2009/10シーズンのインフルエンザはパンデミック発生により例年より2〜3カ月早く秋季をピークに流行したが、2010/11シーズン(2010年第36週/9月〜2011年第35週/8月)は、従来の冬季流行パターンに戻った(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/01flu.html)。
患者発生状況:感染症発生動向調査では、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科3,000、内科2,000)から、インフルエンザと診断された患者数が週単位で報告されている。定点当たり週別患者数は、2010年第50週に全国レベルで流行開始の指標である1.0人を超え、流行期間は2011年第21週まで24週間であった。流行の最大ピークは2011年第4週(31.9人)であったが、第11週と第16週にも第2、第3のピークがみられた(図1)。2010/11シーズンのピークの高さは過去10シーズンでは8番目と低かったが、流行期間が長かったため、シーズン全体(2010年第36週〜2011年第35週まで)の定点当たり累積患者数(275.00人)は4番目に多かった。定点医療機関からの報告数をもとに推計した定点以外を含む全国の医療機関を受診した患者数は、2010年第36週〜2011年第22週までの累積で約1,376万人(95%信頼区間:1,343万人〜1,410万人)(暫定値)であった。
都道府県別にみると、2011年第1週に沖縄県、福岡県、佐賀県で、第2週には26県で定点当たり10.0人を超え、全国的な流行となった(https://nesid3g.mhlw.go.jp/Hasseidoko/Levelmap/flu/index.html)。
全医療機関から報告された「インフルエンザによる重症患者・死亡者の概況(厚生労働省健康局結核感染症課)」(http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/houdou/2011/03/dl/infuh00316-01.pdf)によると、2010年9月6日〜2011年3月15日までに404人が入院し(うち、急性肺炎で人工呼吸器装着190人、急性脳症115人、集中治療室入室287人、一部重複あり)、149人が死亡した(うち、基礎疾患を有する者124人、入院外死亡者19人)。
ウイルス分離・検出状況:全国の地方衛生研究所(地研)で分離された2010/11シーズンのインフルエンザウイルスは7,625であった(2011年10月18日現在報告数、表1)。この他にPCRのみでの検出報告が4,343あった。分離およびPCRを含めた検出総数11,968のうち、インフルエンザ定点の検体からの検出数は8,615、インフルエンザ定点以外の検体からの検出数は3,353であった(表2)。
2010/11シーズンに検出されたウイルスの型・亜型別割合はAH1pdm09が52%、AH3 32%、B型15%であり(表2)、2008/09シーズンまで流行のあった季節性AH1亜型は2009年第36週以降全く報告されていない。B型のほとんどはVictoria系統で、山形系統は少なかった。また、海外渡航者からの検出数はAH1pdm09が37、AH3亜型24、B型7であった(表2)。2010/11シーズンに解析されたAH1pdm09分離株の2.0%がオセルタミビル耐性遺伝子変異H275Yを保有する株であった(2009/10シーズンは1.0%)(本号4ページおよびhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/influ.html#taiseikabu)。
2010/11シーズン当初はAH3亜型の報告数がAH1pdm09を上回っていたが、第49週以降、AH1pdm09が増加して優勢となった。AH1pdm09は2011年第3週をピークに減少し、第7週以降は再びAH3亜型がAH1pdm09を上回った。第12週以降はB型の報告数がA型を上回った(図1)。インフルエンザ患者報告数の第1のピークはAH1pdm09、第2のピークはAH3亜型、第3のピークはB型によると考えられる(図1、図2)。
AH1pdm09検出例の年齢分布をみると、2008/09シーズンは15〜19歳、2009/10シーズンは5〜9歳が最も多く(IASR 31: 248-250, 2010)、2010/11シーズンも5〜9歳が最も多かったが(図3、図4)、2009/10シーズンより20歳以上の割合が増加した。AH3亜型とB型(Victoria系統)も5〜9歳が最も多かった(図3、図4)。
