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Vol.15 (1994/11[177])

<特集>
溶連菌感染症 1992.1〜1994.8


 レンサ球菌の感染によって起こる種々の病態のうち,感染症サーベイランスの対象となっているのは主としてA群レンサ球菌による咽頭炎である。患者定点医療機関からの患者発生報告数は,1992年は68,372,1993年は70,273で,感染症サーベイランス開始以来最も多い発生となった。定点当たり年間報告数は1987年に最低値21.1を記録して以来,1988年22.9,1989年24.7,1990年25.0,1991年27.7,1992年28.3と推移し,1993年にはこれまでの最高値29.0となった。患者発生パターンは1〜3月,5〜7月に低い山,10〜12月に高い山の三峰性が例年繰り返されてきたが,1993年11〜12月の多発に引き続き1994年1〜3月および5〜7月の山はいずれも高く,感染症サーベイランス開始以来最大の流行となった(図1)。ブロック別患者発生の推移をみると,1990年に急増した北海道での発生は現在も続いており,全国平均の約2倍を維持しているのが目立つ。一方,減少傾向を示したのは近畿地方のみで,他地区は横ばいあるいは漸増傾向にある(図2)。患者の年齢分布は1992年,93年ともに5〜9歳55%,10〜14歳8%で,この年齢群での発生が1988〜1991年に比べてやや増加し,0〜4歳の各年齢における発生はやや減少した。従来通り溶連菌感染症患者の中心は幼児・学童で,0〜9歳で89%を占めた(図3)。

 病原微生物検出情報では1990年1月以降,医療機関からは検体材料別に病原菌検出報告を収集している。1992年に検出されたA群レンサ球菌は,咽頭および鼻咽喉材料から11,597,咯痰・気管吸引液および下気道材料から672であった。1993年の検出数はそれぞれ12,462および809で,いずれも前年を上回った。

1988〜1994年8月の地研・保健所集計によるA群レンサ球菌の月別検出状況と1993年末までのT型別検出状況を図4に示した。A群レンサ球菌の月別検出数はサーベイランスの患者発生パターン同様三峰性を示した。年間検出報告数は1988年は1,837,1989年1,622, 1990年1,324,1991年1,677,1992年1,752,1993年1,736であった。1994年は8月末で,すでに前年の年間検出数に匹敵する1,708が報告されている。1988〜93年の間に上位に検出された血清型はT1,T4およびT12であった。これらの型はわが国で高率に検出され,3〜4年の周期で流行を繰り返してきたが,1993年末には再びT4およびT12の検出数の増加がみられた。また,1988年以降検出数のきわめて少なかったT3およびTB3246の増加とT6の減少も注目された(表1)。1984〜86年に見られたT3による流行はいったん収まっていたが,1992〜93年にT3検出数の増加傾向がみられており,T3流行の再燃が懸念される。埼玉県で1993年9月〜1994年9月に検出されたA群レンサ球菌582株についてT型別を実施した結果からも,T3検出数の増加が指摘された (奥山ら,本号参照)

 A群レンサ球菌による感染症のなかで,最近注目された疾患に劇症型A群溶連菌感染症がある (本月報Vol.15,bS,1994参照)。 わが国では1992年に初めて症例報告があった。その後,A群レンサ球菌の発熱毒素(SPE)型別のために東京都立衛生研究所に送付された菌株は1994年9月までに72株に達した。五十嵐らの解析によると (本号参照), これらの株はいずれも劇症型A群溶連菌感染症の診断基準に該当する患者から分離されたものであり,患者の分布は全国23都道府県にわたっていた。患者の死亡率は38%(72名中27名)であった。72株中,T血清型で最も多かったのはT3の38%,ついでT1の28%であった。わが国で咽頭炎患者から高率に検出されるT4およびT12の検出率はそれぞれ4.2%,6.9%であった。SPE型で検出数の多かったのはB+C,A,B,A+Bなどで,検出率はそれぞれ24%,22%,22%,21%であった(図5)。



図1.溶連菌感染症患者報告数の推移,1988〜1994年(感染症サーベイランス情報)
図2.ブロック別溶連菌感染症患者発生状況,1988〜1993年(感染症サーベイランス情報)
図3.溶連菌感染症患者の年齢分布,1988〜1993年(感染症サーベイランス情報)
図4.A群レンサ球菌の主要T血清型月別検出状況(地研・保健所集計)
表1.A群レンサ球菌の主要T血清型分布,1988〜1993年(地研・保健所集計)
図5.劇症型A群溶連菌感染症患者から分離された菌のT血清型と発熱毒素型(1992年7月〜1994年9月受理分)





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