The Topic of This Month Vol.19 No.7(No.221)


手足口病

手足口病は、口腔粘膜および四肢末端に現れる水疱性の発疹を主症状とし、幼児を中心に夏期に流行する、ありふれた急性ウイルス性感染症で、わが国では1967年ごろからその存在が明らかになった。手足口病の主な病原ウイルスは、エンテロウイルスであるコクサッキーA16型(CA16)、エンテロウイルス71型(EV71)、コクサッキーA10型(CA10)が良く知られているが、いずれのウイルスに感染しても現れる症状は同じなので、病原診断は基本的にウイルス分離・型同定によって行われている。人−人伝播は主として咽頭から排泄されるウイルスによって起こるが、エンテロウイルスの特徴として、主な症状が消失した後も3〜4週間は糞便中にウイルスが排泄される。急性髄膜炎が時に見られるが、これまでの報告ではそのほとんどは予後は良い。ただし、EV71は、中枢神経合併症の発生率が他のウイルスより高いことが知られている。

感染症サーベイランス情報による、1982〜1997年までのわが国の手足口病患者報告数の推移を図1に示した。最近では1995年に大きい流行が見られた。流行のピークは夏期であるが秋から冬にかけても手足口病が発生している様子が分かる。1993〜1997年の都道府県別患者発生状況を図3に示した。年によって発生状況には地域差が見られるが、おしなべてどこの地域でも本症は見られている。手足口病患者の年齢は、図4に見るように2歳以下が半数を占める。

地方衛生研究所などで手足口病の主な病原ウイルスであるCA16、EV71、CA10が分離された例についてその臨床診断名を見ると(表1)、CA16では手足口病が89%で最も多く、ついでヘルパンギーナが3.3%であった。EV71では手足口病が83%で最も多く、ついで髄膜炎11%、ヘルパンギーナは1.2%であった。CA10ではヘルパンギーナが79%と最も多く、手足口病は16%と低く、髄膜炎は2.6%であった。1982年以降の月別ウイルス分離状況(図2)からも、手足口病の流行年に一致してCA16あるいはEV71のいずれかが多数分離され、一方、CA10の分離報告は手足口病とは必ずしも一致していないことがわかる。3年前の1995年の流行はCA16によるもので、1997年はEV71が主に分離された(本号4ページ参照)。

手足口病の合併症

マレーシア東部のサラワク州(ボルネオ島)では、1997年2月ごろより小児の間で手足口病の大流行があり、その中で幼児30人の死亡例が発生した。最終結論は得られていないが、手足口病の経過中には急性死があること、剖検所見からは中枢神経系合併症、ことに脳幹脳炎などの重篤なものが見られていること、病原ウイルスとしてEV71がその原因の一部となっている可能性があること、などが明らかとなった(本号3ページ参照)。

1997年大阪市では例年をやや下回る程度の手足口病の流行があった。その中で、手足口病もしくはEV71感染に関係があると思われる3例の小児の急性死が報告された(本月報Vol.19、No.3、1998参照)。大阪府立公衆衛生研究所で分離されたウイルスについて感染研で塩基配列を決定し、従来の分離株と比較した。ここ1〜2年間に日本で分離されたEV71は大きく分けて2種類(メジャーとマイナー)に区別され、大阪での死亡者から分離されたEV71株はマイナー型に分類されるものであった。昨年サラワクで得られたEV71株も、このマイナー型に類似するものであった(本号3ページ参照)。

IASRへの報告では1982〜1997年にEV71が分離された 2,337例中14例に脳炎が報告されている。また、ウイルスは分離されていないが1993年に手足口病の経過中に脳炎を合併して死亡した例が富山県から報告された(本月報Vol.14、No.11、1993参照)。

最近の学会などでの報告によると、手足口病に伴った以下の重症例がある:1995年岡山でのEV71感染によると思われる(血清診断)限局性脳炎例(小児感染免疫10:19-22、1998)、1997年滋賀でのEV71感染によると思われる(血清診断)脳炎7例(1998年日本小児科学会)、1997年大阪での15例の手足口病経過中の急性小脳失調症例(1998年日本小児神経学会)。

1998年5月から台湾では手足口病あるいはEV71感染に伴ったと思われる幼児の死亡例が増加し、問題となっている(本号11ページ参照)。感染研では台湾側と情報交換を行い、病原体に関する共同調査を進めている。台湾衛生当局によれば、6月24日の時点で手足口病およびその関連が疑われた死亡例は50例、重症例は 248例が登録されている。年齢は1〜3歳にピーク、0〜15歳まで裾野がある。衛生当局は、一般的公衆衛生対策の強化、子どもの行事(キャンプ等)中止の勧告を行い、サーベイランスの強化および積極的疫学調査の開始を決定した。

日本の厚生省は1998年6月8日、日本医師会に対して事務連絡として、手足口病のわが国での状況、マレーシア・台湾での報告例など、EV71に関する情報提供を行った。手足口病は基本的には自然回復する予後良好な疾患で、目下のところ重症合併症の発生は極めて稀なことである。しかし、今夏の日本の手足口病の発生状況と病原ウイルスの種類(CA16、EV71)を注意深く監視する必要がある。感染症情報センターでは手足口病の地域別発生状況およびウイルス分離速報をインターネットホームページ(http://idsc.nih.go.jp/kanja/index-j.html)に載せている。

速報:1998年は、これまでに大きな流行が見られた年(1995、1990、1988)と同様に手足口病患者発生の立ち上がりが早い(第23週現在)。ウイルスはCA16が岩手(4〜5月)と島根(4〜5月)で、EV71が鳥取(4月〜)で、いずれも手足口病患者から分離されている。

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