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カンピロバクター腸炎の原因菌はCampylobacter jejuniおよびC. coliで,小児や学童に罹患者が多く,細菌性下痢症の約10%を占める。
病原微生物検出情報で収集する情報のうち,地研・保健所から報告されるカンピロバクターの多くは集団発生の食中毒患者から,医療機関からの報告は散発事例患者から検出されたものである。都市立伝染病院(13都市16病院)からは入院患者の検出情報が報告される。
1983〜1994年に各機関から報告されたカンピロバクター検出数の推移を表1に示した。地研・保健所では1985年をピークとして検出数の減少傾向が続き,1993年には1985年の約1/5にまで減少した。医療機関からの検出数も1988年以後は漸減している。都市立伝染病院における検出数は1989年以降2桁台にとどまった。厚生省統計情報部「食中毒統計」によるカンピロバクター食中毒患者数は1993年には948まで減少したが,1994年には再び2,160に増加した。輸入例からのカンピロバクター検出数は,国内例の減少にかからわず,ほぼ一定であった。
1993〜94年に報告されたカンピロバクターの種別実施率は,地研・保健所では82%,医療機関では34%であった。種別の結果は大部分がC. jejuniで,C. coliは少なかった(表2)。
1990〜1994年の月別検出数を報告機関別に図1に示した。1990〜1992年は地研・保健所および医療機関とも,5〜6月にピークを示す検出パターンがよく一致したが,1993〜1994年は不一致がみられた。食中毒の少なかった1993年は,地研・保健所の検出パターンに季節性はみられず,検出数も年間を通じて少なかった。一方,医療機関では8月に検出の山を示し,検出数も例年並であった。地研・保健所集計にみられる1994年10月のピークは,千葉県における大規模食中毒の反映である
(本号参照)。
地研・保健所から報告されたカンピロバクターによる流行・集団発生は,1993年は14件,1994年25件であった。発生規模別では患者数100以上が7件(18%),50〜99が7件(18%),10〜49が16件(41%),9以下が9件(23%)であった。1事件当たりの平均患者数は1993年は45,1994年は78で,従来に比べて小規模化の傾向がみられた
(本月報Vol.11,No.5および
Vol.14,No.7参照)。
39件の食中毒のうち原因の判明した事件は,鶏肉など食肉によるもの10件,飲料水によるもの2件であった。食中毒の発生施設は飲食店が36%(14件),学校あるいは保育園が28%(11件)であった。原因を学校給食と明確にしたのは6件であった。東京都のC. jejuni血清型LIO2型による集団発生では,学校給食に用いた未加熱の鶏肉が原因であることが明らかになった
(本号参照)。
地研・保健所から報告されたC. jejuni/coliの食品別検出状況を表3に示した。1990〜1994年に報告された926件中806件(87%)が鶏肉から,56件(6%)が豚肉,合鴨肉,馬肉,牛レバーなどの食肉から検出された。
1993〜1994年に病原微生物検出情報へ血清型別の報告がなされたのは4件のみであった。わが国では,C. jejuniの血清型別は,全国衛生微生物技術協議会の支部センターで実施され,レファレンスセンター(東京都立衛生研究所)で取りまとめられる。わが国で高頻度に検出された血清型はLIO4型,同11型,同1型,同2型,TCK1型,12型であった
(本号参照)。
1993〜1994年に都市立伝染病院にカンピロバクター腸炎で入院した患者96例の年齢分布によると,0〜9歳が31%,20〜29歳が28%と多く,高齢者は少なかった(表4)。
上記入院患者のうち,カンピロバクターのみが検出された73例の主要臨床症状を表5に示した。患者の94%に腹痛が,84%に水様便がみられた。最高体温は平均38.3℃であった。
都市立伝染病院でC. jejuniの薬剤感受性試験を実施した結果,1993〜1994年はオフロキサシン耐性菌が12%(4/34株),ノルフロキサシン耐性菌が14%(1/7株)検出され,これらのピリドンカルボン酸系薬剤耐性菌は,全例が輸入例であった。また,両耐性菌は1990〜1992年の1.7%(2/116株)と6.8%(5/74株)に比べ増加した。今後の監視が必要である。
表1. カンピロバクター年別検出報告数および食中毒患者数1983〜1994年
表2. カンピロバクター種別検出報告数 1993〜1994年
図1. 月別カンピロバクター検出状況,1990年1月〜1995年4月
表3. 食品等から検出されたCampylobacter jejunil/coli(地研・保健所)
表4. Campylobacter jejunil/coliが検出された入院症例の年齢分布1993〜1994年(都市立伝染病院)
表5. カンピロバクター腸炎の臨床症状1993〜1994年(都市立伝染病院)
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