2009年に人から広域に分離されたEHEC O157のPFGEパターンのクラスター解析
(Vol. 31 p. 155-156: 2010年6月号)

国立感染症研究所細菌第一部に送付され解析を行った2009年分離のヒト由来腸管出血性大腸菌(EHEC)は2,243株あり、そのうちO157は1,597株、O26は351株あった(2010年2月現在)。

2009年にはXba Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンがO157で829種類(Type No.e1〜e716およびその他)見られ、少なくとも三つ以上の異なる都道府県から分離された同一PFGEパターンが33種類あった。このうち、六つ以上の都道府県から分離されたO157には7種類の泳動パターンがあった[Type No.(TN)c47、c57、c293、d92、d654、e99、e241、(図1)]。TN c47、c57、c293は2007年と2008年に引き続いて分離されているパターンであり、TN d92、d654は2008年から分離されているパターン、TN e99およびe241は2009年に初めて分離されたパターンである。これらの株についてBln IによるPFGEパターンを比較しても、それぞれのパターンにおける変異はほとんど見られなかった。TN e241を示す株は、ステーキチェーンA(本号5ページ)関連事例に由来するものであり、その他にも2009年には、ステーキチェーンB(本号6ページ7ページ)および焼肉チェーンC(本号8ページ)において広域での同時多発的散発事例が発生した。これらの株についてMultiple-locus variable-number tandem repeat analysis(MLVA)法を用いて、9種類の遺伝子座のリピート数に基づくMLVAタイプを明らかにすることにより、分離株相互の関連性について解析した(図2)。その結果、TN e241(ステーキチェーンA由来株)を示す株の大部分はリピート数の一致する株(大円で表示)であり、相互の関連性を裏付ける結果となった。また、同一PFGEタイプの広域分離株においてもリピート数が少しずつ異なっている株(変異株;枝分かれした小中円で表示)が存在していることから、これらのグループは変異株が集合して構成されていることが明らかになった。特に分離期間が長期にわたるTN c293、d92の株では、多数のMLVAタイプの株が含まれており、多様な遺伝子型の株が含まれていることが示唆された。一方、分離期間が比較的短い、TN d654やステーキチェーンBおよび焼肉チェーンCに由来する株においても、明らかに遺伝子型が異なる複数のグループが存在していた。

ステーキチェーンA関連事例でも明らかなように、分離地が異なっていても遺伝子型が一致する株については関連性が高いと考えられ、広域散発事例由来株においても遺伝子型が一致する株ではその関連性が高いことが示唆された。しかしながら、チェーン店関連事例由来株においても、明らかに異なる遺伝子型を示す分離株が存在する場合があることから、分離株の関連性は菌株の遺伝学的解析結果のみならず、疫学的解析結果を十分考慮することが重要と考えられる。

国立感染症研究所細菌第一部
寺嶋 淳 伊豫田 淳 泉谷秀昌 三戸部治郎 石原朋子 大西 真

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