The Topic of This Month Vol.30 No.5(No.351)

腸管出血性大腸菌感染症 2009年4月現在
(Vol. 30 p. 119-120: 2009年5月号)

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、1999年4月に施行された感染症法に基づく3類感染症として、菌の分離・同定とVero毒素(VT)の確認により診断した医師の全数届出が義務付けられている。また、2006年4月より、溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome; HUS)発症例に限り、便からのVT検出あるいは患者血清におけるO抗原凝集抗体または抗VT抗体検出によって診断した場合も届出が必要となっている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html)。さらに、医師から食中毒として届出があった場合や、保健所長が食中毒と認めた場合には「食品衛生法」に基づき、各都道府県等において調査および国への報告が行われる。

一方、地方衛生研究所(地研)がEHECの検出、血清型別、毒素型別を行い、国立感染症研究所細菌第一部では分離菌株について詳細な分子疫学的解析を行ってパルスネットで情報提供している(本号6ページ)。

患者発生動向:2008年にはEHEC感染症患者および無症状病原体保有者(以下EHEC感染者)が4,330例報告され(表1)、2年連続で4,000例を超えた(IASR 29: 117-118, 2008)。2008年の週別報告数は、例年同様季節変動が大きく、夏季に流行のピークがみられた(図1)。人口10万対都道府県別発生数は佐賀(19.97)が最も多く、岩手(11.91)、福井(9.49)および長崎(9.40)がそれに続き、例年同様かなりの地域差がみられた(図2左)。2005〜2007年に発生の多かった地域は2008年も多い傾向が見られた。2008年のEHEC感染者は例年同様0〜4歳がもっとも多く、5〜9歳がこれに次いだ(図3)。都道府県別にみると、保育所・幼稚園での集団発生があった佐賀県(本号15ページ)、岩手県(本号10ページ)において0〜4歳の人口10万対患者報告数が多かった(図2右)。0〜14歳では男性が多く、15歳以上では女性が多かった。有症者の割合は、男女とも若年層と高齢者で高く(14歳以下で73%、70歳以上で73%)、30代、40代では43%以下であった(図3)。また、HUSあるいは急性腎不全による死亡例が8例報告された。

EHEC検出報告:2008年に地研から国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)に報告されたEHEC検出数は2,471であった。EHEC感染者報告数(表1)と開きがあるが、これは、現在のシステムでは地研以外で検出された菌株についての検出報告がすべて届いていないことによる。2007年にやや増加したO157の割合は75%→65%に再び減少し、O26は13%→24%に増加、O111は6%→4%であった(http://idsc.nih.go.jp/iasr/virus/bacteria-j.html)。その他にも多様な血清型が検出されており、市販の抗血清で同定できない血清型でVTが検出される株もある(IASR 25: 141-143, 2004)ことから、EHECの同定にはVTの確認が重要である。分離菌株が産生しているVT(または保有している毒素遺伝子)の型をみると、2008年も例年同様O157ではVT1&2が61%を占めた(1997〜2007年は53〜68%)。O26はVT1単独が96%で、O111はVT1単独が例年より減少して36%であった。

2008年のEHEC検出報告2,471例中O157は1,611例で、不詳を除く1,541例の主な症状は下痢57%、腹痛53%、血便39%、発熱21%で(3ページ特集関連資料)、HUS発症者は26例(VT2が8例、VT1&2が18例)であった。この他O145の34例中1例(VT2)でHUSが報告された。HUS発症者は有症者の1.9%を占め、感染症発生動向調査で把握された血清診断を含むHUSの割合3.3%よりも低い(本号4ページ)。O26では無症状者の割合が52%と大きかった(3ページ特集関連資料)。

集団発生とその予防:2008年に地研からIDSCに報告されたEHEC感染症集団発生は37事例あり、21事例がO157によるものであった。菌陽性者10人以上の20事例では(表2)、伝播経路が食品媒介と推定された事例は4件あり、人→人感染と推定された事例が12件であった。なお、「食品衛生法」に基づいて都道府県等から報告された2008年のEHEC食中毒は17事例、患者数115名であった(2007年は25事例928名)(注:「感染症法」による報告数に比べ患者数が極端に少ないのは、感染原因が食品等の飲食によると判明するケースが少ないこと、患者1名の場合は食中毒としての届出が出されにくいことによる)。

2008年も依然として保育所・幼稚園での集団発生が多く13件あった。EHECは赤痢菌と同様に微量の菌により感染が成立するため、人→人感染で感染が拡大しやすい。保育所等での集団感染予防には、普段からの園児・職員の手洗い、夏季の簡易プールなどの衛生管理に注意を払う必要がある。さらに、家族内感染が多いので、患者が発生した場合には、家族に対して二次感染予防の指導を徹底する必要がある。

また、少数菌で汚染された食品が感染の原因となりうるため、食中毒予防の基本を守り、若齢者、高齢者ほか、抵抗力が弱い者には、生肉または加熱不十分な食肉等を食べさせないことも重要である(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/03.html)。

2009年速報:本年第1〜15週までのEHEC感染者届出数は247例である(表1)。第5〜6週に大分県の保育所集団発生例からO121が31件検出されている。夏季にはEHEC感染症の増加が予想されるので、今後一層の注意喚起が必要である。

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る