The Topic of This Month Vol.24 No.1(No.275)

細菌性赤痢 2001〜2002

(Vol.24 p 1-2)

1999年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」では細菌性赤痢は2類感染症に位置づけられ、 患者、 疑似症患者および無症状病原体保有者(保菌者)を診断した医師は速やかに最寄りの保健所を通じて都道府県知事に届けなければならない。なお、 鑑別診断が必要なアメーバ赤痢は4類感染症に位置づけられている。

患者発生動向:感染症発生動向調査によると、 細菌性赤痢患者(以下疑似症患者および保菌者を含む)の届け出は2001年824例、 2002年(1〜11月)641例、 計1,465例で、 1999年(4〜12月)581例、 2000年821例、 計1,402例と大差がなかった。推定感染地をみると(表1)、 2001年は国外485例(59%)、 国内301例(36%)、 感染地不明38例(5%)、 2002年は国外348例(54%)、 国内245例(38%)、 感染地不明48例(8%)と、 国外が過半数を占めている傾向に変わりはないが、 2001〜2002年の国内感染例は1999〜2000年(27%)(本月報Vol.22、 No.4参照)に比べ増加していた。国外ではアジアが多い傾向は従来通りであるが、 1999〜2000年に比べ、 2001〜2002年はインド(17%→8.6%)とインドネシア(14%→8.0%)の割合が減少し、 中国(4.7%→6.7%)とタイ(4.9%→6.5%)がやや増加した。インド、 中国での感染が推定された者は男性が多いのに対し、 インドネシア、 ベトナムでの感染が推定された者は女性が多かった。

感染地別に2001〜2002年の週別報告数をみると(図1)、 国内例が2001年第49週に86例に急増し、 それが2002年前半にも続いた。一方、 国外例は2001年第11週(22例)と第40週(21例)以外は20例以下であった。

2001年および2002年の患者の性別年齢分布を推定感染地別にみると(図2)、 両年とも国内例では5〜9歳が多いのに対し、 国外例は男女とも20代および30〜34歳が多い。特に14歳以下の小児はほとんどが国内例で、 後述の広域食中毒発生後に幼稚園や保育園(本月報Vol.23、 Nos.3 & および本号3ページ参照)、 小学校(本月報Vol.23、 Nos.5 & 参照)での集団発生が相次いだことを反映している。

輸入カキが原因と推測されたShigella sonnei の広域食中毒事例:2001(平成13)年11月下旬から西日本を中心に、 輸入カキによるS. sonnei の広域食中毒が発生した。厚生労働省のまとめでは2002年1月30日までに30都道府県で160例の赤痢患者が報告された(本号5ページ参照)。厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課より「赤痢菌の試験法について」の事務連絡(2002年1月9日付)が出され、 国立感染症研究所細菌第一部では送付された菌株の遺伝子解析を行い結果を返送している。各地のカキ喫食が推定された事例から分離された菌株がカキから分離された菌株と同一のPFGEパターンを示したことが報告されている(本号3ページおよび本月報Vol.23、 Nos.3 & 参照)。

赤痢菌検出状況:地方衛生研究所から報告された1995〜2002年の8年間の赤痢菌の検出状況を表2に示す。血清群別の検出報告数は各年とも同様の傾向で、 S. sonnei が最も多く、 S. flexneri がこれに続く。S. boydii S. dysenteriae は少数で、 それらは主に国外例から分離されたものであった。一方、 稀な血清型であるS. flexneri 5aが2002年11月に青森県で海外渡航歴のない者から(本号6ページ参照)、 S. flexneri 4aが2002年11月に山形県で中国への旅行者から(本号6ページ参照)分離されている。また、 新しい血清型の分離も報告されている(本号7ページ参照)。

薬剤感受性:2001年に東京都および12指定都市の15の都市立感染症指定医療機関で行われた赤痢菌の薬剤感受性成績を表3に示す。スルファメトキサゾール/トリメトプリム(ST)、 テトラサイクリン(TC)、 カナマイシン(KM)では国外例および国内例とも高率の耐性を示したのに対し、 クロラムフェニコール(CP)、 アンピシリン(ABPC)では国内例で耐性率が高い傾向が認められた。現在、 細菌性赤痢の第1選択薬であるニューキノロン剤に対する耐性菌は今回は認められなかった。

問題点と対策:細菌性赤痢の起因菌である赤痢菌属(Shigella spp.: S. dysenteriae S. flexneri S. boydii S. sonnei )はヒトおよびサルが保菌するが、 日本には常在しない。近年、 日本で発生している細菌性赤痢は1998〜1999年に大阪で起こったような事例(本月報Vol.22、 No.4参照)を除けば、 主には国外感染あるいは輸入食品からの国内感染およびそれらの感染者からの二次感染によると考えられる。国外感染に対しては、 広く輸入感染症についての知識の普及をはかり、 帰国時に有症者および既往者の検便を行う重要性を海外渡航者に認識してもらうこと、 国内感染に対しては、 海外渡航歴のない患者の喫食調査など、疫学調査をさらに積極的に行い、 汚染された食品などの感染経路を迅速に特定することが必要である(本月報Vol.22、 Nos.4参照)。

感染症発生動向調査で報告された患者数に対し、 地研・保健所からの赤痢菌報告数は年々少なくなっており、 現状では感染症対策に不可欠な病原体検査情報が一部しか得られていない。また上記の薬剤感受性成績は、 長年にわたり感染性腸炎研究会が入院患者からの分離菌株を調査追跡しているものであるが、 1999年の法律改正後、 入院患者が大きく減少したため、 検査株数が少数となり、 耐性率を比較することが年々難しくなってきている。それらを補うためにも、 国内広域食中毒事例を契機に保健所・地方衛生研究所・国立感染症研究所が連携して行っている各地の菌株の収集解析を、 今後は医療機関・民間検査所で分離された菌株も収集して行うように病原体サーベイランス体制を強化する必要がある。

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