The Topic of This Month Vol.28 No.11(No.333)

インフルエンザ 2006/07シーズン

(Vol. 28 p. 311-313: 2007年11月号)

2006/07シーズン(2006年第36週/9月〜2007年第35週/8月)のインフルエンザ定点からの報告患者数は約108万人であった。2004/05〜2005/06シーズンに続いてA型のAH3亜型とAH1亜型、B型の混合流行であり、主流はAH3亜型とB型であった。

患者発生状況:感染症発生動向調査では、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科3,000、内科2,000)から、臨床診断されたインフルエンザ患者数が週単位で報告されている。定点当たり週別患者数は、2007年第3週に全国レベルで1.0人を超え、2007年第11週のピーク(32.9人)まで徐々に増加した。第13〜14週に大きく減少し、第15週以降は緩やかに減少した(図1)。最近10シーズンの中で、流行開始は2番目に遅く、ピークとなった週と、全国レベルの定点当たり患者数が1.0人を切った週(第21週)は最も遅かった(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/01flu.html)。ピークの高さは7番目と低かったが、シーズン全体の累積患者数(定点当たり225.8人)は5番目と中規模の流行であった。

都道府県別にみると、流行の開始は愛知と宮崎で早く、一方、流行の持続については、鹿児島、秋田、岩手、宮城などで6月まで続いた(http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/inf-keiho/index.html)。沖縄では、2004/05、2005/06シーズンに引き続き2006/07シーズンも夏季に流行がみられ、終息することなく10月末現在も流行が続いている(本号12-13ページ14ページ)。

5類感染症の「急性脳炎」として全数届出が必要なインフルエンザ脳症は42例の報告があった(2004/05シーズン51例、2005/06シーズン51例)。

ウイルス分離状況:全国の地方衛生研究所(地研)で分離された2006/07シーズンのインフルエンザウイルスはAH3亜型2,287、B型1,987、AH1亜型576であった(2007年10月23日現在報告数、表1)。この中には海外渡航者33例からの分離が含まれていた(表2)。

2006/07シーズン初の分離報告は2006年第38週に広島で分離されたB型で、地域での小流行が報告された(IASR 27: 268-269, 2006)。AH3亜型は第42週に初めて埼玉で幼稚園児から分離され(IASR 27: 337, 2006)、AH1亜型は第46週に初めて山梨で家族内感染事例から分離された(IASR 27: 337-338, 2006)。集団発生の報告は第45週に滋賀の小学校学級閉鎖事例から分離されたB型が最初であった(IASR 28: 12-13, 2007)。週別(図1)、都道府県別(図2)にみると、2006年末までは3つの型ともに少数の分離が毎週報告されていたが、例年より遅く2007年に入ってからAH3亜型が増加し始め、第3週以降はB型の報告が増加し、第10週以降はB型がAH3亜型の報告数を上回った。AH1亜型は少数ながらシーズンを通して分離された。AH3亜型は例年より報告の増加、ピークともに遅く、ピークはB型、AH1亜型とともに第9週であった。2007年第23週以降はAH1亜型が主に分離され、AH3亜型も少数分離された。B型は第24週の分離が最後となっている。

インフルエンザウイルス分離例の年齢分布の特徴を型別にみると、AH3亜型は各年齢とも2005/06シーズンより少なく、1歳が最も多く、15歳以上では20代より30代が多かった。これに対し、B型は各年齢とも2005/06シーズンより多く、7〜13歳を中心に19歳以下がほとんどを占めた。AH1亜型は各年齢とも2005/06シーズンより少なく、11歳以下が多かった(図3)。

2006/07シーズン分離ウイルスの抗原解析と2007/08シーズンワクチン株:AH1亜型流行株は2000/01〜2006/07シーズンワクチン株であるA/New Caledonia/20/99類似株から抗原変異したA/Solomon Islands/3/2006類似株に移行し、これがシーズン後半に主流を占めた。AH3亜型は2006/07シーズンワクチン株であるA/Hiroshima(広島)/52/2005類似株から抗原変異した株がシーズン初めより分離され、この株がシーズン後半に大半を占めた。B型は2005/06シーズンに引き続きほとんどがVictoria系統で、2006/07シーズンワクチン株であるB/Malaysia/2506/2004に類似していた(本号3ページ)。

2007/08シーズンのために選定されたワクチン株は、AH1亜型は前シーズンと異なるA/Solomon Islands/3/2006となり、AH3亜型およびB型は前シーズン同様、それぞれA/広島/52/2005、Victoria系統に属するB/Malaysia/2506/2004である(本号10ページ)。

インフルエンザワクチン生産量と高齢者の接種率:2006/07シーズンは2,518万本が製造され、1,877万本が使用された。2007/08シーズンには約1,940〜2,080万本の需要が見込まれており、最大で2,350万本の製造が予定されている。予防接種法に基づく高齢者(主として65歳以上)に対する接種率は、2006/07シーズンも含め最近4シーズンは50%前後にとどまっている(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/06/s0628-20.html)。

新型インフルエンザ対策:WHOによる現在のパンデミックインフルエンザ警報はフェーズ3となっている。海外ではヒトのA/H5N1亜型感染例が引き続き発生しており、WHOには2007年11月5日までに334例(死亡205例)が報告されている(http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/country/en/)。

日本では2007年3月26日に「新型インフルエンザ対策ガイドライン(フェーズ4以降)」が策定された(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/index.html)。国と都道府県はそれぞれ1,050万人分ずつ計2,100万人分の抗インフルエンザウイルス薬の備蓄を開始した。また、A/H5N1プレパンデミックワクチンは2006年度に1,000万人分が備蓄され、2007年度にさらに1,000万人分が備蓄される予定である。地研の検査設備の整備も急務であり、各自治体での早急な予算措置が望まれる。

おわりに:従来日本では流行がないと考えられていた夏季に3シーズン連続して地域流行がみられた。海外渡航後にインフルエンザを発症した者からの検出も年間を通して報告されている。インフルエンザウイルスサーベイランスでは、夏季も含めて通年的に確実にウイルスを分離して、ワクチン候補株を確保するとともに、流行株のウイルス解析情報に基づきワクチン株を選定することが益々重要となっている。

2007/08シーズン速報http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-kj.html):2007年11月6日現在、愛知(14ページ)でAH3亜型、神奈川、沖縄(14ページ)千葉(14-15ページ)、兵庫、滋賀、大阪、北海道、東京でAH1亜型が分離されている。

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