The Topic of This Month Vol.32 No.9(No.379)

風疹・先天性風疹症候群 2011年8月現在
(Vol. 32 p. 250-252: 2011年9月号)

風疹は、トガウイルス科ルビウイルス属の風疹ウイルスによる感染症で、発熱、発疹、頸部リンパ節腫脹が3主徴である。症状がそろわない例や、麻疹や伝染性紅斑と似た症状を示す場合があり(本号8ページ9ページおよびIASR 32: 170-171, 2011)、確定診断には検査診断が必要である(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-14-02.html)。一般に予後良好であるが、脳炎や血小板減少性紫斑病、成人では一過性の関節炎を合併する場合がある。妊娠初期に風疹ウイルスに感染すると、白内障、先天性心疾患、難聴を主症状とする先天性風疹症候群(CRS)の児が生まれる可能性があり(IASR 24: 59-60, 200327: 94-96, 2006)、胎児死亡の報告もある(本号10ページ)。

2011年は7年ぶりに地域流行が見られており(本号6ページ)、風疹もCRSも、特異的な治療法はないことから、ワクチンによる予防が最も重要である。

感染症発生動向調査:風疹は2007年まで5類小児科定点把握疾患であったが、2008年から5類全数把握疾患になった(IASR 29: 53-54, 2008)。2008年以降の報告患者数は2008年294例、2009年147例、2010年90例と減少していたが、2011年は第30週時点で 272例となっている(図1)。2008年以降の報告患者803例中検査診断例は492例であった。臨床診断例の割合が54%と多かった2008年は麻疹が流行中で、麻疹が紛れ込んでいた可能性がある。

都道府県別報告数を図2に示す。2011年は、神奈川(55)、福岡(45)、大阪(41)からの報告が多く、成人男性の職場内集団発生が複数の自治体から報告されている(本号3ページ5ページ)。

患者の年齢は(図3)、2008年は0〜4歳が最多であったが、2011年は成人が全体の81%を占め、特に20〜40代が多く、性比3.1(20〜40代4.2)と男性が多い。

CRSは1999年4月から、急性脳炎は2003年11月5日から5類全数把握疾患とされ、2011年8月までにCRSが19例(表1)、風疹脳炎が1例(2008年に40代男性)報告された。CRS 19例のうち母親の予防接種歴が記録で確認されていたのは1例のみであった。13例は母親の妊娠中の風疹罹患歴が有り、4例は無かった。2005年以降のCRS 5例中3例の母親が海外で感染していたのが目立つ。

風疹ウイルス:風疹ウイルスは2つのClade、13の遺伝子型に分類され、日本では1960年代以降、1a、1D、1jが主流であったが、2005年以降ほとんど検出報告はなかった。現在、世界的に流行中の遺伝子型は1E、1G、2Bであり(本号11ページ)、2011年に日本で検出されている遺伝子型も1Eと2Bが多いことから(本号3ページ5ページ6ページ8ページ9ページ)、海外から持ち込まれた後、国内で急速に拡がったと考えられる。

遺伝子型がワクチン(1a)と異なっていても、血清型は単一であり、ワクチンの効果に問題はない。

風疹の予防接種:1977年に、CRS予防を目的として女子中学生に風疹の定期接種が始まったが、1995年から風疹流行の抑制を目的として生後12カ月以上90カ月未満の男女と男女中学生が定期接種の対象となった。2006年度から、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)による2回接種(第1期:1歳、第2期:小学校入学前1年間の5〜6歳)が始まり(IASR 27: 85-86, 2006)、2008〜2012年度の5年間の経過措置として、第3期(中学1年相当年齢の者:12〜13歳)と第4期(高校3年相当年齢の者:17〜18歳)にMRワクチンによる2回目の接種機会が追加されている(IASR 29: 189-190, 2008)。

2010年度の風疹含有ワクチンの接種率は、第1期96%、第2期92%、第3期87%、第4期79%であり、第1・2期は高いが、第3・4期はさらなる勧奨が必要である(本号13ページ)。

感染症流行予測調査(本号14ページ):2010年に全国15の地方衛生研究所の協力を得て、約5,000人の健常人を対象に風疹の赤血球凝集抑制(HI)抗体価が測定されている(図4)。1977〜1994年は女子中学生を対象に風疹の定期接種が実施されていたため、2010年度に30〜40代の女性のHI抗体保有率は90〜95%であったが、男性は70〜80%と低く、2011年の流行はこの年齢層の男性を中心に発生している。

一方、小児は、2006年度からMRワクチンを用いた2回接種が始まり、1歳児の風疹抗体保有率は66%、2歳児は95%まで上昇した。MRワクチン導入前の1歳児の抗体保有率が30〜40%であったことと比較すると、第1期にMRワクチンが導入された効果は大きい。図4で2回以上接種有りの者の割合が大きい3つの山は第2・3・4期それぞれの接種対象者の年齢相に相当する。

今後の風疹対策:わが国では2004年に厚生労働科学研究班から緊急提言が出され(http://idsc.nih.go.jp/disease/rubella/rec200408.html)、低抗体価の女性に対して注意喚起するとともに「CRSハイリスク例の確認、CRSリスクの正しい評価および無用な人工妊娠中絶の防止」を目的として、妊婦感染の相談窓口が設置されている(本号17ページ)。

WHOアジア西太平洋地域では、2015年までに風疹は人口100万対10人未満、CRSは出生数100万対10人未満を達成することを目標としており、複数の国で風疹含有ワクチンの導入が始まっている(本号18ページ)。風疹とCRSの排除を視野に入れた質の高いサーベイランスを実施するためには、可能な限り全例の検査診断が望まれる。

また、風疹対策に重要なMRワクチンの接種率を上げるには、文部科学省と連携して、中高生に対して麻疹・風疹対策の重要性、CRS予防について啓発する必要がある。家族(夫を含む)から妊婦への風疹感染も報告されているので(J Obstet Gynaecol Res 32: 461-467, 2006)、妊娠を希望する女性や妊婦の家族に対するMRワクチン接種が望まれる。職場内での集団発生を予防するためには、産業医との連携も視野に入れた成人への風疹対策も重要である。

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