The Topic of This Month Vol.29 No.12(No.346)

レジオネラ症 2003.1〜2008.9
(Vol. 29 p. 327-328: 2008年12月号)

レジオネラ症はレジオネラ属菌(Legionella spp.)による感染症で、その病型には肺炎型と感冒様のポンティアック熱型とがある。高齢者や新生児、および免疫力の低下をきたす疾患を有する者が本症のリスクグループである。レジオネラ肺炎に特有な症状はないため、症状のみでは他の肺炎との鑑別は困難である。四肢の脱力や、意識障害などの神経・筋症状を伴う例や、急速に全身症状が悪化する例がある点に注意が必要である。レジオネラ属菌は一般的には水中や湿った土壌中など環境中に存在する細菌で、20〜45℃で繁殖し、36℃前後で最もよく繁殖する。また、空調施設の冷却塔水、循環式浴槽水、給湯器の水などの人工水中に生息する原虫類(アメーバ)の細胞内で大量に増殖する。本特集では前回特集(IASR 24: 27-28, 2003)以降のデータをまとめた。

患者発生状況:レジオネラ症は感染症法に基づく感染症発生動向調査において医師に全数届出が義務付けられている4類感染症で、2003年1月〜2008年9月末までに2,460例が報告された(2008年10月11日現在)。2005年以降、顕著に報告数が増加している(表1)。この増加には2003年にEIA、2004年にイムノクロマト法(IC)の尿中抗原検査が保険適用となり、2005年10月に成人市中肺炎診療ガイドライン(日本呼吸器学会)が発行され、肺炎の中等症・重症・超重症の患者には、レジオネラ尿中抗原検査を実施する旨、記載されたことが影響していると考えられる。

初診年月日を月別に集計すると、2004年を除き毎年7月が患者発生のピークとなっている(図1)。この季節性は湿度と関連しているとする国内外の報告がある(本号5ページ)。都道府県別報告数をみると(図2)、特定の地域に集中する傾向はみられない。

患者の平均年齢は65.2歳(前回集計60.8歳)で、男性は64.0歳、女性は71.0歳であった。20歳未満は0.6%と少なく、55〜59歳をピークに102歳まで幅広く分布していた(図3)。性別は男性が83%(前回集計と同値)を占めており、米国(1990-2005; Neil K, et al ., CID 47: 591-599, 2008)の61%より多い。

診断法:確定診断に用いた検査法が記載されていた2,458例中、尿中抗原検出が2,315例と94%を占め、培養97例(3.9%)、血清抗体価の測定67例(2.7%)、PCR 35例(1.4%)であった(複数の検査法が記載された例を含む)。尿中抗原検出のみで診断された者が、2003年の68%から、2008年には96%へと大きく増加している。尿中抗原検出の普及に伴い、2003年には初診日あるいは4日までに診断された割合が各々15%、30%であったのに対し、2008年では46%、80%に上昇した(図4)。また、初診から診断に至る日数が1日、2〜4日、5〜7日、8日以上の場合、届出時点での致死率は各々1.0%、2.7%、3.5%、4.6%と上昇するので、早期の診断が望まれる。2003年11月に、診断後7日以内から、診断後直ちに届け出るように変更になったことの影響もあると考えられるが、届出時に死亡が報告された例は前回集計の7.3%から2003年以降は2.6%(65例)に低下した。

検出病原体:起因菌が報告された例は、届出後にレジオネラ・レファレンスセンターに起因菌が分与された例(本号6ページ)を合わせて、2003年以降83例であった。内訳はLegionella pneumophila が73例[うち、血清群(SG)が判明しているものはSG1が50、SG2が5、SG3とSG5が各4、SG6が3、SG4が2、SG8およびSG9が各1(1例はSG5とSG8の2血清群記載)]で、その他のレジオネラ属菌はL. longbeachae が4例(1例はIASR 26: 247, 2005)、L. micdadei およびL. rubrilucens が各1例で、種別不明が4例であった。L. rubrilucens の臨床検体からの分離例は初めてであった(IASR 29: 194-195, 2008)。さらに、後述の集団感染事例の多くはL. pneumophila SG1によるものであった。一方、厚生労働省の研究班(代表・遠藤卓郎、分担・倉文明)によると、環境から検出されたレジオネラ属菌(2006年度の735株)では、冷却塔水からはL. pneumophila SG1が優勢で、L. anisa L. pneumophila SG7 が続き、温泉・循環風呂などからは、L. pneumophila SG1、血清群別不能が優勢で、SG5、SG6も検出されている。

集団感染事例:2003年以降の事例では2003年1月に本邦初の客船の入浴設備を原因とした3例(IASR 25: 40, 40-41, 41-42, 2004)、2003年9月にごみ処理施設の冷却装置の整備をした作業員の2例(京都市)、2006年12月にフィットネスクラブのジャグジーで2例(新潟市、IASR 28: 144-145, 2007)、2008年1月入浴施設で2例(神戸市、本号3ページ)、2008年7月老人福祉施設で2例(岡山県、本号4ページ)の患者が報告されている。その他、2006年6月〜2008年7月にかけて、同一施設を利用後に2〜5例の患者が発症した集団感染疑い事例が5件認められた。かつてのような大きな集団感染事例はなかった。

対策:本症はレジオネラ属菌を含むエアロゾルや塵埃を吸引することにより発症する。高圧洗浄水で足湯施設を洗浄した例、自家製腐葉土からの感染例(IASR 26: 221-222, 2005)があり、バイオフィルムの付着した浴槽壁の洗浄作業や腐葉土の取り扱いには、マスクを着用した慎重な作業が求められる。浴槽内で使用された天然鉱石上にバイオフィルムが形成されレジオネラの温床となることもある(IASR 29: 193-194, 2008)。清掃後は、壁面等のふきとり検査でバイオフィルムの指標であるATP量を測定して現場でバイオフィルムの除去を確認することが必要である。超音波加湿器による感染例(IASR 29: 19-20, 2008)で明らかなように、加湿器のタンクの内面を清潔な状態にしておくこともレジオネラ症の防止に重要である。冷却塔や生物学的な処理プラント(本号21ページ)に由来するエアロゾルによる感染は、日本ではほとんど報告がないが、注意が必要である。現在、浴槽水の衛生管理基準値は100ml当たり10cfu未満(不検出)である。適当な水温が保たれた水環境ではレジオネラ属菌は宿主となるアメーバとの共存により急速に増殖する。したがって、本症の予防には、人工環境水設備の管理マニュアルに沿った適切な換水や清掃、消毒が必須である。

感染源の特定のために必須のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)はこれまで結果判明に4日間かかっていたところ2日に短縮され(本号7ページ)、またsequence-based typing (SBT)により菌株の生息環境をある程度推測できることも報告されている(本号6ページ)。集団発生において臨床検体からレジオネラ属菌が分離されていない事例も多い。臨床検体と環境検体の双方から菌株を分離して、PFGE法、SBT法を用いて感染源を特定し、感染拡大を防止することが重要である。今後の解析のため、届出後に菌が分離された場合は追加報告をお願いしたい。

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