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1995/96シーズンに分離されたインフルエンザウイルスの大部分はAソ連(H1N1)型で,1994/95シーズンに引き続いて脳炎などの重症例の報告が目立った。一方,1996/97インフルエンザシーズンに入り,病原微生物検出情報(IASR)には3機関から計4株のA香港(H3N2)型ウイルス分離の報告が届いている。本特集では1995/96シーズンの患者発生状況およびインフルエンザウイルスの最近の動向をまとめた。
感染症サーベイランス情報による1995/96シーズンのインフルエンザ様疾患患者報告数は,前シーズンより3週早い1995年第48週(11月26日〜12月2日)から立上がり,1996年第4週にピークとなった(図1)。1995年第35週〜1996年第34週の累計患者数は一定点当たり139.13人で前シーズンの約半分であった(本月報Vol.16,No.12参照)。
IASRへの1995/96シーズンのインフルエンザウイルス分離報告数(表1)は合計3,735で,前シーズンに少数分離されていたAソ連型が全国の55機関で3,303分離され,過去最高の報告数であった。A香港型は東日本を中心に34機関から407,B型は6機関から11と報告数が大きく減少した。
1995/96シーズンのインフルエンザウイルスの週別分離数をみると(図2),Aソ連型が1995年第45週(11月5〜11日)から分離され始め,第51週と1996年第4週をピークに第13週まで毎週分離された。第34週(8月18〜24日)にも横浜市で1分離されている。A香港型はこれに遅れて第9〜10週に小さなピークとなったが4月以降も分離が続いており,埼玉県では5月に集団発生が報告された(本号参照)。さらに第29週(7月14〜20日)には仙台市と福島県で各1分離された。B型は,1995年第51週,1996年第1,5週に各1,4月以降の第15〜20週に8分離された。
1995/96シーズンのAソ連型分離例は小学校低学年の小児(6〜8歳)が最も多く38%(1,232例),次いで3〜5歳が31%(1,021例)であった(図3)。
これまでにIASRに報告されたインフルエンザウイルス分離例のうち,脳炎,脳症,循環器障害などの重症例を表2に挙げた。1993/94シーズンまでは重症例の報告は稀であったが,1994/95シーズンにはA香港型12例,B型3例の報告があった。さらに1995/96シーズンはAソ連型10例,A香港型1例,B型1例が報告され,このうちAソ連型1例は髄液からウイルスが分離された(本月報Vol.17,No.5参照)。2シーズン続いて重症例が多かったこと,および過去に1例のみであったAソ連型の重症例が多かったことが注目される。この他1995/96シーズンには,Aソ連型分離例で肝炎3例,腎炎1例,髄膜炎2例の報告があった。
1996年1月以降に中国等で分離されたA香港型ウイルスには抗原性の変異が起こっており(本月報Vol.17,No.4および本号参照),1996/97シーズン用のA香港型のワクチン株はWHO推奨のA/武漢/359/95株に変更されている(本号参照)。
1996/97シーズン分離速報(11月6日現在)
A香港型:兵庫県衛研9月4日1株,国立仙台病院9月17日2株(本号参照),福島県衛研10月7日1株。
図1. インフルエンザ様疾患患者報告数の推移,1994年第4四半期〜1996年第3四半期(感染症サーベイランス情報)
図2. 週別インフルエンザウイルス分離報告数の推移,1994年第4四半期〜1996年第3四半期(1996年10月18日現在報告数)
表1. インフルエンザウイルス分離報告数,1982/83シーズン〜1995/96シーズン
図3. インフルエンザウイルスA(H1N1)型分離例の年齢,1995/96シーズン
表2. 脳炎,脳症,循環器障害などが報告されたインフルエンザウイルス分離例,1982/83〜1995/96シーズン
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