The Topic of This Month Vol.26 No.6(No.304)

腸管出血性大腸菌感染症 2005年5月現在

(Vol.26 p 137-138)

腸管出血性大腸菌(EHEC)による感染症は、感染症法に基づく感染症発生動向調査において全数把握の3類感染症として医師の届出が義務付けられている。また、食品が原因と疑われ、医師から食中毒の届出があった場合や、保健所長が食中毒と認めた場合には「食品衛生法」に基づき、各都道府県等において調査および国への報告が行われる。

患者発生動向:2004年にはEHEC感染症患者および無症状病原体保有者(以下EHEC感染者)が3,711例報告された(表1)。この数字は感染症法施行後では2001年に次いで多かった。2004年の週別報告数は、例年同様夏季に増加し、第29週(7/12〜18)には石川の高校で起きた韓国修学旅行後の集団発生(表2および本号5ページ参照)によるピークがみられた(図1)。2004年の都道府県別発生状況は人口10万人当たり0.90〜14.8と、かなりの地域差がみられた(図2)。石川(14.8)が最も多く、岡山(9.83)および鳥取(8.66)がそれに次いでいた。1999〜2003年に発生の多かった地域は2004年も多い傾向がみられた。また、2002年までは20〜30数例に過ぎなかった国外感染例が2003年に66例と増加していたが、2004年はさらに151例と大きく増加した。2004年のEHEC感染者は0〜4歳がもっとも多く、5〜9歳がこれに次いだ。0〜14歳では男性が多く、15歳以上では女性が多かった。有症者の割合は、例年同様、男女とも若年層と高齢者で高く(19歳以下で79%、65歳以上で66%)、30〜50代では45%以下であった(図3)。

EHEC検出報告:地方衛生研究所(地研)から国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)に報告されたEHEC検出数は、2002年約1,800から2003年約1,400に減少したが、2004年には約1,800となった。EHEC感染者報告数(表1)と開きがあるが、これは、現在のシステムでは地研以外で検出された菌株情報の一部が地研に届いていないことによる。1991〜1995年はO157:H7が分離株の約80%を占めていたが、その後はO26、O111などO157以外の血清型が増加している。2004年にはO157:H7は50%に低下し、O26は24%、O111は8.2%に増加した(本号3ページ参照)。その他にも多様な血清型が検出されており、市販の抗血清で同定できない血清型でVero毒素(VT)が検出される株もある(IASR 25: 141-143, 2004参照)ことから、EHECの同定にはVero毒素(VT)の確認が重要である。分離菌株が産生しているVero毒素(または保有している毒素遺伝子)の型をみると(本号3ページ参照)、O157では2004年も例年同様VT1&2が63%を占めた(1997〜2003年は53〜68%)。O26 は例年VT1単独が9割以上を占め、2004年も97%であった。一方、これまでO111ではVT1 単独が6割以上を占めて来たが、2004年は大きな集団発生があったことを反映して(表2)VT1&2が86%となった。

2004年はEHEC陽性の1,809例中14例に溶血性尿毒症症候群(HUS)が報告された。うち、O157が13例(VT1&2が8例、VT2が5例)、その他はO165(VT2)が1例であった。O157が検出された1,114例の症状は血便が31%、下痢47%、腹痛41%、発熱17%であった。2000〜2004年にHUSが報告された124例を年齢別にみると、1歳以下12例(796例中1.5%)、2〜5歳61例(1,902例中3.2%)、6〜15歳32例(1,672例中1.9%)、16〜39歳7例(2,379例中0.3%)、40歳以上12例(1,949例中0.6%)で、低年齢で発症数が多く、発症率も高い。

集団発生:2004年にIDSCに報告された菌陽性者10人以上の事例中、伝播経路が食品媒介と推定された事例は1件であり、人→人感染と推定された事例は6件であった(表2)。なお、「食品衛生法」に基づいて都道府県等から報告された2004年のEHEC食中毒(国外事例を除く)は18事例、患者数70名であった(注:「感染症法」による報告数に比べ患者数が極端に少ないのは、感染原因が食品等の飲食によると判明するケースが少ないこと、患者1名の場合は食中毒としての届出が少ないことによる)。

2004年も依然として保育所・幼稚園での集団発生が11件と多かった。原因菌の血清型はO157よりもむしろO26の方が多い。保育所等での人→人感染による集団感染予防には、普段からの園児・職員の手洗い、夏季の簡易プールなどの衛生管理に注意を払う必要がある(本号6ページ参照)。さらに、EHEC感染症では家族への二次感染が多いのが特徴である(表2)。家族に対して二次感染予防の指導を徹底する必要がある。

また、人→人感染か食品媒介かが判明せず伝播経路が不明の事例も多く、高齢者施設の事例では死亡例が報告された(本号8ページ参照)。

2003年に福岡から報告されたオーストラリア修学旅行の事例(IASR 25: 147-148, 2004参照)に続いて、2004年には石川から韓国修学旅行(表2)の集団発生が報告された。患者数は110人で、受診した医療機関は25か所以上に及んだため、保健所は情報提供などの対応に追われた。海外修学旅行の計画には健康危機管理対策を含める必要があることが指摘された(本号5ページ参照)。

パルスネットの情報:2004年には5つ以上の都道府県で同一のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンを示す株がO157で7種類、O26で1種類分離された(本号4ページ参照)。また、米国CDCを中心に国際的な規模で対応できる体制の構築が進んでいる。2004年には、沖縄の米軍基地で発生したO157事例由来株のPFGEパターンを日米で共有し、感染源と考えられた米国産牛肉約4万トンのリコール実施に結びついた(IASR 26: 75-76, 2005参照)。

2005年速報:本年第1〜21週までのEHEC感染者届出数は390人である(表1)。既に第3週、第10週、第13週に小さいながらもピークが見られる(図1および本号11ページ12ページ13〜14ページ参照)。今後、夏場にかけてEHEC感染症がさらに増加することが予想されるので、一層の注意喚起が必要である。

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