The Topic of This Month Vol.26 No.9(No.307)

ヘルパンギーナ 2005年7月現在

(Vol.26 p 235-236)

ヘルパンギーナは手足口病と並んで毎年夏季を中心として主に乳幼児の間で流行するエンテロウイルス感染症の代表的疾患である。サーベイランスは1981年7月より感染症発生動向調査における約2,500の小児科・内科定点からの報告疾患の一つとして開始された。1999年4月からは感染症法の4類感染症とされ、約3,000の小児科定点医療機関より受診した患者の性別年齢群別数が週ごとに保健所に報告され、都道府県を経由して中央感染症情報センター(国立感染症研究所・感染症情報センター)に報告されている。2003年11月の同法改正施行後は5類感染症となっている。届出は、「突然の高熱での発症」と「口蓋垂付近の水疱疹や潰瘍や発赤」を基準に医師の臨床診断に基づいて行われている。小児科定点の概ね10%が病原体定点となり、地方衛生研究所(地研)が病原体検査を実施し、陽性例を中央感染症情報センターに報告している。

患者発生状況:1982〜2004年の年間患者報告数をみると(図1)、1984年の204,555人(定点当たり97.51人)が最高であり、その後1998年までは7〜12万人で推移した。感染症法施行後は定点数増加に伴い、10〜15万人に増加しているが、定点当たりでは30〜50人と法施行前と同様で、毎年同程度の流行が起きている。

最近6シーズンの週別患者報告数を図2に示す。毎年第22〜23週(5月末〜6月初め)に流行レベルの基準値である定点当たり1.0人を超えた後に急増し、ピークは第27〜29週(7月)である。ピーク後定点当たり 1.0人以下に減少する時期は第31〜38週(8〜9月)と幅があり、秋季まで長引く年もあるが、手足口病に比べると(IASR 25: 224-225, 2004参照)、患者発生は、よりはっきりと夏季に集中している。

患者の年齢は過去20年以上大きな変化はみられず、1〜4歳が約7割と大半を占める(図3)。1998年以降の各年齢をみると、1歳が最も多く22〜25%で、2歳以上の各年齢では年齢が大きくなるにつれ割合が小さくなり、6歳以上は少ない。0歳の割合が次第に減少しているのは、突発性発疹や水痘に見られたパターンと同様であり、出生数の減少に伴うものと思われる。

「重症エンテロウイルス脳炎の疫学的およびウイルス学的研究ならびに臨床的対策に関する研究」班で実施した、入院施設を有する全国約3,000の小児科医療機関へのアンケート調査では(回収率2000、2001年41%、2002年32%)、ヘルパンギーナの臨床経過中に重症化し入院した症例が2000年309例、2001年294例、2002年200例報告されており(IASR 25: 226-227, 2004参照)、手足口病とともにヘルパンギーナ患者の合併症にも注意が必要である。

ウイルス検出状況:ヘルパンギーナの主要病原体はA群コクサッキーウイルス(CA)である。CAは咽頭ぬぐい液から分離されることが最も多く、次いで糞便からも分離されている。1997〜2004年にヘルパンギーナ患者から検出されたCAの主な血清型をみると(表1)、CA4、CA10、CA2、CA6、CA5の順に多かった。1997、1999、2001、2002、2004年はCA4、1998、2000、2003年はCA10が最も多く検出された。年によって流行する血清型が入れ替わるというエンテロウイルスの特徴は、1982〜1996年と同様である(IASR 17: 212-213, 1996, IASR 21: 212-213, 2000、およびhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/virus/graph/ev-1a.html参照)。CA16、エンテロウイルス71型、B群コクサッキーウイルス、エコーウイルスなどのエンテロウイルス、さらにはアデノウイルスや単純ヘルペスウイルスなども少数検出されることがある。

ウイルス同定方法:上記のヘルパンギーナの主要病原となっている血清型のCAの分離では、培養細胞よりも動物(乳のみマウス、特に新生マウス)の方が感受性が良いことが知られており、分離培養の報告のうち動物を用いた分離が半数以上を占めている。しかし、検出方法の報告項目にPCRが追加された2000年以降、年を追ってPCRのみで検出される例数の割合が増加している(図4)。その理由として、分離培養は手間と時間を要し、さらに、乳のみマウスを用いる機関が少なくなっていることなどが挙げられる。エンテロウイルスをPCRで検出する場合は、汎エンテロプライマーが用いられているが(病原体検査マニュアル参照)、病原体の確定には分離培養をゴールドスタンダードとして行うことが必要である。また、最近、分離ウイルスの血清型別に塩基配列解析を用いている例が増加している。しかし、遺伝子解析には、判定上いろいろな問題点が指摘されており、現段階では、中和試験あるいは補体結合(CF)法による血清型別の補助的な方法として行うことが望ましい(本号3ページ参照)。なお、CAではないが、地研に配布されているエンテロウイルス同定用抗血清で同定困難なエンテロウイルスが報告されている(本号4ページ参照)。分離同定に関して判定困難な場合は国立感染症研究所・ウイルス第二部第二室(TEL 042-561-0771)に相談されたい。

2005年の動向:ヘルパンギーナの週別患者報告数は、例年同様第23週(6/6〜12)に定点当たり1.0人を超え、第28週(7/18〜24)に同 6.0人となり、2001年に次ぎ、2000年と並ぶ高さのピークとなった。第35週(8/29〜9/4)現在は、同1.02人となっている(図2)。検出されているウイルスは、ほとんどがCA6(148件)で、次いでCA10(20件)である(表1、9月9日現在)。CA6は2004年の夏季には報告が少なかったが、冬季に検出が報告されており(図5)、2005年第11週(3/14〜20)以降検出が増加し、ヘルパンギーナ患者だけでなく、手足口病患者や上気道炎、発熱の症状を呈した患者などからも検出されている(本号4ページおよびIASR 26: 178, 2005 & 26: 222, 2005参照)。2005年のCA6検出報告数は既に2000〜2004年の各年の年間報告数を上回っており、26地研で検出されている。

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