The Topic of This Month Vol.20 No.9(No.235)


日本紅斑熱

日本紅斑熱はダニ媒介性のリケッチア症で、1984年に徳島県で初めて報告されたが、その後の抗体調査により、1983年に徳島および高知両県で発生したつつが虫病様患者の中にも本疾患があったことが明らかにされている。病原リケッチアであるRickettsia japonnica(Uchida T. et al., Int. J. Syst. Bacteriol., 1992)はロッキー山紅斑熱やマダニチフスの病原体と同じ紅斑熱群リケッチアに属し、マダニによって媒介されるが、日本紅斑熱では媒介ダニとしてチマダニが疑われている(本号5ページ参照)。

日本紅斑熱の臨床症状はつつが虫病に類似するが、初期発疹は躯幹よりも四肢に多発するとされる。また、ダニ刺し口はつつが虫病に比べて小さく、数日で消失するものもある。治療はつつが虫病と同様にテトラサイクリン系薬剤が著効を示す(本号3ページ参照)。確定診断は主として抗体測定であるが、つつが虫病との交差反応はない。最近では遺伝子検出法も行われるようになった(本号7ページ参照)。

わが国におけるダニ媒介性リケッチア症としてはつつが虫病が古くから重要な疾患として注目されており、最近でも年間数百名の患者が報告されている(本月報Vol.18、No.9参照)。一方、紅斑熱がわが国にも存在することが1984年に明らかにされたことから、国立感染症研究所(感染研)では、感染の実態を把握するために全国地方衛生研究所(地研)や臨床医の協力を得て紅斑熱様患者の発生状況を電話により聴取するとともに、1995年からは地研および感染研で構成する衛生微生物技術協議会検査情報委員会つつが虫病小委員会において調査票によるサーベイランスを開始した。

日本紅斑熱は、徳島、高知に続き、千葉、島根、宮崎の各県からも報告されるようになり、1998年までに総計で200例を超えた。年間患者発生数は1989年以降やや減少傾向にあったが、1995年以降ふたたび増加傾向にある(図1)。また、患者発生地は10県に及んでいるが、島根県を除き太平洋側地域で、鹿児島、徳島、高知、千葉の4県に多発する傾向にある(図2)。患者発生県のうち三重は1988年に1例、神奈川は1992年に2例が報告されているのみで、その後の報告はない。

1995年から開始された紅斑熱様患者サーベイランスでは年齢、性別、感染推定場所および感染時の作業内容、ダニ刺口の有無、臨床症状などについて調査している。以後1998年までの4年間に77の患者発生が確認されたが、このうち70が調査票で報告された。以下は調査票による日本紅斑熱発生状況の解析である。

紅斑熱様患者報告数は1995年16例、1996年14例、1997年24例、1998年16例で、いずれもR. japonica株を抗原とする間接蛍光抗体法での抗体価の有意な上昇により診断された。日本紅斑熱患者の月別発生状況をつつが虫病と比較してみると、日本紅斑熱はつつが虫病の発生が少ない7〜9月に多発している(図3)。5〜6月はつつが虫病の発生と一致しているように見えるが、この時期のつつが虫病は日本紅斑熱の発生がみられていない東北・北陸で発生している。日本紅斑熱患者の性別・年齢別分布をみると、患者発生には性差がなく、全年齢層にわたっているが、患者のおよそ2/3は50歳以上で(表1)、つつが虫病患者と同様な傾向にある(本月報Vol.18、No.9参照)。日本紅斑熱患者の感染推定場所および作業内容をみると、感染場所では山地が、作業内容では農作業が最も多く、次いでレジャー、森林作業、山菜採取時に感染している例が多い(表2)。この傾向はつつが虫病に類似しているが、森林作業中の感染の比率はつつが虫病の方が高い。また、日本紅斑熱とつつが虫病では患者発生地が異なるとされているが、つつが虫病多発県では重複している。さらに、日本紅斑熱患者の発生地が拡大傾向にあることから、発生地による両疾患の判別は困難になりつつある(本月報Vol.18、No.9および本号6ページ参照)。

1999年4月に施行された「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症新法)」では、日本紅斑熱はつつが虫病(感染症新法ではツツガムシ病)とともに4類(全数把握)感染症として医師の届け出が義務づけられた(本月報Vol.20、No.4参照)。日本紅斑熱については媒介ダニが推定の域を出ていないなど、感染様式に不明な点が残されているが、発生時期はつつが虫病の少ない夏季が中心であることから、夏季につつが虫病が疑われる患者が発生し、つつが虫病が否定された場合には日本紅斑熱に対する検査をすることが望まれる。日本紅斑熱の届け出のための基準はつつが虫病と同様で、「医師の判断により症状や所見から本疾患が疑われ、かつ、病原体または病原体遺伝子が分離または検出されたもの、または、病原体に対する抗体の有意な上昇があったもの」とされている。

紅斑熱群リケッチアによる感染症は世界各地で発生しており、わが国でも海外感染例が1988年に神奈川県で1例、1991年に東京で2例、さらに1996〜97年に同じく東京で2例(本号8ページ参照)報告されている。

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