The Topic of This Month Vol.27 No.4(No.314)

麻疹・風疹 2006年3月現在

(Vol.27 p 85-86:2006年4月号)

2005年の全国レベルでの麻疹、風疹の患者報告数は過去最低を記録し、全数報告を取り入れるなどして年間の麻疹発生ゼロを確認している自治体もある(本号3ページ4ページ参照)。麻疹患者の減少は、2001年以降の国、学会、各地の自治体、医師会等を挙げての対策(IASR 25: 60-68, 2004参照)が効を奏し、1〜2歳児の麻疹予防接種率が向上したことによるところが大きい(本号6ページ参照)。一方、風疹対策も積極的に取り組まれているが、全体の予防接種率はまだ十分なレベルに達していない。麻疹および風疹の患者発生を抑え、これに伴い先天性風疹症候群(CRS)の発生をゼロにするためには、まず1歳代における麻疹、風疹ワクチンの高い予防接種率を維持し、そして多くの諸外国ですでに導入されている2回接種の実施がわが国においても必要であるとの議論が行われていた(IASR 25: 60-61, 2004参照)。このような状況をふまえ、わが国でも麻疹と風疹の定期予防接種は2006年4月より乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチンを導入し、2回接種に切り替えられることとなった。

感染症発生動向調査:1994年以降の小児科定点(全国約2,500〜3,000カ所)からの麻疹と風疹の患者報告数、1999年4月以降の基幹定点(全国約500カ所)からの成人麻疹患者報告数の推移を週別に図1に示す。麻疹は2001年は定点当たり11.20人(累積患者数は33,812人、全国患者推計数は28.6万人)と、1993年以降では最も多かったのに対し、2003年は同2.72人(8,285人、5.5万人)、2004年同0.51人(1,547人、1.2万人)、2005年同0.18人(545人、4,200人)と、大きく減少している。それに平行して成人麻疹も2003年同0.98人(累積患者数462人)、2004年同0.12人(59人)、2005年同0.02人(8人)と減少している。風疹は1995年に男女小児に定期接種が行われるようになり、1999年以降患者数が大きく減少し(IASR 24: 53-54, 2003参照)、2003年は定点当たり0.92人(累積患者数2,795人、全国患者推計数2.2万人)まで減少していたが、2004年は同1.40人(4,239人、3.9万人)と増加し、2005年は同0.29人(895人、7,600人)と最低となった。

都道府県別患者数をみると(図2)、定点当たり2.00人を超える県は、2003年に麻疹で16都県、成人麻疹で5都県、2004年に麻疹で2県あったが、2005年は0県となり、2005年は麻疹、成人麻疹ともすべての都道府県が0.50人を下回った。風疹では2004年に7県が定点当たり2.00人を超えたが、2005年は0県となり、1県を除いてすべての都道府県が1.00人未満となった。

2005年に小児科定点から報告された麻疹患者の年齢は(表1)、従来同様1歳が最も多いが、1〜5歳の割合が2003、2004年に比べて相対的に増加している。成人麻疹は24歳以下は報告が無く、25〜44歳6例、65歳以上2例であった。2005年に小児科定点から報告された風疹患者の年齢は、1〜3歳の割合が相対的に増加し、10〜14歳の割合が減少している。

5類感染症として全数届出が行われているCRSの患者数は2000〜2003年まで各年1例であったが、2004年10例と増加し、2005年は2例で、計16例(男5例、女11例)であった。CRSの患者は小児科定点の風疹患者報告数の多い地域以外でも発生していることが注目される(本号10ページ参照)。

感染症流行予測調査(本号8ページ参照):麻疹に対する1歳児のPA抗体保有率(16倍以上)は、2004年度は75%であり、2003年度調査より13ポイント増加した。2歳児では92%まで上昇したが、これまでの定期接種対象年齢群(1〜7歳半)にも抗体陰性者(感受性者)が認められること、10代前半まで徐々に抗体価の低下が認められること等は、今後の麻疹対策を考える上で重要である。麻疹ワクチン接種率は1歳76%、2〜3歳93%となり、2003年の調査結果(1歳59%、2〜3歳84%)と比較すると、増加が認められる。

風疹に対するHI抗体保有率(8倍以上)は86%(女性90%、男性81%)で、2003年とほぼ同様の結果であった。しかし成人男性においては、約70%と低い。風疹ワクチン接種率は、1〜4歳でも75%と、麻疹に比較して低い。女性は20〜24歳で69%、男性は20〜24歳で56%、25〜29歳で42%と低くなっている。

予防接種法施行令の改正:2006(平成18)年4月1日より麻しん風しん混合ワクチンが用いられることになり、1期(生後12月〜24月)、2期(5歳以上7歳未満で小学校就学始期前の1年間にある者)の2回接種となった(http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1.html参照)。なお、今後麻しん・風しんそれぞれの単独のワクチンを予防接種法に基づく定期の予防接種のワクチンとして追加する予定である旨の方針が示されている(平成18年3月31日付 厚生労働省結核感染症課事務連絡)。また、接種漏れ者に対する措置を講ずる自治体が増加している(本号4ページ16ページ17ページ参照)。

今後の課題:麻疹、風疹ともに患者数が減少し、現行の定点報告では局地的な患者発生を探知できなくなってきている。このため、全数報告を導入し、実験室診断による確認などのサーベイランス強化を検討することが必要である(本号20ページ参照)。予防接種制度の改正により、2回接種法が導入された。今後も麻疹排除、CRSゼロに向けて(本号12ページ参照)、接種漏れ者対策(本号18ページ参照)、成人での感受性者対策など、さらに高い予防接種率を維持する戦略を構築していく必要がある。

なお、WHOは日本を含む西太平洋地域から2012年までに麻疹を排除(elimination)*することを目標としている。

*WHOが区分している麻疹排除(elimination)に向かう段階
第一段階 制圧(control)期:麻疹は恒常的に発生しており、頻回〜時に流行がおこる状態。麻疹患者の発生/死亡の減少を目指す時期
第二段階 集団発生予防(outbreak prevention)期:全体の発生を低く抑えつつ集団発生を防ぐことを目指す時期
第三段階 排除(eliminaion)期:国内伝播はほぼなくなり、根絶(eradication)に近い状態

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