃液3%などであった。

結核死亡:人口動態統計による2005年中の結核による死亡者は2,295人(前年に比べ35人減少)、結核死亡率* は人口10万対 1.8であり(図4)、死因順位は前年と同様25位であった。これは2005年の新登録患者の約8%に相当しており、新たに発病する患者の8%程度が、結局結核で死亡することを意味する。一方、発生動向調査における「結核死亡による登録除外」は1,501件報告され、そのうち1,340人が登録後1年以内の結核死亡であった。新登録患者の約5%が治療開始後1年以内に結核で死亡していることになる。

結核登録者* ・有病率* :2005年末現在の結核登録者は68,508人であり、前年より3,571人減少している。うち、結核として治療中の活動性全結核患者* は23,969人であり、前年より2,976人減少している。人口10万対有病率は18.8であり、前年の21.1より2.3減少している(図5)。有病率は、罹患率の他に患者の治療期間や予後(死亡、治療脱落など)に左右されるが、特に近年短期化学療法が普及して、平均治療期間が1年を割ったため、罹患率よりも有病率が低い状況がさらに明確になっている。

治療成績:2004年に登録された初回治療* 喀痰塗抹陽性肺結核患者で標準治療* が行われた者のうち、その後の治療経過が明らかな者は8,563人であった。順調に治療成功に至った者は78%であり、死亡が13%、治療失敗・脱落が7.2%であった。2年以上前に治療を開始して、2005年に排菌のあった者(事実上の慢性排菌例)は全国で480人であった(2004年は558人)。

国際比較:いくつかの先進国の罹患率(2004年、WHO報告)をみると、スウェーデン4.6、米国4.9、オーストラリア5.3、デンマーク6.6、ドイツ7.3、フランス8.3、英国11.8であった。日本(22.2)はこれらの国の2〜5倍の水準であり、米国の1960年代後半の水準である。なお、これら欧米諸国の大半では、発生患者の半数以上が外国生まれの者で占められている。日本では新登録患者の92%について国籍が明らかで、そのうち外国籍は3.5%にすぎない。

おわりに:上記のように日本の結核の状況は、1999年7月に「結核緊急事態宣言」が出された後、緩やかながら改善傾向を持続しているが、今の欧米並みの罹患率10以下に達するまでには今後20年以上かかるものと予測されている。その一方で、集団感染(本号3ページ4ページ5ページ7ページ8ページ参照)や院内感染事故、重症患者の増加や患者の予後の悪化、多剤耐性結核(本号9ページ参照)などの質的に困難な問題が浮上してきている。今後しばらくは医療や行政が結核問題に日頃から注意を怠らないことが肝要である。

(* 印の用語の解説は特集補遺を参照下さい。)

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