2001/02シーズンのインフルエンザは、 2000/01シーズンに続きA/H1N1(ソ連)型、 A/H3N2(香港)型、 B型の混合流行であり、 過去10年間では、 1993/94、 2000/01シーズンに次ぎ3番目に患者数が少なかった。AH1型は3シーズン、 AH3型は5シーズン連続で類似の抗原性をもつウイルスが主流であった。一方、 国内初のA/H1N2型が分離され、 B型は主流が山形系統からビクトリア系統ウイルスに入れ替わるなどの変化もあり、 インフルエンザサーベイランスはますます重要なものとなっている。
患者発生状況:感染症発生動向調査では、 インフルエンザ定点全国約5,000医療機関(小児科3,000、 内科2,000)から臨床診断あるいは迅速抗原検出キットで診断されたインフルエンザ患者数が週単位で報告される。2001/02シーズンは、 2002年第2週に全国レベルで定点当たり1.0人を超えた後、 急激に増加した。第6〜8週をピークに減少し、 第15週には定点当たり1.0になった(図1)。都道府県別にみると(図2)、 九州地方で早く、 東北地方で遅れて流行期に入り、 10〜14週間後に終息しているが、 後述のようにB型ウイルスによる流行が遷延し、 東北、 九州の一部では第22週、 沖縄では第30週まで定点当たり1.0以上の報告が続いた。年齢群別でみると(表1)、 3〜5歳をピークに0〜9歳の患者が約6割を占めていた。
2001年12月1日〜2002年4月9日に、 インフルエンザ定点のうち約400医療機関の協力によりインフルエンザ患者数の毎日報告がインターネット上に掲載された(http://influenza-mhlw.sfc.wide.ad.jp参照)。1月15日を境に報告数が急増し、 発生動向調査よりも流行を迅速に把握する手段として有用であった。
2000/01シーズンに開始された「警報・注意報システム」(http://idsc.nih.go.jp/others/topics/newpage2.html参照)では、 2001年第52週と2002年の第1週にそれぞれ1保健所に注意報が出され、 第2週には8保健所に注意報、 第3週には45保健所に注意報と6保健所に警報が出され、 以後全国各地で増加した。
また、 全国の幼稚園、 小中学校などにおける学級閉鎖等を伴うインフルエンザ様疾患患者発生報告(http://idsc.nih.go.jp/kanja/infreport/report.html参照)によれば、 2001/02シーズンの累積患者報告数は34.5万人で、 2000/01シーズンの2.8倍であった。
ウイルス分離状況:2001/02シーズンには、 全国の地方衛生研究所からインフルエンザウイルスAH1型3,253、 AH3型3,095、 B型1,820の分離が報告された(2002年11月26日現在)(表2)。A型のほとんどはN型別されていないが、 2月に横浜市で集団発生例から分離された2株はA/H1N2型であることが確認された(本月報Vol.23、 No.8参照)。
AH3型が2001年第42週に、 AH1型が第44週に初めて分離され、 両型が2002年第1週よりほぼ同時に急増し、 それぞれ第6週、 第5〜6週にピークとなった。遅れて第50週に初めて分離されたB型が2002年第3週より増加し、 第11週をピークに第28週まで分離が続いた(図1)。都道府県別にみると、 どの型もほぼ全国で分離されたが、 東北、 九州・沖縄地方では、 B型ウイルスの分離報告が20週を越えても継続した(http://idsc.nih.go.jp/prompt/graph-kj.html参照)。インフルエンザウイルス分離例の年齢分布をみると、 AH1型とAH3型は低年齢を中心に分離され、 すべての年齢層で2000/01シーズンの報告数を上回った。B型は2000/01シーズンより年長の7歳以上の小児を中心に分離されたが、 20歳以上からの分離は少なかった(図3)。
ウイルス抗原解析:2001/02シーズンに分離されたAH1型の96%はA/New Caledonia/20/99(同シーズンワクチン株)類似株、 AH3型の97%はA/Panama/2007/99(同シーズンワクチン株)類似株であった。B型は1989/90シーズン以降、 山形系統のウイルスが主流であったが、 2001/02シーズン後半にはビクトリア系統が主流となり、 シーズン中に分離されたB型の大部分はビクトリア系統に属していた。このため2002/03シーズンのB型ワクチン株はB/Johannesburg/5/99(山形系統)からB/Shandong/7/97(ビクトリア系統)に変更された(本月報Vol.23、 No.10&11参照)。
インフルエンザによる関連死亡:2001/02シーズンは2000/01シーズン同様、 国民の総死亡数でみたインフルエンザによる超過死亡は無かった。また、 2001/02シーズンから「インフルエンザ関連死亡迅速把握システム」が厚生労働省WISH上で稼働し、 13大都市から肺炎死亡およびインフルエンザ死亡のデータが週単位で報告されるようになった。これに基づく超過死亡の推計は、 後方視的な国レベルでの結果と一致している。
高齢者のインフルエンザワクチン接種率:2001年の予防接種法改正により高齢者(主として65歳以上)が一部公費負担で、 インフルエンザワクチンを接種することが可能となった(本月報Vol.22、 No.12参照)。予防接種法に基づく2001/02シーズンの高齢者に対する接種率は27%であった(本号5ページ参照)。
インフルエンザ脳症:厚生労働省インフルエンザ脳炎・脳症研究班(班長・森島恒雄名古屋大学教授)による全国調査では、 1999年217例、 2000年109例、 2001年63例が該当例とされた。2002年は、 従来同様各都道府県から報告された118例に、 小児科を標榜し入院設備を有する診療機関からの直接報告109例を加え、 総計227例が該当例とされた。2002年調査では、 致死率15%、 後遺症21%と改善している(本号4ページ参照)。
2002/03シーズン前の抗体保有状況:2002年7〜9月に、 2002/03シーズンワクチン株3株(本月報Vol.23、 No.10参照)を含む4株の抗原を用いて感染症流行予測調査による感受性調査が実施された(18道県分の集計速報、 http://idsc.nih.go.jp/yosoku99/index.html参照)。HI抗体価40以上の抗体保有率は以下のとおりである。A/New Caledonia/20/99(H1N1):5〜19歳約40〜50%、 0〜4歳と20代20%前後、 30歳以上10%前後。A/Panama/2007/99(H3N2):5〜9歳70%弱、 10代55〜65%、 0〜4歳25%、 20〜40代約20%、 50代約10%、 60歳以上31%。B/Shandong/7/97(ビクトリア系統の2002/03シーズンワクチン株):20代20%弱、 その他の年齢群はすべて10%以下。B/Shenzhen/407/2001(2001/02シーズン流行株とは遺伝的に異なる山形系統株):10代20%弱、 その他の年齢群はすべて10%以下(本号3ページ参照)。B型に対する抗体保有率が低いのが目立つ。
2002/03シーズンウイルス分離速報:B型が2002年11月11日に埼玉で小学校の集団発生例から(本号9ページ速報参照)、 11月28日静岡市で散発例から、 AH3 型が11月12日に大阪市で散発例から(本号8ページ参照)、 11月14日富山で散発例、 11月18日浜松市で散発例、 11月26日石川で集団発生例から分離されている(2002年12月3日現在)(http://idsc.nih.go.jp/prompt/graph-kj.html参照)。
平成14年11月6日、 厚生労働省は「今冬のインフルエンザ総合対策について」の通知を出し、 11月5日より、 インフルエンザホットラインが開始された(本号7ページ参照)。
*インフルエンザに関する各情報はhttp://idsc.nih.go.jp/others/topics/newpage2.htmlも参照下さい。