The Topic of This Month Vol.29 No.5(No.339)

腸管出血性大腸菌感染症 2008年4月現在
(Vol. 29 p. 117-118: 2008年5月号)

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、1999年4月に施行された感染症法に基づく3類感染症として、菌の分離・同定とVero毒素(VT)の確認により診断した医師の全数届出が義務付けられている。また、2006年4月より、溶血性尿毒症症候群(Hemolytic uremic syndrome; HUS)発症例に限り、便からのVT検出あるいは患者血清におけるO抗原凝集抗体または抗VT抗体検出によって診断した場合も届出が必要となっている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html)。さらに、医師から食中毒として届出があった場合や、保健所長が食中毒と認めた場合には「食品衛生法」に基づき、各都道府県等において調査および国への報告が行われる。

一方、地方衛生研究所(地研)がEHECの検出、血清型別、毒素型別を行い、国立感染症研究所細菌第一部では分離菌株について詳細な分子疫学的解析を行ってパルスネットで情報提供している(本号3ページ)。

患者発生動向:2007年にはEHEC感染症患者および無症状病原体保有者(以下EHEC感染者)が4,606例報告され(表1)、2006年の3,922例を大きく上回った。2007年の週別報告数は、例年同様季節変動が大きく、夏季に流行のピークがみられた(図1)。人口10万対都道府県別発生数は石川(11.26)が最も多く、宮崎(11.24)および大規模な集団発生があった宮城(10.66)がそれに次ぎ、例年同様かなりの地域差がみられた(図2)。2002〜2006年に発生の多かった地域は2007年も多い傾向が見られた。2007年のEHEC感染者は例年同様0〜4歳がもっとも多く、5〜9歳がこれに次いだ。0〜14歳では男性が多く、15歳以上では女性が多かった。有症者の割合は、男女とも若年層と高齢者で高く(14歳以下で77%、70歳以上で71%)、30代、40代では41%以下であった(図3)。

EHEC検出報告:2007年に地研から報告されたEHEC検出数は2,531であった(病原微生物検出情報:2008年4月16日現在)。EHEC感染者報告数(表1)と開きがあるが、現在のシステムでは地研以外で検出された菌株の検出報告がすべて届いていないことによる。近年減少傾向にあったO157:H7の割合はやや増加し、2007年ではO157:H7は62%であり、O26は11%、O111は6%であった(http://idsc.nih.go.jp/iasr/virus/graph/vtec0007.gif)。その他にも多様な血清型が検出されており、市販の抗血清で同定できない血清型でVTが検出される株もある(IASR 25: 141-143, 2004)ことから、EHECの同定にはVTの確認が重要である。分離菌株が産生しているVT(または保有している毒素遺伝子)の型をみると、2007年も例年同様O157ではVT1&2が68%を占めた(1997〜2006年は53〜68%)。O26はVT1単独が97%で、O111はVT1単独が69%であった。

2007年のEHEC検出報告2,531例中O157は1,930例で、その主な症状は下痢53%、腹痛51%、血便38%、発熱20%で(本号3ページ特集関連資料)、HUS発症者は29例(VT2が16例、VT1&2が13例)であった。この他、O165の21例中3例(VT2)、O121の41例中1例(VT2)でHUSが報告された。また、HUSを発症したが菌が分離できず、血清診断でO157抗体が陽性となった3例が報告された。

集団発生:2007年に地研から報告されたEHEC感染症集団発生は45事例あり、34事例がO157によるものであった。菌陽性者10人以上の18事例では(表2)、伝播経路が食品媒介と推定された事例は5件あり、人→人感染と推定された事例が9件であった。なお、「食品衛生法」に基づいて都道府県等から報告された2007年のEHEC食中毒は25事例で、東京の学校食堂(表2 No.2・本号4ページ)と宮城の仕出し弁当(表2 No.16・本号6ページ)の2事例により患者数が大きく増加して 928名であった(2006年は24事例、患者数179名)(注:「感染症法」による報告数に比べ患者数が極端に少ないのは、感染原因が食品等の飲食によると判明するケースが少ないこと、患者1名の場合は食中毒としての届出が出されにくいことによる)。

2007年も依然として保育所・幼稚園での集団発生が多く11件あった(表2および本号7ページ8ページ9ページ10ページ)。EHECは赤痢菌と同様に微量の菌により感染が成立するため、人→人感染で感染が拡大しやすい。保育所等での集団感染予防には、普段からの園児・職員の手洗い、夏季の簡易プールなどの衛生管理に注意を払う必要がある。さらに、家族内感染が多いので、患者が発生した場合には、家族に対して二次感染予防の指導を徹底する必要がある。

また、少数菌で汚染された食品が感染の原因となりうるため、食中毒予防の基本を守り、若齢者、高齢者ほか、抵抗力が弱い者には、生肉または加熱不十分な食肉等を食べさせないことも重要である(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/index.html)。

2008年速報:本年第1〜17週までのEHEC感染者届出数は311人である(表1)。佐賀県でオーストラリアへ修学旅行に行った集団とその家族計76人から第10〜12週にO26:H11(VT1)が検出されている(http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html)。夏季にはEHEC感染症の増加が予想されるので、今後一層の注意喚起が必要である。

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