The Topic of This Month Vol.20 No.11(No.237)


ウイルス性胃腸炎集団発生 1997.10 〜1999.9

1997年5月30日食品衛生法施行規則が一部改正施行され、小型球形ウイルス(SRSV)とその他のウイルスが食中毒病因物質として明示された(本月報Vol.19、No.1参照)。食中毒発生が保健所に届けられると、保健所は疫学調査を行い、病原体検査のための患者糞便および食品を採取する。ウイルス起因が疑われる場合には、検査材料は地方衛生研究所(地研)に送られる。このため、地研ではSRSV検査体制の整備が進められてきた。厚生省食中毒統計によれば1998年1年間に発生した食中毒のうち病因物質が微生物と判明した事件は 2,743件(患者数41,550人)、このうちウイルス性食中毒が123 件(5,213人)で、事件数では4.5%、患者数では13%を占めた。

一方、1997年1月から地研と国立感染症研究所感染症情報センター間の病原体検出報告の収集還元がオンライン化され、これを契機にウイルス性胃腸炎集団発生の実態を明らかにするため、「ウイルス起因を疑う胃腸炎集団発生事例別情報」の収集が開始された。この情報には食品媒介事例のみならず、ウイルスの人→人伝播による集団発生の報告も含まれている。本特集では1997年10月〜1999年9月に発生した258 事例の報告(1999年10月18日現在)をSRSV起因事例中心にまとめる(1997年1〜10月の報告については本月報Vol.19、No.1参照)。

図1に月別発生状況を示した。発生は冬季に多い。1997年5月の食品衛生法改正以後、推定起因ウイルス不明の事例が大きく減少し、1997年10月〜1999年9月に発生した258事例中起因ウイルスが推定されたものは234事例、うちSRSV(またはNorwalk-like virus; NLVともいう)が226事例と大部分を占めた。SRSV以外はA群ロタウイルス3、C群ロタウイルス2、コロナウイルス3事例で、不明が24事例あった。SRSVの推定伝播経路は、食品媒介が疑われた事例が162、人→人伝播が疑われた事例3、不明61であった。

患者発生規模を見るため、SRSVに起因すると推定された226事例中、患者数の明らかな213事例の患者数を2の累乗で区切って集計すると、患者数9〜16人(47事例)を中心に分布した(図2)。以下、小規模(2〜8人)、中規模(9〜32人)、大規模(33人以上)に事例を分類する。患者数65人以上の事例の概要を表1に示す。

SRSVに感染した場所、または感染の原因となった食品を摂食した場所を患者発生規模別に図3に示す。小規模71事例では飲食店が37(52%)と過半数を占め、次いで家庭9(13%)が多い。中規模90事例では飲食店39(43%)、宴会場12(13%)、ホテル・旅館9(10%)に次いで学校7(7.8%)、老人ホーム・知的障害者施設6(6.7%)、保育所・幼稚園5(5.6%)、寮3(3.3%)と、集団で生活をする場所で発生した事例の割合が小規模事例に比べ大きい。大規模52事例では飲食店が13(25%)と少なくなり、中規模事例同様に宴会場10(19%)、ホテル・旅館6(12%)、学校6(12%)、保育所・幼稚園5(9.6%)がこれに次いでいる。その他に病院で発生した事例も2事例みられた。

SRSV伝播経路と推定原因食品を規模別にみると(図4)、小規模事例の41%、中規模事例の34%ではカキが原因食品と推定されているのに対し、大規模事例では給食・仕出し弁当によると思われる事例が17%と最も多く、カキ関連事例の割合が少ない。また、大規模事例では伝播経路や原因食品を特定できない事例が多い。現時点ではSRSVは培養ができないため、多くの事例で推定原因食品中の微量のウイルスを正確に検出することが困難である。

従来、地研でのSRSV検出は電子顕微鏡が主であったが、現在RT-PCRが一般的となってきている。PCRによる場合はハイブリダイゼーションなどを組み合わせることによって、遺伝子群別(genogroup I 、II)も可能であり、わが国ではgenogroup IIが多いことがわかってきた。さらに塩基配列の解析により株間鑑別が可能となり、地域によって流行株に違いがあることも示唆されている(本号3ページ参照)。

さらに、塩基配列解析の結果、SRSVの伝播経路の推定も可能となり、地域の小児間で流行していたSRSVが小児→家族→その家族が調理した食品という経路で伝播し、集団発生が起こったと考えられる事例が報告されている(本号3ページ参照)。SRSV胃腸炎集団発生の週別事例数を、小児(15歳未満)のSRSV胃腸炎患者数(本月報Vol.19、No.11参照)と比較すると(図5)、非カキ関連集団発生と小児のSRSV胃腸炎の発生は同様に推移している。非カキ関連集団発生が起こった場合は、周辺地域の小児SRSV胃腸炎の流行状況を把握することも重要である。また、非カキ関連集団発生は冬季以外にも起きている(本月報Vol.20、No.8および本号6ページ参照)。

SRSV中空粒子を抗原とした抗体測定ELISA(本月報Vol.19、No.11参照)も集団発生起因ウイルスや伝播経路の推定に有用である(本号4ページ参照)。患者や調理者の糞便からウイルス検出ができない場合でも、急性期と回復期のペア血清間の抗体上昇を検出することによってSRSV感染を推定することができる。発病早期の急性期に糞便採取と同時に採血を行い、さらに回復期に血清を採取することが必要である。

老人ホームなどの施設内では、いったん患者が発生すると、人→人伝播によって感染が拡大する場合がありうる。1999年5月に秋田の一施設内で起きた集団発生では、ただちに講じた二次感染予防対策が功を奏したことが報告されている(本号5ページ参照)。

上述のごとく、小規模SRSV食中毒事例では、生カキが原因と考えられるものが毎冬季に多発していることが明らかとなってきた。患者が食べたカキの溯り調査を緊急に行い、食中毒被害拡大を防止するため、1999年10月1日より生食用カキの包装容器に採取海域の表示が義務づけられている(平成10年12月28日生衛発第1825号、本号7ページ参照)。

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