The Topic of This Month Vol.25 No.3(No.289)

麻疹 2001〜2003年

(Vol.25 p60-61)

わが国の麻疹患者は、永井らによると、2001年には年間28.6万人と推計され(平成14年度厚生科学研究岡部班「定点サーベイランスの評価に関するグループ」研究報告書)、米国の116人(2001年)と比較すると約2,500倍である。2003(平成15)年3月にとりまとめられた「今後のポリオ及び麻しんの予防接種に関する提言(厚生科学審議会感染症分科会・ポリオ及び麻しんの予防接種に関する検討小委員会)」に基づき、2003(平成15)年11月28日に厚生労働省健康局長から、麻疹の予防接種の標準接種年齢を「生後12月〜生後24か月」から「生後12月〜生後15月」に変更すること、生後15月を過ぎてしまった場合には、できるだけ早期に行うよう配慮すること、などが通知された[健発第 1128002号:2004(平成16)年1月1日からの実施](本号17ページ参照)。

また、2001年以降に流行を経験した地域は、自治体をあげて麻疹対策に取り組んでいる(本月報,Vol.25、12-13参照)。日本医師会、日本小児科学会、日本小児科医会等からも麻疹対策が提言され(本号3ページ参照)、「子ども予防接種週間」を創設し、2004年3月1〜7日に土日を含めて実施した(本号4ページ参照)。

感染症発生動向調査:2003年11月5日、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)改正に伴い、麻疹は4類感染症から5類感染症に分類変更になったが、定点からの報告は以前と同じである。

1982年以降の小児科定点からの麻疹患者報告数を図1に示す。2001年は定点あたり11.20人(年間患者数は33,812人)と1994年以降では最も多かったのに対し、その後の麻疹対策が功を奏し、2003年は定点あたり2.72人(年間患者数8,286人)と、過去20年間で最も少なく、2001年の4分の1に減少した。2001〜2003年の定点あたり患者報告数をみると、いずれの年も17〜19週をピークとする一峰性の流行パターンを示した。

都道府県別患者数をみると(図2)、小児科定点あたり20.0人を超えた県は、2001年の8道県から2002、2003年はそれぞれ0、1県と減少したのに対し、2.5未満の都道府県は、2001年の4県から26、33県へと著増した。県をあげて麻疹対策に取り組んでいる北海道(本号7ページ参照)、高知(本月報Vol.22、282-284参照)、沖縄(本号5ページ参照)等では2001年定点あたり20.0人以上から2002年2.5人未満へと急激に減少した。基幹定点あたりの成人麻疹患者報告数は、2001年は7都県で4.0人を超えたのに対し、2002、2003年はそれぞれ2、3都県であった。東京都と神奈川県は3年連続で4.0人を超えていた。

2001年に小児科定点から報告された麻疹患者の年齢は(図3)、1歳23%、0歳15%、2歳10%で、0〜2歳が報告患者の47%を占めたのに対し、2003年は、0歳は16%で変わらなかったものの1歳19%、2歳 7.3%に減少した。3〜9歳は不変であった。一方、年長児の割合は2001年10〜14歳11%、15〜19歳 3.5%、20歳以上 2.1%であったのに対し、2003年はそれぞれ15%、 6.3%、 3.7%に増加した。1984年や1991年の流行後は(図4)、患者数が少なくなると1〜4歳の割合が増加し5歳以上の割合が減少しているが、2001年の流行後は、2002、2003年と患者数が減少したにもかかわらず、1、2歳の割合が減少して、5歳以上の割合が増加しており、これまでには認められなかった現象である。また、基幹病院定点からの成人麻疹の報告においても患者の年齢分布に変化がみられ、特に1999〜2003年にかけて25〜29歳の割合が増加している(図3)。

麻疹ウイルスの分離:地方衛生研究所から感染症情報センターへの麻疹ウイルス分離報告は(2004年1月26日現在報告数)、患者数の減少にもかかわらず2001年117、2002年62、2003年177と増加しており、各地でウイルス株の調査をする傾向が高まっている。日本で分離された麻疹ウイルスの遺伝子型は、2001年にはD5型(沖縄ではD3型)がほとんどで、中国や韓国の分離株の主流であるH1型は川崎と東京で分離されていたにすぎなかった(本月報Vol.22, 278-279参照)。しかし、2002〜2003年は全国各地でH1型が分離された(本月報Vol.24,10, 191-192 & 262-263および本号1011ページ参照)。

感染症流行予測調査(本号12ページ参照):2000年の調査では(本月報 Vol.22, 275-277参照)、ゼラチン粒子凝集反応法(PA法、1:16以上が陽性)による抗体陽性者が1歳で52%、2歳で79%であったのに対し、2002年の調査では(図5)、1歳で73%、2歳で90%と増加した。1歳児の麻疹ワクチン接種率も45%から78%に増加しており、上述の患者の年齢とも併せて、2001年から始まった「1歳になったらすぐに麻疹ワクチン接種を」のキャンペーンが功を奏したと考える。一方、0歳児の抗体陽性者は0〜5カ月児で83%から67%、6〜11カ月児で32%から14%に減少し、移行抗体の消失が早くなっていることが推察された。また、定期接種対象年齢上限の生後90月(7歳半)以上にも5%前後の感受性者が残っていた(図5)。

麻疹対策の成果と今後の課題:2001年までの日本における麻疹流行の特徴は、小〜中規模の流行がワクチン未接種の1歳児を中心として常にどこかの地域で起こっていることであったため、1歳の誕生日を過ぎた子ども達にできるだけ早期にワクチンを接種する動きが全国的に認められた。その結果、1歳児のワクチン接種率と抗体保有率はともに増加し、2003年の患者報告数は過去20年間で最も少なく、2001年の4分の1となった。特に1、2歳児の割合が減少した。しかし、10歳以上の麻疹患者は増加し、成人麻疹についても、減少傾向は認められておらず、大学生の集団発生も起こっている(本号10ページ参照)。今後は1歳半の時点でワクチン接種率を95%に上昇させることによって、流行そのものを抑制し(本号3ページ参照)、増加している年長児への対策も含めてワクチン2回接種導入に向け、具体的な検討が必要な時期にきたと考える。患者数がこのまま順調に減少すれば、沖縄県や石川県で導入されている麻疹全数報告(本号8ページ参照)が必要になろう。ワクチン接種率、抗体保有率、ウイルス株の調査は継続して実施していくことが重要であり、今後もその強化が求められる。

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