The Topic of This Month Vol.29 No.4(No.338)

アデノウイルス感染症 2000〜2007
(Vol. 29 p. 93-94: 2008年4月号)

アデノウイルス(human adenovirus)は、直径約80nmの正20面体構造の、エンベローブを持たない2本鎖DNAウイルスであり、物理化学的に比較的安定なウイルスである。現在A〜Fの6種に分類され、51の血清型が存在している(以下、血清型の記載を例えば3型はAd3とする)。

アデノウイルスは咽頭結膜熱(PCF)、咽頭炎、扁桃炎、肺炎などの呼吸器疾患、流行性角結膜炎(EKC)などの眼疾患、胃腸炎などの消化器疾患、出血性膀胱炎などの泌尿器疾患、肝炎、膵炎や脳炎にいたるまで、多彩な臨床症状を引き起こす(本号 3ページ)。感染症発生動向調査では小児科定点のPCFと感染性胃腸炎、眼科定点のEKCの病原体としてサーベイランスが行われている。

上気道炎などの呼吸器疾患を起こすのは主にB種(Ad3、7)、C種(Ad1、2、5、6)、E種(Ad4)である。このうち、最も病原性が強いのは、肺炎等を引き起こすAd7であり、日本における1995〜1998年の流行時には死亡例がみられた(IASR 17: 99-100, 1996および18: 79-80, 1997)。また、2006〜2007年に米国でAd14変異株(B種)による重篤な呼吸器感染症が発生した[MMWR 56 (45): 1181-1184, 2007およびIASR 29: 24-25, 2008)。Ad14は近年日本国内では検出されておらず(表1)、国内への侵入が懸念される。D種に属するAd8、19、37はEKC、F種に属するAd40および41は感染性胃腸炎を起こす。アデノウイルスは感染性が強く、その感染対策が重要である(本号3ページ)。

PCFとEKC患者発生状況:前回のアデノウイルス特集(IASR 25: 94-95, 2004)で2003年のPCF患者数は小児科定点当たりの集計を開始した1987年以来最大であったことを報告したが、その後2004および2006年は2003年を上回った(図1)。PCFは夏に流行の大きなピークが認められ、2003年以降は冬にも明らかなピークが見られる(図1および本号8ページ)。都道府県別のPCF患者発生状況(図2)で特徴的であったのは、2006年の大規模流行時に青森、岩手、宮城、栃木および山梨以外の都道府県で一定点当たり患者報告数が20人を超えたことである。翌2007年には、20人を超える県の数は18に減少した。

ウイルス分離/検出状況:2000〜2007年の8年間に地方衛生研究所(地研)から16,304のアデノウイルス検出が報告されている(表1表2)。検出された血清型は、Ad3が6,152と最も多く、次いでAd2が3,555、Ad1が1,894であった。未型別が1,184と4番目に多く(7.3%)、アデノウイルスの型別は必ずしも容易ではないことが推察された。

上気道炎、PCF、インフルエンザ様疾患、下気道炎患者からの検出数はそれぞれ4,607、2,490、1,600、1,030で、Ad3が最も多く、次いでAd2、Ad1、Ad5の順に多かった。Ad1、2、5は年ごとの検出数の変動が小さかったが、Ad3は増減が大きかった。Ad3検出数の多かった2001および2003〜2006年にPCF流行も顕著であった(図1http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/circle-g/phary/phary0307j.htmlhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/circle-g/phary/phary9702j.html)。

従来、感染性胃腸炎患者の糞便から直接Ad40/41の抗原を検出するELISAキット等ではAd40と41が区別できなかったが、最近、遺伝子解析によるAd41の報告が増えている。Ad31が2000〜2007年に35検出され、うち21は感染性胃腸炎患者から検出されている(本号4ページ)。

Ad8、19および37は、2000〜2007年にそれぞれ275、197および510検出され、EKC患者からの検出がほとんどを占めた。Ad8は2005年、Ad19は2002年、Ad37は2003年に最も多く検出されており、流行年が異なっていた(本号6ページ7ページhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/circle-g/kerat/kerat0307j.htmlhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/circle-g/kerat/kerat9702j.html)。

Ad3の流行について:2003年から始まり2006年に過去最大となったAd3によるPCFの全国流行の要因はこれまで明らかでなかった。しかし、韓国で1998〜1999年にPCFの大規模流行を引き起こしたAd3は中和抗原性を担うヘキソンの超可変領域にアミノ酸変異があることが示されており、その株と同じアミノ酸配列を持つAd3が日本では2000年に初めて検出され、2003年以降流行していたことが示唆されている(本号8ページおよびJJID 61:143-145,2008)。

実験室診断法:検査の陽性率は検体採取時期によって異なり、発症後4日以内の検体は陽性率が高いことが知られている。検査法による検出感度は、一般にPCRおよびreal-time PCR>ウイルス分離>免疫クロマト法およびELISAの順である。免疫クロマト法のキットは臨床現場において15分程度で結果が得られる点で有用であるが、検出感度が低く、型別ができない欠点を持つ。従来からのウイルス分離と中和法による同定型別に加えて、近年、PCRとシークエンス法による検出報告が増加傾向にある(表2および本号4ページ)。しかし、流行の詳細な解析には、ウイルス分離を行い、流行株を用いた分子疫学的解析を行うことが必要である(本号6ページ7ページ8ページ)。ウイルス分離では使用する細胞、PCRでは使用するプライマーによって検出感度に大きな差があり、ウイルス分離に用いる検体(表2)や細胞の適切な選択(本号9ページ9ページ)、PCRに使用するプライマーの選択が重要である。国立感染症研究所と全国6カ所の地研レファレンスセンター(新潟県、東京都、福井県、大阪府、広島県、宮崎県)では、アデノウイルスの検査法の標準化と検査精度の向上に取り組んでいる。

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