The Topic of This Month Vol.32 No.6(No.376)

デング熱・デング出血熱とチクングニア熱輸入症例 2011年5月現在
(Vol. 32 p. 159-160: 2011年6月号)

デングウイルスとチクングニアウイルスはともにネッタイシマカ(Aedes aegypti )やヒトスジシマカ(Aedes albopictus )の刺咬により人→蚊→人で感染環が成立する。前者は都市部に生息する蚊であり、後者は都市部と郊外の両方に生息する。

デング熱、チクングニア熱ともに3〜7日程度の潜伏期を経て発症することが多い。いずれも発熱、発疹、疼痛(関節痛)を3主徴とし、両者の臨床鑑別は難しい。アジア、アフリカに多く、分布域もほぼ一致する。このため実験室診断が必須である(本号3ページ)。

2011年2月1日の改正感染症法施行により、チクングニア熱はデング熱同様、感染症発生動向調査における全数把握の4類感染症となり、双方とも診断後直ちに届け出ることが医師に義務付けられている(届出の基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-42.html)。

また、病原体規制分類では、デングウイルスが4種病原体に位置づけられている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/03.html)。

1.デング熱
感染症発生動向調査:2007〜2010年に届けられたデング熱(デング出血熱を含む)は531例で、全例輸入例であった。2001〜2006年には年間32〜74例であったのに比べ、2007年89例、2008年105例、2009年92例と増加傾向を示した後、2010年に245例と大きく増加した(表1)(1999〜2006年の状況はIASR 25: 26-27, 2004および28: 213-214, 2007参照)。なお、渡航先滞在中に感染・発症し治癒した症例は、届出対象となっていない。

季節性:月別患者発生状況は、渡航先の流行状況および日本からの海外旅行者数の多い時期、の二つの要因の影響が考えられる(本号4ページ5ページ)。例年旅行者の多い8〜9月に患者の増加が認められ、2010年は特に顕著であった(図1)。

推定感染地:2007〜2010年に診断された患者の渡航先は42カ国/地域であった(表2)。東南アジアを中心としたアジア諸国が9割を占め、特に2010年にインドネシア(79例中51例はバリ島と記載有り)(本号5ページ)、インド、フィリピン、タイへ渡航して感染した例が多かった。ただし、中南米、オセアニア、アフリカ(本号6ページ)で感染したと推定される者もみられた。

性別と年齢:流行地では患者数に性差はないが、わが国で報告された輸入例は男342、女189と男性が多い(図2)。患者の年齢は20代(41%)を中心に、30代(21%)、40代(16%)を合わせて78%を占めていた(図2)。

重症例:デング熱患者の増加に伴い、2001〜2005年に年1〜3例であったデング出血熱が2006〜2010年には年3〜7例報告されている(表1)。デング出血熱の報告基準は、(1)発熱、(2)血管透過性亢進による血漿漏出症状、(3)血小板減少、(4)出血傾向の4つの基準をすべて満たした場合である(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-19.html 参照)。2007〜2010年においては、届出時点での死亡例はなかった。

2.チクングニア熱
わが国では、2006年11〜12月にスリランカからの日本人の輸入例2例が報告され、以来、2011年1月までにインドネシアなどの流行地域からの輸入例19例が国立感染症研究所ウイルス第一部等で検査診断された(IASR 29: 345-346, 2008および30: 108-109, 2009)。

感染症発生動向調査:感染症法施行後の2011年2月1日〜6月10日までに20〜30代の男性2例、女性3例、計5例が届出されている。うち、4例はインドネシア、1例はタイでの感染が推定されている。

3.実験室診断:デングウイルスとチクングニアウイルスの検査診断はウイルス分離、PCRによる遺伝子検出、IgM抗体検査が各地方衛生研究所、国立感染症研究所において実施可能となっている(表1)。また、検疫法の改正により2003年11月にデング熱が、2011年2月にチクングニア熱が検疫感染症に加えられ、検疫所では流行地域から入国するデング熱・チクングニア熱が疑われる者に対して診察およびPCRによる遺伝子検出、ウイルス分離を行っている。

4.わが国での対策:日本国内にはチクングニアウイルスとデングウイルスは常在せず、近年報告されたチクングニア熱・デング熱患者はすべて輸入例である。しかし、日本国内にはデングウイルス、チクングニアウイルス両方を媒介するヒトスジシマカが生息しており、その分布北限は東北北部である(本号9ページ)。ネッタイシマカは日本には常在しないが航空機や船舶により侵入する可能性がある。

わが国でも、かつて1942〜1945年に西日本でヒトスジシマカを媒介蚊としたデング熱の流行を経験しており、デングウイルス、チクングニアウイルスが侵入した場合、流行する可能性がある。実際に2010年にはデング熱とチクングニア熱の非常在地域であったフランスとクロアチアでデング熱(本号7ページ)、フランスでチクングニア熱の国内感染例が報告されている(本号3ページ)。

医療機関においては、世界のデング熱、チクングニア熱流行の情報に注意して渡航歴の問診を行い、患者を早期診断することが必要である。ウイルス血症期にある発熱中の患者については、患者が蚊に刺されないようにし、吸血蚊によるウイルス伝搬を防ぎ、同時に院内では、輸血、針刺し等による感染の防止策を講ずるべきである。厚生労働省では、毎年夏季に空港などにポスターを掲示するなど渡航者への注意喚起を行い、感染研はホームページで随時最新情報を提供している(http://www.nih.go.jp/vir1/NVL/NVL.html)。2011年は6月10日現在40例のデング熱患者が報告されており、渡航者は海外での流行情報に注意し、渡航先で蚊に刺されないよう一層の注意が必要である。

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