2010/11シーズン分離ウイルスの抗原解析(本号4ページ):AH1pdm09分離株は2009/10と2010/11シーズンのワクチン株であるA/California/7/2009に類似していた。AH3亜型はすべてがわが国の2010/11シーズンワクチン株であるA/Victoria/210/2009およびWHOのワクチン推奨株A/Perth/16/2009類似株であった。B型の主流であったVictoria系統株はB/Brisbane/60/2008(2009/10と2010/11シーズンワクチン株)に類似していた。少数分離されたB型山形系統株はB/Florida/4/2006(2008/09シーズンワクチン株)からは大きく異なり、B/Wisconsin/1/2010(2010/11シーズン主流行株)に類似していた。
抗体保有状況:2010年度感染症流行予測調査によると(本号10ページ)、2010/11シーズン前の主に2010年7〜9月に採血された血清におけるA(H1N1)pdm09亜型に対するHI抗体価1:40以上の保有率は、全体では40%、年齢別では10〜14歳65%、15〜19歳64%、5〜9歳56%、20〜24歳54%の順に高く、2009年度(2009年7〜9月採血、IASR 31: 260-261, 2010)よりかなり高かったが、0〜4歳と50歳以上は12〜24%と比較的低かった。AH3亜型、B型Victoria系統、B型山形系統に対する1:40以上の抗体保有率は、全体では40%、33%、27%で、それぞれ15〜19歳62%、35〜39歳61%、20〜24歳64%が最も高かった。
インフルエンザワクチン:2010/11シーズンには3価ワクチン約2,928万本(1mL換算、以下同様)が製造され、推計で2,447万本が使用された。予防接種法に基づく高齢者(主として65歳以上)に対する接種率は53%(2009/10シーズンは50%)であった。
2011/12シーズンワクチン株は2010/11シーズンに引き続きAH1pdm09のA/California/7/2009、AH3亜型のA/Victoria/210/2009、B型Victoria系統のB/Brisbane/60/2008が選択された(本号13ページ)。また、2011/12シーズンは小児の接種量が変更となった。生後6カ月以上3歳未満は0.25mLを2回、3歳以上13歳未満は0.5mLを2回、いずれも2〜4週間隔で接種する。13歳以上は昨シーズンと同様で0.5mLを1回または2回接種する。
予防接種法改正:予防接種法及び新型インフルエンザ予防接種による健康被害の救済等に関する特別措置法の一部が改正行され、2011(平成23)年10月1日に新たな臨時の予防接種の類型が創設された(本号18ページ)。また、2011/12シーズンから定期接種(予防接種法)と任意接種(薬事法)のインフルエンザワクチン副反応の報告ルートが一本化され、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)で集約し、厚生労働省の合同検討会で評価する方法となった。
入院サーベイランス:2011年9月5日から基幹定点の医療機関はインフルエンザで入院した患者について「集中治療室および人工呼吸器の使用の有無」並びに「脳波検査その他急性脳症の発症の有無を判断するために必要な検査の実施に関する事項の有無」を保健所へ報告することとなった(本号20ページ)。
おわりに:2010年11月以降、国内各地で野鳥や家禽でのA(H5N1) 亜型による高病原性鳥インフルエンザが発生しており(http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/index.html)、海外では鳥だけでなく人でのA(H5N1)亜型感染の報告が続いている。AH1pdm09ウイルスによるパンデミックの経験を踏まえ、さらなる新型インフルエンザの発生・流行に備え、2011年9月20日に「新型インフルエンザ対策行動計画」が改訂された(本号19ページ)。定点サーベイランス、学校サーベイランス(インフルエンザ様疾患報告)、入院サーベイランス等により患者発生の動向を監視すること、通年的にウイルス分離を行い、ワクチン候補株を確保するために流行株の抗原変異、遺伝子変異を解析し、さらに抗インフルエンザ薬耐性出現を監視することが今後の対策に引き続き重要となっている。
2011/12シーズンインフルエンザウイルス分離・検出速報は本号21〜22ページ、22〜23ページ、23〜24ページ、24ページおよびhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/influ.htmlに掲載している。