The Topic of This Month Vol.25 No.9(No.295)

手足口病 2000〜2003

(Vol.25 p224-225)

手足口病は、口腔粘膜および四肢末端に現れる水疱性の発疹を主症状とし、幼児を中心に夏季に流行する。手足口病患者からは、エンテロウイルスであるコクサッキーA16型(CA16)とエンテロウイルス71型(EV71)が主に分離され、病原診断にはウイルス分離・型同定が必須である。また、過去にはコクサッキーA10型(CA10)によるヘルパンギーナの大きな流行中に手足口病患者からCA10も分離されている。感染経路は主として飛沫感染であるが、エンテロウイルスの特徴として、主な症状が消失した後も3〜4週間は糞便中にウイルスが排泄されるので、糞口感染にも注意が必要である。従来、神経合併症の予後は良いとされていたが、最近EV71による手足口病の流行中に死亡例や重症例が報告されたことから、手足口病とEV71のサーベイランスの重要性が増している(本月報Vol.19, No.7, Vol.20, No.6, Vol.21, No.10参照)。

患者発生状況とウイルス検出状況:感染症発生動向調査による手足口病患者報告数の週別推移をみると(図1)、流行のピークは夏季であるが、秋から冬にかけても発生していることが示されている。1994年以降では1995年(年間報告数 158,677、定点当たり65.03)、2000年(同 205,365、68.96)、2003年(同 172,456、56.71)に大きい流行が見られた。手足口病患者の年齢は、従来同様5歳以下が約9割を占める状況が続いており、大きな変化はない(図2)。15歳以上の手足口病の報告は例年1%前後あるが、小児科からの報告を集計している本調査からは手足口病患者全体の中に占める成人の割合については不明である。

図3に地方衛生研究所でのEV71とCA16月別検出状況を示す。1994年以降、EV71は3年周期で流行しており、2000年と2003年の手足口病の主な病原はEV71で、2001〜2002年はCA16が主であった。

2000〜2003年の都道府県別患者発生状況を図4に示した。発生状況には地域差が見られ、各地域ごとにみると流行年は異なっている。都道府県別EV71、CA16検出状況をみると(図5)、最近の手足口病流行はEV71かCA16のどちらか単一のウイルスによって全国的な流行が一斉に起きているのではないことがわかる(2003年の各地域での流行状況は本月報Vol.24, No.5 & Vol.24, No.7 & Vol.24, No.8 &Vol.24, No.9参照)。

EV71、CA16検出例の診断名をみると(表1)、2000年および2003年にEV71の検出数が増加したのに伴って、髄膜炎および脳炎・脳症の報告も増加している。一方CA16検出例では髄膜炎および脳炎・脳症の報告は少ない。

手足口病の重症合併症:1997年にマレーシア、1998年と2000年に台湾で手足口病の流行中に小児の急死が相次いだ。わが国でも1997年に大阪から手足口病もしくはEV71感染に関連した3例の乳幼児の急死が報告された(本月報Vol.19、No.3参照)。そこで厚生省(当時)は1998年7月27日〜12月28日を調査期間として、手足口病・ヘルパンギーナの臨床経過中に重症化した症例(脳炎、脳症、心筋炎、急性弛緩性麻痺:AFP、急性呼吸不全)およびその他原因不明の急死例の全国的な調査を行った。その結果、同期間に報告された該当症例は4例であった(本月報Vol.20, No.6参照)。その後、2000〜2002年にも厚生科学研究班(主任研究者:岩崎琢也)により手足口病あるいはヘルパンギーナの経過中に24時間以上入院した症例のアンケート調査が行われた。2000〜2001年の中間結果によれば、EV71が流行の主流であった2000年は入院例が増加し、手足口病では、死亡2人、脳炎・脳症7人、小脳失調18人、ミオクローヌス5人、AFP3人、心筋炎9人、呼吸循環不全2人、肺水腫/肺出血/ショック2人など、重症合併症例が多数発生したことが明らかとなっている(本号3ページ参照)。

EV71は多様な遺伝子型を有しており、広範囲な地域間で頻繁にウイルス伝播が起きていること、EV71の遺伝子型と疾患の重症化については関連性が認められないことなどが示されている(本号5ページ参照)。またサルへのEV71接種実験では、手足口病由来、無菌性髄膜炎由来、脳炎由来のいずれのウイルスであっても重篤な神経症状を引き起こすことが明らかになっている(本号6ページ参照)。

これらのことから、手足口病患者の多くは予後良好であるが、EV71流行時には症状の変化に十分注意し、合併症に対する警戒を行う必要がある。原因ウイルスを含めた合併症に関するサーベイランスを強化し、その結果を迅速に臨床、公衆衛生領域へフィードバックすることの重要性が強調される。

2003年11月の感染症法改正によって急性脳炎(ウエストナイル熱・日本脳炎を除く)は定点報告の4類感染症から全数届出の新5類感染症に変更された。インフルエンザ・手足口病・流行性耳下腺炎等など他の届出基準に該当する感染症に合併した急性脳炎も届出の対象となっている(IDWR Vol. 6, No.9参照)。可能な限り病原体診断が求められ、届出基準に該当する急性脳症も含まれている(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/kansensyo/kijun5a.html#3参照)。これにより、わが国における手足口病の中枢神経合併症(ことに急性脳炎)のサーベイランス体制が整ったといえる。各方面の協力により得られる結果は、今後の発生動向の早期検知、原因究明、そして対策の貴重な検討資料となろう。

速報:2004年の手足口病患者発生は低いレベルで推移している(図1およびhttp://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/06HFMD.html参照)。手足口病関連ウイルスとしてはCA16が秋田(3月)、北九州市(6〜7月)、愛知(6〜7月、本号8ページ参照)、埼玉(7月)、愛媛(7月)、長野(7〜8月)および川崎市(8月)で、EV71が奈良(2月)、東京(5〜7月、本月報Vol.25, No.8参照)で検出されている(2004年9月8日現在、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/s2graph-kj.html参照)。


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