2009/10シーズンは、2009年5月に国内でも初めて確認されたパンデミック(H1N1)2009ウイルス(以下AH1pdm)により、例年の流行パターンとは大きく異なる流行となった(本号3ページ)。
患者発生状況:感染症発生動向調査では、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科3,000、内科2,000)から、臨床診断されたインフルエンザ患者数が週単位で報告されている。定点当たり週別患者数は、2009年第33週に全国レベルで流行開始の指標である1.0人を超え、2010年第8週まで続き、流行期間が29週間と長期に及んだ。流行のピークも2009年第48週(39.7人)と例年より2〜3カ月早く、例年流行のピークとなる1〜2月の患者は少なかった(図1上段およびhttp://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/01flu.html)。2009/10シーズンのピークの高さは過去10シーズンでは2004/05シーズンに次いで2番目であったが、流行期間が長かったため、シーズン全体(2009年第36週〜2010年第34週まで)の定点当たり累積患者数(411.66人)は2004/05シーズン(320.38人)を大きく上回り、インフルエンザ患者サーベイランスを開始した1987/88シーズン以降最大であった。定点医療機関からの報告数をもとに推計した定点以外を含む全国の医療機関を受診した患者数は、2009年第28週〜2010年第10週までの累積で約2,066万人(95%信頼区間:2,046万人〜2,086万人)(暫定値)であった。
都道府県別にみると、2009年第31週に沖縄県で全国に先駆けて流行が始まり、その後第38週に東京都、第40週に北海道、福岡県、愛知県で定点当たり10.0人を超え、第41週以降全国的な流行となった(https://nesid3g.mhlw.go.jp/Hasseidoko/Levelmap/flu/index.html)。
5類感染症の「急性脳炎」として全数届出が必要なインフルエンザ脳症は2009年第28週〜2010年第3週までに285例(AH1pdm240、A型亜型不明38、B型1、型不明6)が報告された(2010年1月27日現在)。
ウイルス分離・検出状況:全国の地方衛生研究所(地研)で分離された2009/10シーズンのインフルエンザウイルスは12,295であった(2010年8月24日現在報告数、表1)。この他にPCRのみでの検出報告が9,894あった。分離およびPCRを含めた検出総数22,189のうち、インフルエンザ定点の検体からの検出数は12,435、インフルエンザ定点以外の検体からの検出数は9,754であった(表2)。
2009/10シーズンに検出されたウイルスの98%はAH1pdmであり、2008/09シーズンまで流行のあった季節性AH1亜型は2009年第36週以降全く報告されていない。AH3亜型およびB型の報告数も極めて少なかった(図2)。また、海外渡航者からの検出数はAH1pdm38、AH3亜型11、B型1であった(2008/09シーズンはAH1pdm770、AH1亜型40、AH3亜型177、B型3、表2)。2009/10シーズンに解析されたAH1pdm分離株の1.0%がオセルタミビル耐性遺伝子変異H275Yを保有する株であった(本号6ページおよびhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/influ.html#taiseikabu)。
2009年第19週に初めて検出されたAH1pdmは第28週以降毎週500件を超える報告が続いたが、2010年第4週以降減少した(図1)。インフルエンザ定点での検出は第32週以降増加し、第44週をピークに減少した(図1上段)。AH3亜型は第45週以降16週間検出されず、第8週以降少数の報告が続いている。B型は第29週以降ほとんど報告がなかったが、第2週以降主としてVictoria系統株が報告されている(図3)。患者発生が少なくなった5〜8月にAH1pdm、B型、AH3亜型ともに集団発生が報告されている(IASR 31: 172-173, 2010、 31: 173, 2010 & 31: 235-236, 2010 & 本号17ページ)。
AH1pdm分離例の年齢分布をみると、2008/09シーズンは15〜19歳が最も多かったが、2009/10シーズンは5〜9歳が最も多かった(図4、図5)。AH3亜型は0〜4歳、B型は5〜9歳が最も多かった。
2009/10シーズン分離ウイルスの抗原解析(本号6ページ):AH1pdm分離株は2009/10シーズンワクチン株であるA/California/7/2009pdmに類似していた。AH3亜型はA/Uruguay/716/2007(2008/09〜2009/10シーズンワクチン株)とは抗原性の異なるA/Perth/16/2009類似株がほとんどであった。B型はVictoria系統株が主流でB/Brisbane/60/2008(2009/10シーズンワクチン株)に類似していた。B型山形系統株はB/Bangladesh/3333/2007〔B/Florida/4/2006(2008/09シーズンワクチン株)類似株でHA遺伝子グループが異なる〕に類似していた。
AH1pdm抗体保有状況(本号13ページ):2009年度感染症流行予測調査によると、主として流行初期の2009年7〜9月に採血された血清におけるA/California/7/2009pdmに対するHI抗体価1:40以上の保有率は、流行初期に患者の多かった15〜19歳では21%であったが、14歳以下では1〜3%と低かった。調査時期における30歳未満での1:40以上のHI抗体保有人口は約300万人と推計され、2009年第28〜40週の推定受診者数(約180万人)よりも多くの感染者がいたと思われる。
インフルエンザワクチン接種状況:2009/10シーズンには季節性用ワクチン2,313万人分(成人1人2回接種の場合、以下同様)が製造され、推計で2,039万人分が使用された。予防接種法に基づく高齢者(主として65歳以上)に対する接種率は50%(2008/09シーズンは56%)であった。パンデミック(H1N1)2009ワクチンは、優先接種対象者を中心に2010年6月までに1,800万人が接種を受けたと推定されている。
2010/11シーズンワクチン株:AH1亜型はAH1pdmのA/California/7/2009pdmに、AH3亜型はA/Victoria/210/2009に変更され、B型は2009/10シーズンに引き続きVictoria系統に属するB/Brisbane/60/2008が選択された(本号15ページ)。2009/10シーズンは季節性3価ワクチンと新型単味ワクチンが別々に製造されたが、2010/11シーズンは上記3株からなる3価ワクチンが製造され、10月からの接種開始が予定されている。
おわりに:2009/10シーズンにパンデミック(H1N1)2009の流行が本格化すると、従来から継続されている患者発生動向調査と病原体サーベイランスが流行状況把握に非常に有用であることが改めて認識された(本号4ページ)。季節性と新型を含むインフルエンザ全体について、定点サーベイランスと集団発生サーベイランス、重症例サーベイランス等により患者発生の動向を監視すること、通年的にウイルス分離を行い、流行株の抗原変異、遺伝子変異、抗インフルエンザ薬耐性出現を監視し、ワクチン候補株を確保することが今後の対策に益々重要となっている。