The Topic of This Month Vol.29 No.10(No.344)

RSウイルス感染症 2008年9月現在
(Vol. 29 p. 271-273: 2008年10月号)

RSウイルス感染症は世界中に存在し、温帯地域では冬季に流行がみられる急性呼吸器感染症である。RSウイルス(respiratory syncytial virus: RSV)はパラミクソウイルス科ニューモウイルス属に分類され、飛沫感染あるいは鼻汁や喀痰中のウイルスが手指や器物を介して感染する。生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%がRSVの初感染を受けるが、終生免疫は獲得されない。新生児・乳幼児や免疫不全者が重症化しやすい。乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の50〜90%がRSV感染症と報告されている。合併症として注意すべきものに、無呼吸、ADH分泌異常症候群、急性脳症などがある(本号4ページ5ページ)。年長児や成人における再感染時は重症となることは通常少ないが、感染源となり得る。また高齢者において時に下気道感染を起こし、施設内での集団発生も報告されている。他の呼吸器ウイルス感染症でも同様な症状を呈するため、本症の鑑別診断にはウイルス学的検査が不可欠である(本号7ページ)。特にハイリスク患者のいる施設における院内感染対策としてRSVの早期診断が重要となるため、RSV抗原検査は入院患者にのみ保険が適用されている(2006年3月31日まではさらに3歳未満という年齢制限があった)。治療は対症療法が基本となる。ワクチンはないが、近年、早産児、慢性肺疾患や先天性心疾患を持つハイリスク児に対し、米国で開発されたヒト化抗RSV-F蛋白単クローン抗体(パリビズマブ)の予防投与が行われている(本号4ページ)。

RSV感染症はインフルエンザと並んで呼吸器感染症として重要であることに加え、2002年にパリビズマブの販売が開始され、RSV感染症の流行時期を把握する必要性が高まり、感染症法改正(2003年11月5日施行)時に、感染症発生動向調査における5類感染症の小児科定点把握疾病に追加された(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-15.html)。しかし、届出には検査診断を求められているため報告できない定点もあり、臨床診断に基づく他の小児科定点把握疾病のように定点当たり報告数を比較することができないが、報告数の推移から本症の流行時期を把握している。

RSV感染症患者発生状況:感染症発生動向調査開始以降の週別報告数をみると(図1)、第36週(9月初旬)前後から徐々に増加が始まり、第45週前後(11月中旬)に急激な増加を示し、第50〜52週(12月中旬〜下旬)にピークとなった。ピーク以降約5〜7週間で減少するが、春〜夏季にも報告は続いた。また、冬季に同様に流行するインフルエンザと比較して、流行期はやや早い傾向が認められた。2006年にRSV感染症を1例でも報告した医療機関数は2007年より少なかったが(資料)、2006年末のピークは2007年末より大きかった。2008年は、過去4年間より早い第30週(7月末)より増加が始まっている(図1)。

都道府県別にみると(資料)、報告数の多かった上位9都道府県は2006年、2007年ともに北から北海道、福島、神奈川、愛知、大阪、兵庫、広島、山口、福岡であった。特に大阪は両年ともに最も多く、全国報告総数の10%以上を占めた。報告数の多い都道府県ほど概して増加の立ち上がりが早く、報告数の比較的多い期間(流行期間)が長い傾向が認められ、流行の把握には十分な報告数が必要と考えられた。地域によって流行開始時期は異なっており(図2)、本年も福岡での増加が早い。また、北海道、福島では春季にも報告数が多かった。沖縄は他の地域と大きく異なり、夏季に流行が認められた(本号8ページ)。

2004〜2007年に報告された患者は男56,422人(55%)、女45,543人(45%)で、年齢分布をみると(図3)、いずれの年においても同様に0歳、1歳、2歳の順に多い。2007年では1歳以下で全体の74%、2歳以下で87%を占めた。2006〜2007年に病院と診療所から報告された患者の年齢分布を比較すると、病院では0〜5カ月児の割合が有意に高かった。

5類感染症の急性脳炎(脳症を含む)の届出が全数把握疾病となった2003年11月5日以降、RSVが原因とされたものは6例あり、そのうち1例の死亡が報告された(表1)。

RSV検出状況:2000/01〜2007/08シーズンに地方衛生研究所(地研)で分離・検出された呼吸器ウイルス報告数は、インフルエンザウイルスが約9割を占めるが、その他ではRSVが最も多い(表2)。2002/03シーズン以降ヒトメタニューモウイルス、2007/08シーズンにヒトボカウイルスが報告されている(本号9ページ11ページ13ページ)。

RSV検出数は第46〜4週(11〜1月)にピークがあった(図1)。2003年11月の感染症法改正後報告数が増加しており、2004/05〜2007/08シーズンの4シーズンに30都府県の38地研から1,123例が報告された。陽性となった分離材料は咽頭ぬぐい液1,083、喀痰・気管吸引液39、糞便2、髄液1(異なる材料から検出された例を含む)で、検出方法はPCR 764、培養細胞での分離486、抗原検出28(異なる方法で検出された例を含む)であった。検出例の診断名は下気道炎439、上気道炎245、RSV感染症226、インフルエンザ・インフルエンザ様疾患54、かぜ症候群38、不明熱33、気管支喘息11、咽頭結膜熱11、感染性胃腸炎9、急性脳炎・脳症6などであった。性別は男643、女466、不明14と男が多く、年齢は0歳330、1歳337、2歳163、3歳113、4歳69、5〜9歳60、10〜19歳22、20歳以上10、不明19と、0〜1歳が60%を占めた。

今後の課題:小児科定点のうち1年間にRSV感染症を1例以上報告した定点の割合は、2006年42%、2007年52%であった(資料)。小児科定点3,079のうち、病院(入院病床を有する医療機関)は709、診療所(入院病床を有しない医療機関)は2,370と診療所の方が多く(2008年5月23日現在)、RSV感染症を実際に報告した医療機関数も患者報告数も診断キットの保険適用がない診療所の方が多かった(資料)。このことは、重症化して入院する前に診療所において本症を検査診断する必要性があることを示している。外来患者に対する迅速診断キットの保険適用拡大が必要であり、それによってリアルタイムかつ地域ごとの流行状況をより正確に把握することが可能となると考えられる。

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