The Topic of This Month Vol.27 No.6(No.316)

腸管出血性大腸菌感染症 2006年5月現在

(Vol.27 p 141-142:2006年6月号)

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症」は、感染症法に基づく発生動向調査において全数把握の3類感染症として医師の届出が義務付けられている。2006年4月に感染症発生届出基準が一部改正され、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限っては、便からVero毒素を検出した場合、患者血清におけるO抗原凝集抗体または抗Vero毒素抗体検出によって診断した場合も届出が必要となっている(本号9ページ参照)。

さらに、食品が原因と疑われ、医師から食中毒の届出があった場合や、保健所長が食中毒と認めた場合には「食品衛生法」に基づき、各都道府県等において調査および国への報告が行われる。

一方、病原体サーベイランスでは、地方衛生研究所(地研)がEHECの検出、血清型別、毒素型別を行って、国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)に報告しており、国立感染症研究所細菌第一部では分離菌株について詳細な分子疫学的解析を行ってパルスネットで情報提供している(本号4ページ参照)。

患者発生動向:2005年にはEHEC感染症患者および無症状病原体保有者(以下EHEC感染者)が3,577例報告された(表1)。2004年の報告数と比べて微減であり、ほぼ横ばい状態が続いている。2005年の週別報告数は、例年同様季節変動が大きく、夏季に流行のピークがみられた(図1)。2005年の都道府県別発生状況は人口10万人当たり0.87〜 9.1と、かなりの地域差がみられた(図2)。宮崎(9.1)が最も多く、大分(8.7)および島根(8.6)がそれに次いでいた。1999〜2004年に発生の多かった地域(IASR 26: 137-138, 2005参照)は2005年も多い傾向がみられた。また、2002年までは20〜30数例にすぎなかった国外感染例が2003年は66例、2004年は151例と大きく増加したが、2005年は27例に減少した。年齢別にみると、2005年のEHEC感染者は0〜4歳がもっとも多く、5〜9歳がこれに次いだ。0〜14歳では男性が多く、15歳以上では女性が多かった。有症者の割合は、例年同様、男女とも若年層と高齢者で高く(19歳以下で80%、65歳以上で70%)、30代、40代では36%以下であった(図3)。

EHEC検出報告:地研からIDSCに報告されたEHEC検出数は、2003年約1,400、2004年約1,800であり、2005年には約1,600となった。EHEC感染者報告数(表1)と開きがあるが、これは、現在のシステムでは地研以外で検出された分離菌株の一部が地研に届いていないことによる。

1991〜1995年はO157:H7が分離株の約80%を占めていたが、その後はO26 、O111などO157以外の血清型が増加している。2005年はO157:H7は59%であり、O26は22%、O111は4.6%であった(本号3ページ参照)。その他にも多様な血清型が検出されており、市販の抗血清で同定できない血清型でVero毒素(VT)が検出される株もある(IASR 25: 141-143, 2004参照)ことから、EHECの同定にはVTの確認が重要である。分離菌株が産生しているVT(または保有している毒素遺伝子)の型をみると、2005年も例年同様O157ではVT1&2が68%を占めた(1997〜2004年は53〜68%)。O26は例年VT1 単独が9割以上を占め、2005年も97%であった。一方、O111は例年VT1単独が6割以上を占めて来たが、2004年にはVT1&2が86%となり、2005年では59%となった。

2005年のEHEC検出報告1,574例中O157が検出された1,076例の症状は、血便が34%、下痢56%、腹痛44%、発熱16%で、HUSが18例(VT1&2が10例、VT2が8例)報告された。この他、O111の5例(VT1&2が4例、VT2が1例)、OUT(VT2)の1例でHUSが報告された。

2000〜2005年にHUSが報告された148例を年齢別にみると、1歳以下17例(EHEC検出977例中1.5%)、2〜5歳75例(同2,269例中3.3%)、6〜15歳32例(同1,936例中1.7%)、16〜39歳7例(同2,782例中0.3%)、40歳以上17例(同2,268例中0.7%)で、低年齢で発症数が多く、発症率も高い。

集団発生:2005年に地研からIDSCに報告されたEHEC感染症集団発生は28事例で、O157による事例が過半数を占めていた。うち菌陽性者10人以上の12事例では(表2)、伝播経路が食品媒介と推定された事例は4件であり、人→人感染と推定された事例は3件であった。なお、「食品衛生法」に基づいて都道府県等から報告された2005年のEHEC食中毒は24事例、患者数105名であった(注:「感染症法」による報告数に比べ患者数が極端に少ないのは、感染原因が食品等の飲食によると判明するケースが少ないこと、患者1名の場合は食中毒としての届出が出されにくいことによる)。

2005年も依然として保育所での集団発生が多く7件あった。EHECは赤痢菌と同様に微量の菌により感染が成立するため、人から人へ感染が拡大しやすく、また、少数菌で汚染された食品が感染の原因となりうる。保育所等での人→人感染による集団感染予防には、日常の園児・職員の手洗い、夏季の簡易プールなどの衛生管理に注意を払う必要がある(本号4−5ページ6−7ページ7ページ8ページ参照)。さらに、家族への二次感染が多いので(表2)、患者が発生した場合には、家族に対して二次感染予防について指導を徹底する必要がある。また、食品の十分な加熱調理など、食中毒予防の基本を守ることも重要である。

2006年速報:本年第1〜22週までのEHEC感染者届出数は488人である(表1)。既に第16週に小さいながらもピークが見られる(図1)。今後、夏場にかけてEHEC感染症がさらに増加することが予想されるので、一層の注意喚起が必要である。

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