The Topic of This Month Vol.30 No.2(No.348)

麻疹 2008年
(Vol. 30 p. 29-30: 2009年2月号)

WHOの推定によると、世界の麻疹による死亡者数は2000年の75万人から2007年には19.7万人に減少した。また、同期間に患者報告数も3分の1に減少した(本号26ページ)。日本を含むWHO西太平洋地域では2012年を麻疹排除の目標年としている。

日本における定期予防接種としての麻疹ワクチン接種は、従来生後12〜90カ月に1回であったが、2006年度に第1期を1歳児、第2期を小学校就学前1年間と変更して麻しん風しん混合ワクチンによる2回接種を開始した(IASR 27: 85-86, 2006)。しかし、2007年に10代〜20代を中心とする流行が起こったため(IASR 28: 239-240, 2007)、2008〜2012年度の5年間の経過措置として、予防接種法に基づく定期接種に第3期(中学1年相当年齢の者)と第4期(高校3年相当年齢の者)の2回目接種を追加した。また、感染症法に基づく麻疹患者サーベイランスを、2008年1月から全数報告に変更した(IASR 29: 179-181&189-190, 2008)。従来の定点報告は臨床診断による届出であったが、1回ワクチン接種者などで典型的な症状を示さない修飾麻疹がみられることから、修飾麻疹についても検査診断による届出が求められている(http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/guideline/doctor_ver2.pdf)。

感染症発生動向調査:2008年第1〜52週に届出された麻疹患者は検査診断例4,200人(うち、修飾麻疹1,024人)、臨床診断例6,807人、計11,007人(2009年1月21日現在報告数)であった。週別報告数は(図1)、第5週に大きく増加し、第7週(567人)と第17週(543人)をピークに減少し、第32週以降は50人以下となったが、毎週10人以上の患者発生が続いている。

患者は男6,426人、女4,581人と男性が多く、年齢分布は(図2)、0〜1歳と15〜16歳に2つのピークがあり、0〜1歳と8〜27歳で各年齢 200人以上の報告があった。ワクチン接種歴は、未接種4,910人、1回接種2,933人、2回接種131人、不明3,033人であった。0歳児はほとんど未接種者であった(本号3ぺージ)。

都道府県別報告数は(図3)、神奈川3,558人、北海道1,460人、東京1,174人、千葉1,071人が千人を超えており、神奈川、東京、千葉に埼玉(388人)を合わせた首都圏4都県で全体の56%を占めた。その他では、福岡、大阪、静岡、愛知、京都、秋田、兵庫、広島、岡山が100人を超えていた。

合併症として、2008年には麻疹脳炎9例が報告された(2007年と同数)。全例が10歳以上であった。

施設別集団発生状況:2008年4月6日〜7月19日までに麻疹による休校64、学年閉鎖45、学級閉鎖14、計123件が厚生労働省に報告され、2007年同期(363件)の約3分の1であった。特に高校が59と多く、中学校27、小学校14、大学11などであった(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/measreport/meas08/meas08-15.pdf)。

2008年の各地の流行状況:上記の患者の多かった地域では2007年の流行が2008年にも継続していた(IASR 29: 128-129, 2008)。秋田では2007年第51週から患者数が急増し、ワクチン未接種者の登校停止措置を導入して流行拡大防止をはかった(IASR 29: 102-103, 2008)。千葉では第5〜12週に小中学校を中心とした流行後、高校柔道大会参加者を発端として第21〜29週に高校を中心とする地域流行に拡大した(本号4ページ)。沖縄では3月のライブコンサート、8月の野外バーベキューでの集団感染など、県外からの移入例を発端とする患者発生があった(本号6ページ)。

麻疹ウイルス検出状況:麻疹ウイルスはA〜HのCladeに分類され、23の遺伝子型が存在する。国内では、2001年の流行ではD5、2002〜2003年はH1が主に検出されたが(IASR 25: 60-61, 2004)、2006年以降はD5の流行が続いている(http://idsc.nih.go.jp/iasr/measles.html)。2008年1〜12月に22都道府県の27地方衛生研究所(地研)から264件の麻疹ウイルスの分離・検出が報告された(2009年1月22日現在報告数)。遺伝子型別された188件中175件ではD5型が検出されており、他にはH1型5件[3月に大阪府で3件(IASR 29: 160-161, 2008)、5月に千葉県で2件、いずれも国内例から]、D4型1件[5月に大阪府でイスラエルから帰国して3日後に発症した患者から(本号11ページ)]、A型(ワクチンタイプ)7件[ワクチン接種後3週間以内の人から]が検出されている。

感染症流行予測調査:ゼラチン粒子凝集(PA)法による麻疹抗体陽性は1:16以上であるが、麻疹の発症防御には少なくとも1:128以上が必要とされる(本号12ページ)。2008年度の1歳児では麻疹PA抗体(1:128以上)保有率(図4)は51%と不十分であった。5〜7歳児では95%を超えており、2006年度に第2期接種が始まったことを反映していた。12歳と17歳では2008年度に開始された第3期、第4期接種による抗体保有率の上昇が認められた。しかし、10代、特に10歳と15歳では抗体保有率が低く、20代以上でも幅広い年齢に1:128未満の低抗体価の者が存在している。

ワクチン接種率:2008年度上半期(9月末)の麻疹を含むワクチンの全国接種率(各期の接種対象年齢の者を母数とする)は第2期、3期、4期それぞれ51%、56%、48%であった(本号15ページ)。都道府県別では、福井がいずれも最も高く(67%、84%、73%)、最も低かったのは第2期宮崎40%、第3期大阪44%、第4期東京32%であった(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/index.html)。福井では未接種者を把握できるシステムが稼動しており、未接種者に対して個別に接種勧奨している(IASR 29: 191-193, 2008)。第3期と第4期の接種率がそれぞれ75%、72%と高かった浜松市では中学・高校の養護教諭と連携して接種勧奨に努めている(本号16ページ)。

今後の対策:麻疹排除を達成するには、麻疹ワクチン接種率のさらなる向上が必要である。ワクチン接種対象年齢に達しない0歳児の麻疹を無くすには国内からの麻疹排除しかない(本号3ページ)。なお今年度の第2、3、4期接種対象者は2009年3月31日を過ぎると、公費負担対象外となり、自己負担での接種となるので注意が必要である。3月の子ども予防接種週間(2009年2月28日土曜〜3月8日日曜)には、休日・夜間の接種を実施する地域医師会があるので、対象者はこれらの機会を利用し、年度内に接種を受けることが勧められる。

「麻しんに関する特定感染症予防指針(2007年12月28日厚生労働省告示)」では患者数が一定数以下になった場合、原則としてすべての発生例を検査診断することとしている。地研と国立感染症研究所の連携において2008年6月に麻疹・風疹レファレンスセンターを設置し、麻疹検査マニュアルを改訂・公表して(http://www.nih.go.jp/niid/reference/measle-manual-2.pdf)、検査診断体制強化を目指している(本号17ページ)。2009年1月15日に厚生労働省健康局結核感染症課より自治体宛に「麻しんの検査診断体制の整備について」も発出された(本号19ページ)。今後は、麻疹患者との接触が明らかでない第1例について確実に検査診断を実施して、感染拡大を防止することが必要である。

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