The Topic of This Month Vol.30 No.8(No.354)

サルモネラ症 2009年6月現在
(Vol. 30 p. 203-204: 2009年8月号)

わが国におけるサルモネラのサーベイランスは、(1)食品衛生法に基づく食中毒の発生届出(厚生労働省食品安全部監視安全課「食中毒統計」)、(2)主として食中毒集団発生の患者を対象にした、地方衛生研究所(地研)・保健所による病原体検査結果からのサルモネラ検出報告(病原微生物検出情報)からなる。さらに、国立感染症研究所細菌第一部では病原体サーベイランスの一環として、Salmonella enterica subsp. enterica serovar Enteritidis(S . Enteritidis)分離菌株のファージ型別を行っている(平成9年6月3日衛食第165号、衛乳第168号、平成20年10月9日健感発第1009001号、食安監発第1009002号)。なお、感染症法に基づく感染症発生動向調査では小児科定点報告の5類感染症である「感染性胃腸炎」の中にサルモネラによる食中毒や胃腸炎も含まれているが、「サルモネラ症」としての患者数は不明である。

1.食中毒統計による患者情報:1999年には細菌性食中毒患者総数27,741名中11,888名(43%)を占めていたサルモネラによる患者数は2000年代前半に減少したが、2006〜2008年には9,666名中2,053名(21%、第2位)、12,964名中3,603名(28%、第1位)、10,331名中2,551名(25%、第2位)と、横ばいに転じている(本号4ページ&IASR 29: 213-215, 2008)。また、2006〜2008年の1事件当たり患者数は、16.6名、28.6名、25.8名で、食中毒統計における大規模事件の目安となっている患者数500名以上のサルモネラ食中毒事件は2007年に1件発生した(原因物質S. Enteritidis、本号5ページ)。サルモネラ食中毒は7〜9月の夏場をピークに発生している(図1)。

2.地研・保健所からの病原体情報
1)検出数:サルモネラ検出報告数は、1999年まで5,000前後であったが、サルモネラ食中毒減少とともに2000年以降減少し、ここ3年は2006年1,104、2007年1,470、2008年1,082と推移している(図2)。

2)血清型:サルモネラには2,500以上の血清型があり、地研・保健所で分離されたヒト由来サルモネラ検出数では(http://idsc.nih.go.jp/iasr/virus/bacteria-j.html)、1989年以来S . Enteritidisが第1位である。S . Enteritidisは1996年に3,830(58%)を記録したが、以後減少し、2006年360(33%)、2007年576(39%)、2008年341(32%)であった。一方、1988年まで第1位を占めていたS . Typhimuriumは、2006年73(6.6%)、2007年95(6.5%)、2008年82(7.6%)、また、鶏肉から分離されることの多いS . Infantisは、2006年67(6.1%)、2007年72(4.9%)、2008年105(9.7%)であった。S . Enteritidisが大きく減少したため、相対的にその他の血清型の割合が上昇している。S . Braenderupのように、S . Enteritidis以外の血清型が首位を占める地域も出てきている(本号9ページ)。

3)集団発生:2006〜2008年に地研から報告された患者数10名以上のサルモネラ集団発生事例は17件、20件、25件であり(表1)、1990年代後半〜2000年代前半にかけて生じた急激な減少傾向が緩やかになり、ほぼ横ばいに転じている(IASR 21: 162-163, 200024: 179-180, 2003 & 27: 191-192, 2006)。このうち、S . Enteritidisによる事件の割合は2006年71%、2007年70%、2008年64%で、今なおS . Enteritidisによるところが大きい(IASR 28: 200-201, 2007, 28: 300-301, 2007、本号7ページ8ページ)。S . Typhimurium、S . Infantisによる集団発生も2008年にそれぞれ1件および3件報告されている。また、2006〜2008年の各年にS . Saintpaulによる集団発生が2〜3件報告されている。2004年(IASR 25: 261, 2004)に引き続き、2007年にもスッポンが原因と考えられるS . Typhimurium事例が報告されている(IASR 29: 20-22, 2008)。

3.S . Enteritidisファージ型:ファージ型別はS . Enteritidis分離株の疫学解析において現在でも有効な方法である。感染研細菌第一部に送付されたS . Enteritidisのうち、家族内事例を含む集団発生由来株のファージ型別の結果を表2に示す。1990年代に主流であったファージ型(PT)1および4は依然として検出されているものの、2006年はPT6a、2007年はPT21、2008年はPT14bによる事例が最も多かった。

4.爬虫類によるサルモネラ症:前回特集(IASR 27:191-192, 2006)以後、爬虫類が原因と考えられるサルモネラ症の国内事例は報告されていない。しかしながら、ペット用カメにおけるサルモネラ保有状況は相変わらず高頻度であると考えられ(本号10ページ)、また、2007年に米国で広域集団発生が報告されている(MMWR 57: 69-72, 2008)。こうした動物を飼育する際の衛生面への注意等について適切な啓発活動を継続していく必要がある(平成17年12月22日健感発第1222002号)。

終わりに:近年、サルモネラ食中毒は減少したものの、2006年にもS . Enteritidisによる死亡1名が報告された(ちなみに、1996〜2008年の死亡16名中S . Enteritidis 14名、S . Typhimurium 1名、S . Haifa 1名、本号4ページ)。発熱を伴う下痢の場合は早目に受診し、その容体の変化に十分な注意を払う必要がある(本号9ページ)。

S . Enteritidisの主たる汚染源と考えられる鶏卵および調理器具を介した二次汚染に注意を払うべきである。また、食品の食中毒菌汚染実態調査結果では鶏ミンチ肉においてS . Infantisをはじめとしたサルモネラ陽性率が高いことから(本号4ページ、平成21年3月30日食安監発第0330002号、http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/060317-1.html)、鶏卵と鶏肉は異なる経路で汚染されていると考えられ、鶏肉の取り扱いにも十分な注意が必要であろう。

また、S . Enteritidis以外の血清型の検出割合が上昇傾向にある。中にはS . Montevideo、S . Braenderupのように、特定の地域に患者が集中していながら、原因特定に至らない事例もある(IASR 29: 221-222, 2008&本号9ページ)。海外では果実、野菜類などの食品が原因と推定される広域集団発生が報告されており(本号3ページ)、S . Tennessee、S . Saintpaulなどのようにマイナーな血清型が原因となった事例も少なくない。2008年米国で発生したS . Typhimuriumに汚染されたピーナッツバターおよびその関連食品を原因とする事例では、日本での患者発生はなかったものの、当該汚染食品が輸入されており、米国から提供された出荷情報に基づいて回収が行われた。本事例では遺伝子型を含めた菌株情報の共有も日米間で行われ、わが国における患者発生の調査に活用された。今後は国際的な監視体制を整えていく必要があり、米国パルスネットや欧州CDCで遺伝子型も含めた情報の共有化が進められている。

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