The Topic of This Month Vol.28 No.2(No.324)

マイコプラズマ肺炎 2006年現在

(Vol.28 p 31-32:2007年2月号)

ヒトから分離されるマイコプラズマの中で病原性が明らかなのは、Mycoplasma pneumoniae のみであり、上気道炎、気管支炎、肺炎などの呼吸器感染症を引き起こす。肺炎はM. pneumoniae 感染者の約3〜5%に起こり、一般に他の細菌性肺炎の場合に見られる膿性の喀痰は伴わず、症状がかなり遷延して頑固な乾性咳嗽が続く特徴がある。マイコプラズマ肺炎の臨床像は、一般的には比較的軽微で、予後良好な経過をとることが多いが、成人、高齢者においては呼吸不全などを呈する重症、劇症例がみられることがある(本号3ページ5ページ)。また、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪に関連する慢性感染も指摘されている(本号7ページ)。

マイコプラズマ肺炎の患者発生状況:日本におけるマイコプラズマ肺炎は、1988年以前は、4年おきに規則正しく流行していた。感染症発生動向調査では、1999年3月までは約2,500の小児科定点から「異型肺炎」の報告が行われていたが、1999年4月の感染症法施行に伴い、病原体診断を含んだ「マイコプラズマ肺炎」に疾患定義が変更され、5類感染症として約 500の基幹定点からの報告が行われている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-06-24.html参照)。

1982〜1999年3月までの異型肺炎患者発生状況および1999年4月以降のマイコプラズマ肺炎の発生状況を図1に示す。1984年と1988年に大きなピークがあったが、1992年以降この周期性が崩れ、1991年以降は晩秋から早春にかけて規則正しく小さなピークが認められる。2000年以降、定点当たり患者報告数が年々増加傾向にあり、2006年に大きく増加しているので、今後の患者発生動向が注目される。1992年以降、大流行が見られなくなった原因としては、マイコプラズマ肺炎の早期診断、早期治療により家族内感染や学校などでの集団感染が減少したことも一因であると考えられる。

肺炎球菌や他の細菌による細菌性肺炎は乳幼児および65歳以上の高齢者に多発するのに対し、マイコプラズマ肺炎は幼児、学童および青年期年齢に多いのが特徴である(図2)。

図3は、2000〜2006年の都道府県別マイコプラズマ肺炎の発生状況を示す。マイコプラズマ肺炎の定点当たりの報告数は、一般に北海道、四国、九州、沖縄は低いが、2006年は沖縄で患者発生が多かった。

マイコプラズマ肺炎の実験室診断:病原診断として咽頭や喀痰材料からのM. pneumoniae の分離培養は、現在では一部の機関でしか実施されていない(本号8ページ)。現在、実験室診断の主流を占めるのは血清抗体測定法である。種々の抗体測定キットが市販されており、極めて簡便で迅速な検査ができるが、幼児、学童の初回感染例では発病1週間以内では陰性を示すことが多い。また、単一血清において高い抗体価が測定されても、それが既往感染によるものである可能性を否定できない(本号10ページ)。最近は、PCR法によるM. pneumoniae 遺伝子検出が次第に多くの機関で実施されるようになってきている(本号8ページ)。

M. pneumoniae の型変化M. pneumoniae は、その細胞付着蛋白質(P1)をコードしている遺伝子の塩基配列の違いにより二つのタイプに分けられる。1976年から国内で分離された株、および2000年以降は患者検体(咽頭スワブや喀痰サンプル)を用いてPCRによるM. pneumoniae DNAの検出を行い、その陽性検体についてP1遺伝子を解析した結果、I型とII型菌が一定の間隔で交互に出現していることが分かった(図4および本号8ページ)。型が8〜10年ごとに置き換わる理由に関してはまだ不明である。

マイコプラズマ肺炎の治療:マイコプラズマ肺炎は臨床的にクラミジア肺炎と類似しており、病原診断確定前に治療を開始するため、両者に有効なテトラサイクリン系やマクロライド系の抗菌薬が一般に使用されているが、小児に対してはその副作用出現の危惧からテトラサイクリン系薬剤は第一選択薬剤とはならない。1999年以前には、マクロライド系抗菌薬に対するM. pneumoniae の耐性株は認められなかったが、2000年以降、分離またはPCRで検出されたM. pneumoniae の約15%がマクロライド耐性と判定された(表1)。マクロライド耐性M. pneumoniae が感染した患者群においては、発熱期間の遷延が認められたが(本号11ページ)、基本的に患者が重症化に至らない限り、小児においては7日間(最低4日間)はマクロライド系抗菌薬が使用されている。成人に対しては、マクロライド系薬剤に加え、テトラサイクン系やニューキノロン系薬剤も使用されている。

M. pneumoniae のマクロライドに対する耐性は、リボソーム50Sサブユニット中の23S rRNA配列の点変異による。耐性菌では23S rRNAドメインVの2063番目(大腸菌では2058番目に相当)または2064番目のアデニンの変異、または2617番目のシトシンの変異が見つかっている(本号12ページ)。

まとめ:マイコプラズマ肺炎では、成人や高齢者の重症化例や耐性菌の出現など新たな問題が明らかとなっており、病原体鑑別診断に基づく治療が求められる。一方、流行周期が変化し、近年報告数が増加しているが、その原因はまだ不明であり、さらなる調査研究と病原体サーベイランスが必要である。

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