The Topic of This Month Vol.32 No.8(No.378)

ライム病 2006〜2010年
(Vol. 32 p. 216-217: 2011年8月号)

ヒトは、野外活動中にマダニ刺咬により、マダニによって保有されているスピロヘータの一種ボレリア属細菌に感染することでライム病を発症する。国内におけるライム病起因菌は、そのほとんどがBorrelia garinii である。米国ではB. burgdorferi 、欧州ではB. burgdorferi B. garinii およびB. afzelii がライム病起因菌種となっている。

発生動向調査:ライム病は感染症法に基づく4類感染症であり、診断した医師による全数届出が義務付けられている。ライム病の届出基準では(1)病原体の分離・同定、(2)PCR法による病原体の遺伝子検出、(3)ウエスタンブロット法による抗体検出のうち、いずれかの実験室診断が求められている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-35.html)。感染症法施行当初はEIA法による抗体検出例も届出対象であったが、EIA法では偽陽性が見出されることから、2006年4月に届出基準が変更され、抗体検査ではウエスタンブロット法による確認がなされた症例のみが届出対象となった。さらに、2011年4月にPCR法による病原体の遺伝子検出例も届出対象に加えられた。

1999年4月の感染症法施行後2010年12月までに、感染症発生動向調査に報告された患者は、海外感染例を含め124例である(表1)。届出基準変更後の2006年4月〜2010年12月までに報告された患者は49例で、このうち、国内感染例41例(男性25例、女性16例)では(図1)、60歳以上の患者が21例で全体の51%を占めた。月別の報告数は7月が最も多く、冬期(12月〜翌年3月)には報告がない(図2)。

国内の推定感染地は北海道が19例で最も多く、長野県が5例、神奈川県、新潟県、岐阜県、福岡県がそれぞれ2例であった(図3)。国外感染例8例は、米国(4例)、ドイツ(3例)、スイス(1例)での感染が推定されている。

国内感染例について症状をみると、41例のうち30例(73%)で遊走性紅斑(erythema migrans、EM)が報告されている。EM以外では、筋肉痛(29%)、関節痛もしくは関節炎(27%)、発熱(24%)、神経根炎や顔面神経麻痺等何らかの神経症状(22%)が報告されている。

わが国におけるライム病罹患率は、全国では人口10万対0.008である。ライム病の届出が最も多い北海道ではその罹患率は 0.069である。

感染経路:ライム病ボレリアは、野山に生息するマダニ刺咬によって伝播される(本号11ページ)。北米においてはIxodes scapularis 、欧州においてはI. ricinus がライム病ボレリアを伝播する。わが国を含むアジア、ロシアにおいては、I. persulcatus が媒介ベクターとなっている。本マダニは本州中部以北の山間部に棲息し、北海道では山間部のみならず平地でもよく見られる。室内にいるイエダニなどから感染することはない。また、ヒト−ヒト感染はない。

わが国では、1986年に初のライム病患者が確認されて以来(IASR 9:172-173, 1988参照)、主に本州中部と北海道で患者が見出されている(本号3ページ4ページ)。これら患者発生地域はI. persulcatus 生息域と一致していること、また、病原体ボレリアであるB. garinii I. persulcatus から検出されることから、本マダニがライム病ボレリア感染に重要な役割を果たしていると考えられている(本号9ページ)。わが国におけるマダニの病原体保有率は、地域によりばらつきがあるが、6.7〜22%であり、わが国同様B. garinii が流行種である欧州、ロシアにおける保有率とほぼ同程度である。

臨床診断:診断は疫学的背景、臨床症状、病原体検査結果から総合的に判断することが望ましい。疫学的背景として、居住地がライム病ボレリア流行地域か否か、流行地域への旅行歴およびマダニ刺咬歴の有無などが判断のポイントとなる。臨床診断のポイントとして、EMの有無が重要である(本号4ページ)。しかし、EMの有無にかかわらず、ライム病に起因しうる症状(本号3ページ)を呈し、疫学的背景からライム病が疑われる場合には、病原体の検出もしくは抗体検出による実験室診断を行う。なお、稀であるが、急性肝炎を呈した症例も報告されている(本号6ページ)。

病原体検査:わが国では国外感染例、国内感染例ともにみられるため、抗体検出には患者の推定感染地における起因菌に適した血清診断用抗原を選択する必要がある。ライム病ボレリアに対する抗体上昇は遅く、感染後2〜3週間は低い抗体価で推移する。このため、ペア血清による確認が望ましい。

わが国では欧米同様、病原体の分離もしくはDNA検出も行われている。病原体検出に用いられる臨床材料は病変部皮膚組織もしくは髄液である。

国立感染症研究所細菌第一部でこれらの検査の実施および検査試薬類の提供が可能である(本号8ページ)。

治療:ライム病治療には抗菌薬投与が有効である。一般的に用いられる抗菌薬は、ペニシリン、アモキシシリン、セフトリアキソン、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、テトラサイクリンである。神経ライム症の場合は髄液移行の良いセフトリアキソンが第一選択薬である。小児例の場合にはアモキシシリンが用いられる。現在のところ、わが国を含め世界的に薬剤耐性菌出現の報告はない。

世界の状況:欧米では年間数万人規模でライム病患者が報告されていること、さらにその報告数も年々増加していることから、社会的にも重大な問題となっている。米国では、デラウェア州やコネチカット州などの東北部の州で罹患率は人口10万対50〜100程度である。また欧州ではオーストリア、スロベニア、およびこの近隣諸国では罹患率が同25を超えている(本号7ページ)。近年、南米やアフリカの一部の地域でもライム病の存在が疑われているが、病原体分離が行われていないため、今後のさらなる調査が待たれる。

当面のところ、近年日本人の感染例が報告されている欧米での感染に注意が必要であろう。

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