The Topic of This Month Vol.28 No.10(No.332)

ノロウイルスの流行 2006/07シーズン

(Vol.28 p 277-278:2007年10月号)

ノロウイルス(Norovirus 、以下NV)はRNAウイルスで、大きくgenogroup (G)I〜Vに分けられ、GIとGIIが主にヒトに感染する。少なくともGIは15、GIIは18の遺伝子型が存在する。NVは糞便および吐物中に大量に排出され、症状消失後も長期に糞便中への排出が続く(本号10ページ参照)。NVで汚染された食品摂取により食中毒が起こり、手指等を介して人→人感染が起こる。主症状は下痢、嘔吐、嘔気、腹痛で、通常1〜3日で回復するが、高齢者・乳幼児等で脱水症状が強い場合は補液等の対症療法を行う。また吐物誤嚥による窒息や誤嚥性肺炎にも注意が必要である。

1.感染症発生動向調査における感染性胃腸炎発生状況:約3,000の小児科定点から報告される感染性胃腸炎の患者数は2006/07シーズンは例年より約4週早く2006年第42週から大きく増加し、第50週に定点当たり22.8人と1981年の調査開始以来最高のピークとなり、2006年第4四半期の累積患者報告数は定点当たり166.8人と前年の1.6倍に増加した(図1 および http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/04gastro.html)。

2.小児の感染性胃腸炎患者からのNVの検出報告:小児の感染性胃腸炎患者からのNV検出は毎年晩秋から増加し、集団発生もこの時期に増加するが、2004年と2005年には5〜6月にNV検出の増加がみられた(IASR 26: 323-324, 2005参照)。その後、2005/06〜2006/07シーズンにも引き続き毎月NV検出が報告されている(表1 および http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-kj.html)。感染性胃腸炎の病原検索では、季節を問わずNVの可能性を念頭に置いた検査が必要である。2005/06〜2006/07シーズンにはNV感染に急性脳症を合併した症例が報告されている(本号16ページ参照)。

3.集団発生事例からのNV検出報告:地方衛生研究所(地研)から国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)には「集団発生病原体票」が報告されている。これには、食品媒介による感染が疑われる「食中毒」や「有症苦情」(食中毒疑いで食中毒と決定されなかったものを含む)、人→人感染や感染経路不明の胃腸炎集団発生などの事例ごとの情報が含まれている。2006年11月にNV集団感染事例の報告が急増した(図2 および http://idsc.nih.go.jp/iasr/noro.html)。2006年9月〜2007年8月までに、食中毒患者、胃腸炎患者または調理従事者などからNVが検出された事例は1,227事例で、前3シーズンの平均(475.3事例)の2.6倍となった。診断名別にみると、感染性胃腸炎が899事例と大部分を占め、食中毒218事例、有症苦情106事例、不明4事例であった。1,196事例ではPCR法によってNV GIIが検出された(GIとGIIが検出された11事例を含む)。このうち、シークエンスによりGII遺伝子型別が実施された465事例中442事例(95%)ではGII/4が検出された。その他にGII/2が9事例、GII/13が6事例、GII/5が3事例、GII/3、GII/9が各2事例、GII/6が1事例で検出されている。また、16事例ではGIのみが検出され、15事例のgenogroupは不明であった。

感染経路:NVが検出された1,227事例の推定感染経路別の内訳は、人→人感染が疑われているものが752事例、食品媒介が疑われているものが239事例、感染経路が特定できず不明のものが236事例であり、2005/06シーズンに比べて人→人感染の疑い事例が大きく増加している(表2)。

感染/摂取場所:推定感染場所は老人ホーム(介護施設を含む)、病院、福祉・養護施設、保育所、飲食店、ホテル・旅館、小学校の順に多かった(表3)。老人ホームで発生した事例の多くは人→人感染が疑われていた。前シーズンまでと比べて老人ホーム、病院、福祉・養護施設、保育所で発生した事例の増加が目立つ(表3)。

集団発生の規模:患者数が報告された960事例を集計すると、患者数2〜8人 102事例、9〜16人 175事例、17〜64人 582事例、65〜256人 96事例、257人以上5事例であった。患者数の多かった事例を表4に示す。全事例で患者からNV GIIが検出され、遺伝子型別された事例はすべてGII/4であった。

4.2006/07シーズンに流行したGII/4について:NVの構造蛋白領域に新たな変異が認められるGII/4(E2006a型、E2006b型)による集団発生が2006年にヨーロッパで多発した(IASR 27: 239, 2006およびIASR 28: 51, 200728: 51, 2007参照)。全国各地の11地研で収集された検体から検出されたNVの遺伝子解析によって、E2006b型が2006年5月に日本にも存在していたことが確認され、2006/07シーズンに大きな流行を起こしたことが示されている(本号3ページ参照)。

5.食中毒統計:厚生労働省がまとめている食中毒統計においても2006/07シーズンのNV食中毒事件数は過去4シーズン平均の1.7倍、患者数は2.7倍に増加していたが、原因食品として従来注目されていた貝類による事例は少なく、食品取り扱い者により二次汚染された食品を原因とする事例が増加したと推定されている(本号6ページ参照)。

6.まとめ:NVによる食中毒および感染症の発生を防止するためには、感染性胃腸炎の患者発生動向、NV検出情報に注意し、常日頃から健康観察、手洗いなどを励行することが重要である。無症状の調理従事者による食品の二次汚染が原因となった食中毒もみられることから(本号9ページ参照)、食品取扱施設での基本的な衛生管理の徹底が望まれる。また、不適切な吐物の処理のために多数の人がNVに曝露したと考えられる人→人感染集団発生事例が多発しているので、糞便のみならず吐物の処理に特に注意が必要である。厚生労働省は2007年10月12日に「ノロウイルス食中毒対策について」を公表した(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/10/s1012-5.html)。IDSCでは最新情報を随時掲載している(http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/index.html)。

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