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Vero毒素産生性大腸菌(VTEC)は,激しい腹痛と血性下痢を主徴とする出血性大腸炎の起因菌で,溶血性尿毒症症候群(HUS)を併発する。わが国では1991年以降,“Vero毒素産生性あるいはVero毒素遺伝子”(VT)を指標としたVTECの検出情報を収集してきた。本報告は1991年1月〜1995年12月末日までに病原微生物検出情報事務局に報告されたVTEC発生状況のまとめである。
1991年1月〜1995年11月に全国の地方衛生研究所で検出されたVTECは351であった。これは,同期間に報告された病原大腸菌検出総数6,783の5.2%である。また,同期間に医療機関で検出されたVTECは114であった(表1)。
VTECの月別検出状況によると,本菌による下痢症は7〜8月にピークをもつ夏季多発のパターンを示す。1993年7月および1994年10月の多発は,それぞれ東京都および奈良県における集団発生の影響である(図1)。
検出されたVTECの血清型および毒素型を表2に示した。1991年1月〜1995年11月までに検出されたVTECのO血清型は10種類であった。最も多く検出されたのはO157:H7で,82%(379)を占めた。1991〜1994年に検出されたVTEC430株は,VT1およびVT2産生株316(73%),VT2産生株72(17%),VT1産生株21(4.9%)であった。血清型O26は1995年の4株を含む11株すべてがVT1単独産生株であった。
1991〜1994年のVTEC検出症例430の年齢分布によると(表3),若年層で多発傾向がみられ,1歳以下40例(9.3%),2〜5歳96例(22%),6〜15歳223例(52%)であった。最年少は5カ月,最年長は85歳であった。性比は1.02で男性がやや多かった。
VTEC検出症例の臨床症状をみると(表3),HUSは29例(6.7%)で,15名(52%)が5歳以下であった。他に6〜15歳が9名,16歳以上で4名が報告された。1995年には死亡例1を含む3例のHUSが報告された。死亡例の報告
(本号参照)
は1991年に本集計を開始して以来初めてである。HUS患者から検出されたVTECはすべてO157であった。VTEC O157が検出された症例では血便は32%,下痢は32%,腹痛は35%,発熱は13%にみられ,血清型O157以外のVTEC検出症例ではそれぞれ16%,70%,61%,6.8%にみられた。
1991〜94年に報告された430株のVTの検出方法を表4に示した。現在わが国ではPCR法およびRPLA法が汎用されており,1994年にはそれぞれ85%,90%を占めた。RPLA法はキットの市販以降急速に普及したが,手技がやや煩雑なELISA法は1993年以降用いられていない。325株(76%)では複数の方法が用いられ,うち123株(29%)はPCRとRPLA,93株(22%)はPCR,RPLAおよびVero細胞CPEの組合せであった。
VTECによる集団発生は1991年は12例
(本月報Vol.13,No.7参照),
1992年は5例
(本月報Vol.14,No.10参照)
が報告された。これら17例中11例(65%)が家族内,4例(24%)が保育園,2例(12%)が小学校での発生であった。1993〜1995年12月末までには12例が報告された(表5)。家族内発生が8例,保育園あるいは小学校での発生が各2例で,原因菌は全例VTEC O157:H7であった。事例2
(本月報Vol.15,No.6参照)
および事例10
(本月報Vol.16,No.1参照)
は小学校で発生し,二次感染患者も報告された。わが国におけるVTEC集団発生は,施設内での発生より家族内発生が多い。事例12でも親族内の人から人への感染が強く示唆された
(本号参照)。
わが国ではまた,散発,集発を問わずほとんどの事例で感染源の特定がなされていない。今後はVTECによる集団発生においては,食中毒としての対応のみならず,感染症としての対策が強く望まれる。
表1. 年別病原大腸菌分離数の内訳 1991年〜1995年(地研・保健所集計)
図1. Vero毒素産生性大腸菌月別検出状況,1991年1月〜1995年10月
表2. Vero毒素産生性大腸菌の血清型と毒素型
表3. Vero毒素産生性大腸菌検出例の年齢と臨床症状,1991〜1994年
表4. Vero毒素産生性およびVero毒素遺伝子検出方法,1991〜1994年
表5. Vero毒素産生性大腸菌による集団発生 1993年〜1995年 (1995年12月25日現在報告数)
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