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Vol.14 (1993/9[163])

<特集>
麻疹 1990〜1992


 麻疹は古くから知られる代表的なウイルス性発疹症で,強い伝染力と高い発症率を持ち,発熱,カタル症状,斑丘疹状の紅い発疹を主徴とする。その疫学的状況は,有効な生ワクチンの開発,普及により大きく変わりつつあるが,なおその推移を監視する必要がある。

 図1に感染症サーベイランス情報による週ごとの一定点当たり麻疹様疾患患者報告数の推移を示した。日本では1978年10月から麻疹ワクチンが定期接種となっており,麻疹の流行規模は小さくなってきているが,なお毎年4〜5月をピークとして流行がみられる。最近最も大きい流行があったのは1984年で,その後1987年,1991年に比較的大きな流行が観測された。

 麻疹の発生を地域別にみると,地域によって流行年が異なる(図2)。1991年は比較的大きな流行年に当たり,各地で発生が増加したが,1992年になると東日本の一部を除き減少した(図3)。図2と図3における地域別の比較では,地域による報告定点数などのばらつきを除くために,麻疹様疾患患者報告数を突発性発疹患者報告数で割った比を用いている。

 患者の年齢分布を図4に示した。1990年までは1〜4歳が62〜67%を占めていたが,1991,92年とそれぞれ56,54%に減少した。これと対照的に10歳以上が顕著に増加した。この年齢群の占める割合を1982,87および92年で比較すると,それぞれ3.1%,4.6%,14.4%となる。

 病原微生物検出情報において,麻疹ウイルスの分離1982〜90年の9年間に30株が報告されたにすぎないが (本月報Vol.11,No.11,1990参照), 1991年には19株,92年には22株とわずか2年間で41株が報告され,報告数の増加が目立った。その理由は,最近,麻疹ウイルスに感受性の高いB95a細胞が分離に用いられるようになったためと推定され (本月報Vol.13,No.8,1992および本号参照)。 両年とも4〜6月の流行期を中心に分離された。検体の種類は鼻咽喉材料40,皮膚病巣1である。ウイルス分離例の年齢は0〜4歳24,5〜9歳6,10〜14歳6,15歳2および22歳,36歳,年齢不明各1であった。検査材料採取時の臨床診断名が記載されていた32例についてみると,麻疹様疾患27,感染性胃腸炎,ヘルパンギーナ,咽頭結膜熱,川崎病,突発性発疹各1であった。

 厚生省伝染病流行予測調査では健康児の麻疹HI抗体保有状況を1978,79,80,84,89,90および91年と8回調査している。年齢別抗体保有率は調査年ごとに幾分変化が認められ,特に3歳,4歳児において顕著である。即ち,1979年,80年にいおては70〜83%であったこの年齢群の抗体保有率が,1982〜89年には80〜87%となり,さらに90,91年には87〜92%に上昇するという傾向がみられた。図5に1979,84,91年の成績を示した。

 1990,91年の2年分の調査成績について,抗体保有率をワクチン接種歴別に比較すると(図6),ワクチン接種者は2歳で80%以上,3,4歳で90%以上が抗体陽性を示し,非接種群と比べて接種効果は著明である。これに対し非接種者の抗体保有率は自然感染による抗体獲得率とみなすことができる。0〜1歳で約20%の保有率が,2歳から急激に上昇し,5歳でほぼ80%になることは,1〜3歳の年齢群を中心に感染したことを示している。今後の流行の阻止のためには,3歳未満児のワクチン接種を徹底させる必要があろう。

 一方,5〜9歳の各年齢で10〜20%の感受性者が残っており(図5),この蓄積により今後,小・中学校あるいは若年成人集団で麻疹流行が起こることが予想される。図4において1991,92年に10歳以上の年齢群の患者の割合が増加していることは,すでにこの傾向を示していると考えてよく対策が必要となっている。



図1.麻疹様疾患患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
図2.ブロック別麻疹発生状況,1982〜1992年 −麻疹様疾患対突発性発疹患者報告数の比−(感染症サーベイランス情報)
図3.都道府県別麻疹発生状況,1991〜1992年 −麻疹様疾患対突発性発疹患者報告数の比−(感染症サーベイランス情報)
図4.麻疹様疾患患者の年齢分布,1982〜1992年(感染症サーベイランス情報)
図5.年齢別麻疹抗体保有状況(厚生省伝染病流行予測調査)
図6.ワクチン接種歴別麻疹抗体保有状況,1990〜91年(厚生省伝染病院行予測調査)





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